ミュージカル映画『回転木馬』(監督:ヘンリー・キング 1956)は、モルナール・フェレンツの戯曲「リリオム」をリチャード・ロジャースがブロードウエイ・ミュージカル化した作品を映像化したものとのことです。
先日この映画のことを調べたところ、森鴎外が「リリオム」を「破落戸(ごろつき)の昇天」として、翻訳していたとのことでしたので、家にある選集収録の同作を読みました(※1)。
本作は、生前に愛する妻シャーリー・ジョーンズ(役名:ジュリー)を平手打ちしてしまったことと、犯罪者として死亡したことを悔いている天界の男ゴードン・マクレー(役名:ビリー)が、当時妻が身籠っていた15歳の娘スーザン・ラッキー(役名:ルイーズ)が悩みを抱えていることを知ったことから、地上に逢いに戻るというストーリーになります。
オープニングは女性に人気の色男であるゴードン・マクレーが、回転木馬の呼び込みをしているシーンから始まりますが、奔放な彼を一途に思い続けるシャーリー・ジョーンズとの結婚に至る流れは、シャーリー・ジョーンズが素晴らしい女性に描かれていることから観ていて切ない感じに襲われます。
自分がこの映画で好きな場面は、15歳になった娘が浜辺や旅芸人と踊るシーンですが、『掠奪された七人の花嫁』(監督:スタンリー・ドーネン 1954)でエフライム役だった、ニューヨーク・シティ・バレエ団のジャック・ダンボワーズが旅芸人役として、回転木馬をイメージした見事なバレエ・ダンスを披露したり、娘のスーザン・ラッキーが砂に埋もれた車輪の上で廻り戯れるダンスなどは、リチャード・ロジャースの楽曲を引き立てる効果的な演出として印象に残るシーンだと思います(※2)。
愛する妻と娘に「天界の星」を渡し、ラストの卒業式で、ゴードン・マクレーの存在に気付いているシャーリー・ジョーンズに不器用な男が愛の言葉を告げる流れに、それまで犯罪者の遺族として引け目を感じてきた母娘が、これからは自分に自信を持って生きていく決意として「人生はひとりではない (You’ll Never Walk Alone)」を歌うのを耳にしながら、天界に帰っていきます。
原作「リリオム」と『回転木馬』も共に、「愛する人の平手打ちは痛みを感じない」という主題をメインに据えておりますが、愛する自分の気持ちを言葉で伝えられずに粗暴な振舞をしてしまうタイプの人間を包み込む、大きな慈愛を描いているのかも知れません。
リチャード・ロジャース・ミュージカルのファンとして、「すべての山に登れ」を連想させる趣深いラストと共に記憶に残る愛する作品です。
(※1)岩波書店刊「鴎外選集第十四巻」収録。映画とは異なり、原作の主人公は回転木馬の呼び込みではなく、死亡原因も不慮の事故ではなく強盗未遂後の自害です。
(※2)「リリオム」をミュージカル化する際に、どうして題名を『回転木馬』としたのかが不明ですが、ダンスと回転というミュージカル的な演出効果に関しては見事だと思います。
PS 余談ですが、マリオ・ブーゾの「ゴッド・ファーザー」(フランシス・コッポラ監督の1972年『ゴッド・ファーザー』の原作)で、ドン・コルレオーネが銃撃されるクリスマス・イブにマイケルとケイがデートで観る舞台が「回転木馬」です。
§『回転木馬』
