MGMミュージカルの名作『錨を上げて』(1953)、『ショウ・ボート』(1952)、『アニーよ銃をとれ』(1951)を撮ったジョージ・シドニー監督が1944年にエスター・ウイリアムス(役名:キャロライン・ブルックス)を主役に撮った、水中バレエをメインとするアクア・ミュージカル『世紀の女王(Bathing Beauty)』は後年製作された『水着の女王』(監督:エドワード・バゼル 1949)同様、水中バレエ以外にも音楽ファンを愉しませてくれる作品ではないかと考えます。
リナ・ロメイを歌い手とするラテン・ビッグ・バンドのザヴィア・クガート楽団、バリトン歌手のカルロス・ラミレ、ベニー・グッドマン楽団の花形トランペット奏者として鳴らしたハリー・ジェイムス楽団と名歌手ヘレン・フォレスト、技巧派オルガン奏者エセル・スミスが登場し、歌曲部分に華やかな彩りを添えております。
レッド・スケルトン(役名:作曲家スティーヴ・エリオット)とザヴィア・クガート楽団は共に『水着の女王』でも後に共演しますが、彼のコメディアンとしての明るさが水中バレエを見所に置くラブ・コメディ・ミュージカルにマッチしている様に思います。
従って本作は、エスター・ウイリアムスを中心とした水中バレエ、スイング・ジャズやラテン音楽、コメディ、ラブ・ロマンスが盛り込まれたテクニカラー映像による娯楽ヴァラエティとして、戦時下の観客の心を照らしたのではないかと想像します(※2)。
内容は、エスター・ウイリアムスとレッド・スケルトンの結婚式がレッド・スケルトンの遅筆に業を煮やした水中ショーのプロデューサーによって、彼が既婚者であると虚偽の情報を用いて妨害されますが、それを真実と思い込んでしまったエスター・ウイリアムスが、結婚を解消して職場である女性専門の大学に戻ることになります。
身に覚えのない重婚未遂者にさせられたレッド・スケルトンは、汚名を晴らすべく強引かつ合法的に大学に入学してエスター・ウイリアムスに真実を告げようとしますが、エスター・ウイリアムスを筆頭に学校関係者が彼を放校処分にすべく画策する件と、それを巧みに躱(かわ)すレッド・スケルトンの芸達者な絡みは愉しめます。
誤解が解ける段からレッド・スケルトンが作曲を請け負った水中ショーにエスター・ウイリアムを出演させることにより、止まっていた彼の筆が一気に譜面を走りだす展開となります。
ラストでハッピー・エンドの流れをレビューで締めくくる演出に舞台ミュージカル的な歓びを覚える、煌びやかな映像と音楽が愉しい好きなミュージカル映画です。
(※)時局を反映したミュージカル映画が見受けられる頃の作品ですが、本作は戦時色を感じない作品になっております。
PS 100メートル自由形世界記録保持者だったエスター・ウイリアムスによるアクア・ミュージカルは、ラブ・コメディ・ミュージカルとしても音楽とコメディが詰まったヴァラエティ作品としても愉しめますが、水泳をクライマックスに据えていることからか、音楽も映像も色彩感に溢れた華麗な作品だと思います。
ザヴィア・クガート楽団のカラフルな衣装とラテン音楽、黄金色に輝く煌びやかなホーン・セクションとストリングスによるハリー・ジェイムス楽団、プールの青と原色の水着のコントラスト、当時の耳にはシンセサイザー登場の様に聴こえたであろうチューニングを駆使したオルガンの響き等は、現在観ることが出来るテクニカラーによるリマスターで愉しむことが出来ます。
§『世紀の女王』
ザヴィア・クガート楽団↑
ヘレン・フォレスト↑