『ハロー・ドーリー!』は、ジンジャー・ロジャースも演じた1964年の舞台ミュージカルを大御所ジーン・ケリーが1969年に監督した作品で、振付けは『バンド・ワゴン』(監督:ヴィンセント・ミネリ 1953)、『略奪された七人の花嫁』(監督:スタンリー・ドーネン 1954)、『野郎どもと女たち』(監督:ジョセフ・L・マンキーウィッツ 1956)を担当したマイケル・キッドが担当した20世紀フォックスの作品になります。
この作品に関しては、何よりも本作で客演しているルイ・アームストロング(tp,vo)が1964年に大ヒットさせた主題歌が思い出されますが、「ハロー・ドーリー!」は1964年5月9日付けのビルボード全米首位を記録し、1964年2月1日から「抱きしめたい」、「シー・ラブズ・ユー」、「キャント・バイ・ミー・ラブ」と続いていたビートルズの連続チャート首位記録をストップさせた曲としても名高いので、ルイ・アームストロングが好きな自分としても思い入れのある作品になります。
この映画を観た時に驚いたのは、19世紀後半のニューヨークを再現したセットの規模で、遠景写真だと思っていた冒頭の都市画像が実際に動き出した時にはそのスケールに驚かされました(※1)。
映画ではドーリーに起用されたバーブラ・ストライザンドによる歌と他の出演者の踊り(※2)を中心にしたミュージカルですが、バーブラ・ストライザンドに関しては囁きの様に歌う時でもその歌唱力の素晴らしさに引き付けられました。時にレチタティ―ボやラップの様に歌う時でも、どの歌詞も科白の様な明瞭さで丁寧に英語圏の観客に届いているのではないかと考えます。
バーブラ・ストライザンドと言えば、自分は大好きな映画『追憶』(監督:シドニー・ポラック 1974)をその主題歌と共に思い浮かべますが、彼女がジャズ・クラブ出演中のマイルス・デイビス・クインテットに飛び入りで歌った稀有な経験があるというエピソードも思い出します(※3)。
この映画で印象に残るのは、寡婦バーブラ・ストライザンドが、好意を寄せるウオルター・マッソー演じる吝嗇気味の男性の心を変えようとする決意の際に、「パレードが来る前に、人生にもう一度参加する」と決意し歌う件と、ラストにウオルター・マッソーが、バーブラ・ストライザンドの亡夫が生前語っていた信条である「金は肥やしと同じ。若い芽を育てるのに使わなければ意味は無い」をバーブラ・ストライザンドへのプロポーズの際に言うシーンです。
バーブラ・ストライザンドが歌う名曲の数々と群舞の見事さが際立つ、20世紀フォックスによる舞台映画化ミュージカルとして好きな作品です。
(※1)今ではCG技術等で実物大の巨大セットを組むことは少なくなりましたが、1980年代以前のセット撮影で撮影された映像の質感が好きです。
(※2)特にレストランでのウエイターの群舞と、それに続いてバーブラ・ストライザンドが登場して主題歌を歌うシーンは圧巻だと思います。
(※3)マイルス・デイビス(tp)の自伝に、飛び入りで彼のバンドで歌った女性シンガーがバーブラ・ストライザンドだったとの記述があります。
§『ハロー・ドーリー!』

