敬愛する細野晴臣が2017年に上梓した「映画を聴きましょう」(キネマ旬報社)は、キネマ旬報に連載された文章に中沢新一との対談を加えた本ですが、細野晴臣のこれまでの著作や1970年代に「ライト・ミュージック」(1)に寄せていた文章から垣間見ることが出来た映画との関わりが網羅的に書かれていることから、その肌理細やかで興味深い内容により一日で読了してしまいました。

特にヴァン・ダイク・パークスやランディ・ニューマン(ニューマン・ファミリー)の件には初めて知ることが多かったので強く引き込まれましたが、音楽映画や西部劇・SF作品に対する造詣の深さと作曲家に対するミュージシャンとしての視点には強い感銘を覚えました。

個人的に音楽映画(含ミュージカル映画)や近年の映画に関する氏の愛情に溢れるコメントや忌憚の無い意見の中に自分の考えと一致した箇所を見付ける度に嬉しさを覚えました。

この本にはプロ・ミュージシャンとしての積年の経験に基づく貴重な情報が多いことから(2)、自分にとって今や映画・音楽のリファレンス本の一つであると考えております。

本書における音楽映画や映画音楽に係わった音楽家・作曲家に関して書かれたコメントには、氏の並々ならぬ愛情を感じますが、折々書かれている映画封切り時に流行っていた音楽に対する率直なコメントも新鮮でした。

特に一世を風靡したイージー・リスニングやポップスに対する再評価(ポール・モーリア、ミッシェル・ポルナレフ等)を匂わす文章には自分も首肯してしまいました。

巻末の中沢新一との対談は予想以上に興味深く、二人のミュージカル・アニメーション作品に対する造形の深さ、就中ディズニーの古典作品への強い愛着には言い知れぬ欣びと感銘を受けました。

 

1)ヤマハが出版していた月刊音楽雑誌「ライト・ミュージック」を1975年前後に購読しておりましたが、細野晴臣、大瀧詠一、山下洋輔(「風雲ジャズ帖」)等のミュージシャンの文章や最新の洋楽曲の楽譜・奏法・楽器情報・音楽記事が掲載されておりました。

 

2)黒澤明やフェデリコ・フェリー二はラテン音楽(マンボ)を効果的に使う術に長けている等。

特に用心棒(1961)で三味線により奏でられるラテン演奏は本書に数回登場します。

 

PS 自分はホラー作品に関しては不得手なジャンルであることから、本書に少なからず登場するホラー関連の情報は残念ながら判りませんが、それらの映画音楽も氏の多様な音楽作品の糧となっているのではないかと思いました。

 

§「六本木新国立美術館前 2019年4月某日」