青いパパイヤの香り(1993)のトラン・アン・ユン監督が2000年に撮った夏至は、青いパパイヤの香りに続きトラン・ヌー・イエン・ケーが主役格の三女を演じるハノイの三姉妹の物語になります。

母の命日に三姉妹グエン・ニュー・クイン(役名:長女スオン)、レ・カイン(役名:次女カイン)、トラン・ヌー・イエン・ケー(役名:三女リエン)が集まるシーンからこの映画は始まりますが、映画は三姉妹のそれぞれの夫、愛人、夫の愛人、ボーイ・フレンド絡みの秘めた関係を抱えていく展開となります。

そこで、彼女や彼女の夫達の秘めた行動を紡ぎ合わせるかの様に、冒頭暗示される亡き母の実父以外の男性との恋愛のエピソードを観客が意識するのですが、ラストにそれらが秘め事ではなくなった後でも、決定的な破局とはならずに彼等の生活が今後も淡々と繰り返される様な柔らかなエンディングとなっていることに、胸の奥にこの映画が沁みこむ様な感銘を受けました。

あと、この作品で強く印象に残ったこととしては、画面を支配するかの様に緑が印象的に使われていることで、陽の光加減によって変化する様々な緑がスクリーンに映し出される様は青いパパイヤの香り同様、アジア的な湿度を感じるトラン・アン・ユン監督による秀逸な演出ではないかと考えます。

本作品のどこか郷愁を誘う草木を感じさせるパステル調の緑は、人と自然との繋がりを感じさせてくれる様な気がします()。

この作品のラストに父の命日を前にした三女のトラン・ヌー・イエン・ケーが「誕生日は毎年軽く祝うものだけど、命日は違う」と呟く様に言う、現在の自分達に繋がる父母(故人=祖先)への想いに含みを感じるセリフの余韻が響く、肌理の細かい織物の様な作品だと思います。

 

)素人考えで恐縮ですが、後期小津安二郎監督作品の赤(アグファ・フィルム使用)、北野武監督の青と共に本作の緑は強い印象が残ります。

 

§『夏至』