アーウィン・ウィンクラー監督(以下敬称略)が2004年に撮った『五線譜のラブレター(De-Lovely)』は、作曲家コール・ポーターの半生を描いた作品として、マイケル・カーチスが監督しケイリ―・グラントが主演した1946年製作の『夜も昼も』(※)と共に、音楽ファンやミュージカル映画ファンには愉しめる映画の一つではないかと考えます。
この映画はケヴィン・クライン(役名:コール・ポーター)とアシュレイ・ジャッド(役名:リンダ・ポーター)によるコール・ポーター夫妻の肌理細やかな愛情を描いたミュージカル作品だと思います。
『夜も昼も』との違いを感じる部分はコール・ポーター自身がセクシャル・マイノリティ(LGBT)であったことに触れられていることですが、アシュレイ・ジャッド演じる妻リンダとの深い愛情がメインに描かれている点では両作共通しており、コール・ポーターによる文学的な香り漂う歌詞と至極の旋律の数々が生み出される過程を垣間観させてくれる点では、音楽好きの自分には共に溜息が出る作品です。
コール・ポーターの生涯を描いていることから基本的なストーリーは共通しており、同時代の作曲家アーヴィング・バーリンの助力もあって舞台ミュージカルの成功によりハリウッドに進出しますが、多忙によるストレスと慢心による夫婦間の亀裂により二人は別居することになります。
ここでケヴィン・クライン(コール・ポーター)の全てを知りながらも、愛情を持って接してきたアシュレイ・ジャッドの苦悩の日々が描かれますが、ケヴィン・クラインの落馬事故とその後遺症により二人の生活が復活します。
アシュレイ・ジャッドが不治の病を患ってからの二人のシーンは、紆余曲折の末に至った二人の愛情の深さが描かれており、素晴らしい旋律に彩られたこの音楽映画のミュージカル・エンディングを尚一層印象的にしていると思います。
ダイアナ・クラール、ナタリー・コール、エルビス・コステロ等の綺羅星の様なスター歌手がスクリーン上で歌唱する豪華なコール・ポーター・ソング・ブックとしても光彩を放つ、音楽好きの自分には嬉しい好きな映画です。
(※)作品中、『夜も昼も』の試写を晩年のコール・ポーター夫妻が観て忌憚の無い感想を述べるシーンがあります。
PS 『夜も昼も』と本作で自分が感銘を受けるのが、メロディとコール・ポーターの詞が生み出す絶妙の相乗効果です。
作詞も手掛ける作曲家であることから、スティーブン・フォスター等と共に後のカントリー、フォーク、ジャズ、ロック系の米国ソングライターの先駆的な存在ではないかと考えます(ジャズでは個人的にファッツ・ワォーラー、マット・デニス等が思い浮かびます)。
本作ではエンディング・ロールにコール・ポーター本人の歌唱による「ユー・アー・ザ・トップ(You're The Top)」が流れますが、映画に係わった人達や自分を含め観客の多くが素晴らしい楽曲が連続するこの作品を観て、「ユー・アー・ザ・トップ」とコール・ポーターを讃えるのでないかと想像します。
§『五線譜のラブレター(De-Lovely)』
ダイアナ・クラール↑
『夜と昼と』を観終わって↑
ナタリー・コール↑
エルビス・コステロ↑