マイケル・アプテッド監督の『歌え! ロレッタ愛のために(Coal Miner’s Daughter)』(1980)は、カントリー歌手ロレッタ・リンをシシー・スペイセクが演じる伝記映画ですが、『キャリー』(監督:ブライアン・デ・パルマ 1977)で戦慄の演技を披露したシシー・スペイセクが吹き替え無しの見事な歌唱と演技によりアカデミー主演女優賞を受賞した作品です。
この作品は自分にとってロレッタ・リンの炭鉱夫の父親がザ・バンドのレヴォン・ヘルムであることから(※1)興味を抱いた映画でした。
夫役のドゥーリトル(‘ドゥー’)を若きトミー・リー・ジョーンズが演じており、奔放かつ不器用な生活態度でロレッタ・リンを悩ませながらも、自然や家族を愛し、巡業に明け暮れる妻の心の家(Home)として、ロレッタ・リンを柔らかく受け止めるという難役を見事に演じております。
ケンタッキーの炭鉱で生まれた彼女が13歳で結婚し、4人の母親としての人生を送る中でトミー・リー・ジョーンズにプレゼントされたギターをきっかけに、ナッシュヴィルにあるC&Wの殿堂ライマン公会堂からのラジオ番組「グランド・オール・オプリ(※2)」に出演し、一気に人気歌手となる過程は、自分の様なカントリー音楽に精通していない人間でも感情移入を伴うスリルを感じます。
ロレッタ・リンが師と仰いだビヴァリー・ダンジェロ演じるパッツィ・クラインが、デビュー当時の彼女を公私にサポートしますが、彼女が飛行機事故で世を去り、トミー・リー・ジョーンズがマネージャーを辞めて家庭に戻ったことや、過密なスケジュールによりロレッタ・リンの精神と軀が徐々に蝕まばれ、遂にラス・ヴェガスの大舞台で歌えなくなってしまいます。
ステージで一人悲しみに暮れる彼女を居合わせたトミー・リー・ジョーンズが抱きかかえて家に連れて行きますが、寡黙さの中に二人の深い愛情が感じられるシーンとして強く印象に残りました。
この映画のラスト近くでパッツィ・クラインに感謝を捧げて彼女の代表曲「Sweet Dreams」(※3)を歌うシーンや、父に捧げた「Coal Miner‘s Daughter」を歌うシーンは、家族や友人に支えられたロレッタ・リンと彼女が歌に託した感謝の念が伝わる心に滲みる映像だと思います。
(※1)レヴォン・ヘルムは映画の中でラジオから流れる「Blue Moon Of Kentucky」(ビル・モンロー)の歌唱を担当しております。
(※2)ニール・ヤングがグランド・オール・オプリで使われたライマン公会堂のコンサートをジョナサン・デミが撮った『ハート・オブ・ゴールド~孤独の旅路~』(2006)は、音楽ドキュメンタリーとして好きな作品です。
(※3)パッツィ・クラインの「Sweet Dreams」は個人的にエミル―・ハリスの歌唱で耳に馴染んでおりました。
§『歌え! ロレッタ愛のために(Coal Miner’s Daughter)』