クンドゥン(Kundunは、1997年にマーチン・スコセッシ監督が、チベット仏教の最高指導者ダライ・ラマ14世と彼の親族、そして亡命したチベット仏教徒達の協力によりダライ・ラマ14世の半生を描いた作品になります。

この映画の題名クンドゥンはダライ・ラマ14世の尊称とのことで、映画では法王と訳されております。

マーチン・スコセッシの映像作品にはカトリックを扱った宗教作品が幾つかありますが、本作は現代の世界政治に直截関わる社会派作品としての側面もあるのではないかと考えます。

脚本のメリッサ・マシスンや音楽のフィリップ・グラスも共にチベット仏教徒であることや、成人したダライ・ラマ14世を演じたテンジン・トゥタブ・ツァロンが実際にダライ・ラマ14世の甥の息子であることからも、マーチン・スコセッシの熱意ある周到さがこの映画に反映されていることが伺えます。

映画は先代ダライ・ラマ13世の転生者として認定される場面から、1959年のインドへの亡命に至る迄のダライ・ラマ14世の人生が描かれますが、5,000人余りの武力しか持たなかったこともあり、排他的な宗教政策を執る隣国の強圧的な介入を招いてしまうことになります。

映画は、最高指導者ダライ・ラマ14世の成長と日々増大するチベットの民の苦悩が描かれますが、チベット人民の最善の道を平和的に模索するダライ・ラマ14世に、「宗教は毒である」とのチベット仏教徒に対する隣国からの最後通告とも言える指導部の見解が告げられます。

この映画で観られる様々な光と絢爛たる砂曼陀羅に彩られた映像は、天の近さを感じさせる雪嶺と共に、チベットの民と不可分な宗教文化とそれを育んだ自然による異次元世界を観客に提示します。

個人的に興味を惹いたのは、ダライ・ラマ14世であるテンジン・トゥタブ・ツァロンが、寺院からチベットの人々を見続けていた望遠鏡を使ってチベットの雪嶺を亡命先のインドから食い入るように見るシーンです。

自身がチベットの自然と文化が分ち難いチベット仏教徒の魂であるとの自覚の下、信念を貫く宗教者が描かれた奥行きを感じる作品として好きな映画です。

 

§『クンドゥン(Kundun)』