テイラー・ハックフォード監督の愛と青春の旅だち(An Officer And A Gentleman(1982)は、ジョー・コッカとジェニファー・ウォーンズによって歌われ大ヒットした主題歌「Up Where We Belong」がアカデミー歌曲賞、フォーリー軍曹を演じたルイス・ゴセット・ジュニアがアカデミー助演男優賞を受賞した恋愛作品として記憶に残る作品です。

それ以外にも個人的には、バッファロー・スプリングフィールド時代からニール・ヤングと組んで、1960年代後半から70年代前半にかけてロック音楽に影響を与えたジャック・ニッチェ()が映画音楽を担当した作品として思い入れがあります。

先日、久し振りにこの映画を観ましたが、叱責を覚悟で敢えて平たく書かせて頂くと、本作は縦糸にアメリカン・ドリームとシンデレラ・ストーリーを組み込んだボーイ・ミーツ・ガール形式のハッピー・エンド作品ではないかと考えます。

しかしながら、この映画が際立っていると思われるのは、航空戦闘員訓練という過酷な試練の日々の中で、教官と同僚との間に築かれる信頼が描かれていることと、互いにかけがえのない存在であるとの確信に至るまでの恋愛過程が丁寧に描かれていることにより、心の奥に深く入り込む作品として多くの人に愛される映画になったのではないかと思います。

この作品で描かれるタトゥーの入ったリチャード・ギア(役名:ザック・メイヨ)とルイス・ゴセット・ジュニア演じる鬼教官フォーリー軍曹とのやり取りは、次第に立場を超えた人間対人間の火花散る対峙となり、リチャード・ギアの恋人デブラ・ウィンガー(役名:ポーラ・ポクリフキ)の紙工場の同僚リサ・ブロント(役名:リネット)と軍属サラブレッドのデヴィット・キース(役名:シド)との恋愛に生じる悲劇が、真の恋愛の姿というものを逆光の様に浮かび上がらせている様に思えました。

訓練シーンやリサ・ブロントとデヴィット・キースの恋愛悲劇は、通常の恋愛映画で描かれるシーンとは肌触りがやや異なる、人生の厳しい側面を意識させるシビアなものであることから、このラブ・ロマンス作品の終焉で感じるカタルシスに自分は甘い苦みを感じてしまいます。

 

)ジャック・ニッチェはフィル・スペクターとのコラボレーションや、エクソシスト(監督:ウィリアム・フリードキン 1973)、カッコーの巣の上で(監督:ミロス・フォアマン 1975)、スタンド・バイ・ミー(監督:ロブ・ライナー 1986)等の映画音楽に携わっております。

バッファロー・スプリングフィールド時代(1966~)からニール・ヤングがソロ活動を開始した数年間に二人がコラボレーションした諸作は、キング・クリムゾンやピンク・フロイド等のプログレッシブ系のロック作品に刺戟を与えたのではないかと思う時があります。

 

PS 私事で恐縮ですが、2010年に宝塚歌劇団星組が愛と青春の旅だちをミュージカル舞台化した作品を観ました(配役:柚希礼音<ザック・メイヨ>、夢咲ねね<ポーラ・ポクリフキ>、凰稀かなめ<フォーリー軍曹>、紅ゆずる<シド>、白華れみ<リネット>・・・)。

個人的に再演を望む演目の一つです。

あと愛と・・・系の邦題に郷愁を感じます。

恋愛が大きく描かれている作品でありながら、原題直訳ではそれが隠れがちな作品に命名されていた様な気がします。

 

§『愛と青春の旅だち