ヴィンセント・ミネリ監督のミュージカル映画『ブリガドーン』(1954)は、奇跡の幻想ミュージカルとして好きな作品です。
ここでは、8頭身のバレリーナであるシド・チャリシーが名作『バンド・ワゴン』で魅せたフレッド・アステアとのデュエット・ダンス(’Dancing In The Dark’)を彷彿とさせる、ヒースの丘でのデュエット・ダンスをジーン・ケリーと踊るシーンが白眉で(’Almost Like Being In Love’)、終盤にも繰り広げられる華麗なデュエット・ダンスと共にこの作品の透明でファンタジックな香りを演出している様に思います。
100年に1度しか現れないスコットランドの村に迷いこんだジーン・ケリーと村の女性シド・チャリシーのLove At First Sightによる恋愛譚ですが、観る人によっては軀の奥が疼く感覚を覚える作品なのかも知れません。
それは、一度アメリカに帰ったジーン・ケリーが幻想の村「ブリガドーン」とシド・チャリシーのかけがえのない清廉さに気付く件の演出や(周囲の人々や婚約者の世間ずれした会話が突如ブリガドーンの音楽に変わるシーン等)、ラスト近くに語られる
「理屈に合わない事も信じれば、それが真実になる時もある。でも人は多くを失わねばそれに気付かない」 、
「誰かを深く愛すればどんな事も可能になり、奇跡も起こる」
というセリフにより引き起こされる憧憬の様な感覚ではないかと思います。
しかしながら、この作品はセット撮影の素晴らしさにも驚きを禁じ得ません。セットに再現された森や川、そして遠景に続く道や風景はこれまで観て来たセットによる作品の中でも抜きん出たスケールとリアルさを感じます。
それにより村の結婚式のダンス・シーンや花の咲くヒースの丘のデュエット・ダンスの華麗さと夢々しさが一層際立っているのだと思います。
ジーン・ケリーのミュージカル作品中、躍動的なタップやコメディ部分が抑えられている作品なので、他の作品ほど脚光を浴びていないのかも知れませんが、観れば色々なことを考えさせられる奥深いミュージカル・ファンタジーとして自分はこの映画をとても愛しております。
PS 絢爛豪華なMGMミュージカル作品のリマスターを切望しております。
現在入手可能なリマスターされていない一連のMGMミュージカル作品を観ると、リマスターによる画質・音質向上の伸びしろがかなり期待出来ると思います。
§『ブリガドーン』
