山崎貴監督のALWAYS 三丁目の夕日(2005、続編 2007)は、西岸良平の原作「夕焼けの詩」を中学生の頃から愛読しておりましたので、嬉しい映画化でした。

自分は封切り間もない頃、休暇を利用してこの作品を「有楽町日劇1」で観ましたが、平日にもかかわらず映画館入口前で多くの人が行列していた光景を思い出します。

原作中ひと際思い入れのあるキャラクターは鈴木オートの男性従業員六ちゃんの妹さくらちゃんですが、映画では六ちゃんが堀北真希演じる六子になっている関係で、さくらちゃんのキャラクターを微妙に六ちゃん(六子)に重ねている部分がある模様です。

映画で印象に残るシーンは三浦友和(役名:宅間史郎医師)がお土産の焼き鳥を手に帰宅するシーンで、酔って外で寝込んだ時に空襲で失った妻娘を思い浮かべるシーンには胸が詰まります(1)。

あとは、続編のシーンになりますが、薬師丸ひろ子(役名:鈴木トモエ)の過去の恋人との日本橋における邂逅場面は、昭和30年代の映像で既にしてノスタルジックな気分に浸っている時に、戦争が無ければ人生が変わっていたであろう二人が出逢うという流れは、軀のどこかがざわつく感じになります。

本作の封切り以降、TVで昭和の映像や世相が映る時のBGMが本作で使われた音楽になりましたが(2)、ドキュメンタリーのBGMとして敬愛する加古隆(3)が作曲した「パリは燃えているか」も、20世紀のテーマとして使われることが多いのと同様、近年の名旋律ではないかと考えます。

修学旅行や帰省で上野発の夜行「八甲田」に乗り、青函連絡船で海峡ラーメンを食べた世代には改札口前にロック・カフェが無かった頃の冒頭の上野駅映像に心がざわつきますが(4)、映画では東京タワーとその近辺が登場することも個人的に嬉しい作品です。

山崎貴監督は西岸良平の「鎌倉物語」も2017年にDESTINY 鎌倉物語として映画化しましたが、そちらは複数の男女の永遠の絆を描いたスピリチュアル・ファンタジーとして好きな作品です。 

 

1)近年、歳の所為か今は存在しなくなったもの(人物)が登場する夢を観て目覚めた時に感じる、夢の現実感の強さによる喪失感が激しくなって来た様に感じます。

その意味で、この映画シリーズの夢や回想シーンは胸に迫るものがあります。

 

2)佐藤直樹による本作の音楽は日本アカデミー賞・最優秀音楽賞を受賞。氏は嘉義農林学校野球部の戦前の活躍を描いたKANO 1931海の向こうの甲子園(監督:馬 志翔 2014)の音楽も担当。

 

3)映画の感想から逸脱して恐縮ですが、加古隆がパリ音楽院を卒業して帰国した頃、天才パーカッショニスト富樫雅彦と共演した1970年代後半の一連のフリー・インプロヴィゼーション作品を自分は敬意の念を持って愛聴しております。

 

4)昭和世代の北の地方出身者にとって、長距離線のターミナル駅としての上野駅は特別な意味があるのではないかと思います。

現在、東京駅も北の玄関口となっておりますが、休日に美術館・博物館・動物園や美食処の多い上野界隈を散策することは自分にとって近年のささやかで贅沢な趣味になっております。

 

PS 3作目は「夕焼けの詩」の映画化と言うよりは、前2作のスピン・オフという感じですが、六ちゃんが心に決めた菊池孝太郎(森山未來)が鈴木オートに挨拶に来て、無事ウイスキーを振舞われるまでの件が好きです。

あと、好事家情報ですが、西岸良平は細野晴臣の高校・大学時代の同級生で一緒に漫画を共作していたとのことです。

大瀧詠一のラジオ番組「ゴー・ゴー・ナイアガラ」ゲスト出演時に細野晴臣は、机が隣だった時があったことを語っていました。

 

⇒2017年12月に引越し前のブログに書いた内容の変更・加筆による再掲載です。

 

§『ALWAYS 三丁目の夕日