侯孝賢(ホウ・シャオシェン)監督が1984年に当時の台湾を舞台に撮った冬冬の夏休み(トントンのなつやすみ)は、母が胆のう疾患で入院中であることから祖父の暮らす台北近郊の銅羅で冬冬(トントン)と妹の婷婷(ティンティン)がひと夏を過ごす映画ですが、子供時代に自然に囲まれた親類の許で夏休みを過ごした経験がある人には、この作品を郷愁と共に観ることが出来るのではないかと考えます。

本作では彼等の母親が重い病で入院していることから、土地の子供達との愉しい夏を描きつつも、兄妹に時折感じられる寂しげな感じが繊細に描かれている様に思います。

この作品で驚かされるのは、学校の卒業式で歌われる「仰げば尊し」とエンディングの「赤とんぼ」ですが、前者では卒業生代表が歌に合わせて、これまでの想い出に残る学校行事を羅列する映像もあることから一層興味深く感じます。

この作品は祖父の許で過ごす子供の夏休みを描いておりながら、大人達にも個々の人生にとっての事件が次々と起こります。

それらは純朴な村の女性である寒子(ハンズ)が雀獲りの男により妊娠するも木から落ちて流産すること、叔父の彼女が妊娠することで祖父が激昂し叔父が家を出るものの幼馴染の強盗を匿ってしまい警察沙汰になること、妹の婷婷が列車に轢かれそうになるが寒子(ハンズ)に間一髪で助けられること等ですが、この映画ではそれらの事件が川遊びの仲間外れにされた妹が冬冬達の服を川に捨てるシーンや冬冬がラジコンを亀と交換するシーンと大きく変わることなく、ひと夏の出来事として淡々と描かれている印象を持ちました。

個人的な感想ですが、子供の頃の自然に囲まれた夏の日々と母への思慕が描かれた作品として、観終わった感触が宮崎駿監督のとなりのトトロ(1988)と共に暖かくもどこか切なくなる、愛して止まない侯孝賢監督作品です。

 

§『冬冬の夏休み』