ピエトロ・ジェルミ監督が自身で主演した1956年のイタリア映画鉄道員(Il Ferroviereは、ギターによる哀調を帯びたテーマ曲が心に滲みる作品ですが、この映画では鉄道員の家族や友人達がエドアルド・ネヴォラ演じる少年(役名:サンドロ・マルコッチ)の目線を通して描かれております。

この作品の少年を観ていると、描かれる世界は大きく異なりますが、自分はオスカー・シュレンドルフ監督のブリキの太鼓(1979)のオスカル少年を連想してしまいます。

ブリキの太鼓では、自らの意志で成長を止めたダーフィト・ベンネント演じるオスカル少年が、開戦前から終戦までの第二次世界大戦下のドイツと大人の世界を鏡の様な眼で見続けた作品ですが、鉄道員のエドアルド・ネヴォラによるサンドロも、家族を中心とした大人の世界を、透過率の高い少年の瞳を通して観客に映し出している様な気がします()。

映画は特急列車のエリート鉄道機関士ピエトロ・ジェルミ(役名:アンドレア・マルコッチ)の5人家族によるクリスマスの一日から始まります。

しかしながら、その家庭は決して平穏とは言い難く、長男レナート・スペツィアリ(役名:マルチェロ)はギャンブルにより借金を負い、長女シルバ・コシナ(役名:ジュリア)は望まない結婚と流産から夫以外の男性に想いを寄せることになり、やがて二人は家を出て行くことになります。

ピエトロ・ジェルミも運転中に不可抗力の人身事故に遭遇した動揺から、あわや大惨事となりかねないミスを起こしてしまい、特急列車の勤務を解かれて減給処分となります。

その後、自身の信念からスト破りをしてしまうことで、同僚や友人達から距離を置かれる展開になりますが、エドアルド・ネヴォラ演じる少年と親友のサロ・ウルツィ(役名:ジジ・リヴェラーニ)は、そんな失意のピエトロ・ジェルミに優しく寄り添い続けます。

ラストはオープニングと同じクリスマスの夜のシーンですが、そこで描かれる暖かな世界とエンディングでピエトロ・ジェルミが奏でるギターは長い残響と共に心に残ります。

クリスマスがラストに描かれる映画として思い出す作品は、素晴らしき哉、人生!(監督:フランク・キャプラ 1946)やグリーンブック(監督:ピーター・ファレリー 2018)を思い出しますが、この作品のラストも人間愛を感じさせてくれる展開に映画を観る倖せに浸れる好きな映画です。

 

ブリキの太鼓ではダーフィト・ベンネントが演じたオスカルは声でガラスを破壊しましたが、この作品のエドアルド・ネヴォラ演じる少年は姉の不貞相手の自動車の窓ガラスをパチンコで破壊します。

 

PS 拙文だと、長女のシルバ・コシナ(役名:ジュリア)は極めて奔放な人物であるかの様な印象を与えかねませんが、この作品ではピエトロ・ジェルミと人生の行く先との間で揺れ動く繊細な存在として描かれていると思います。

 

§『鉄道員』