ザ・フーのロック・オペラの傑作「トミー」が映画化されるとの報から、日本で公開されるまでにかなりの時間が経過した記憶があります。

ピート・タウンゼントが音楽監督を務めたトミー(監督:ケン・ラッセル 1975)を、初めて札幌のスクリーンで観た時はその抽象性・前衛性にかなり戸惑った記憶があります。

今なら、現代美術作品のインスタレーションの様なアイデア溢れる映像作品を無条件に愉しむ経験値がありますが、当時は「ロック・オペラ」の傑作であるとの先入観に囚われ過ぎたのかも知れません。

この作品は、母(アン=マーグレット1)と愛人(オリバー・リード)による父殺しを目撃したトミー(ロジャー・ダルトリー)が心を閉ざしててしまったことにより、外界とのコミュニケーションが取れなくなってしまうという衝撃のシーンから物語が展開します。

その後、義父となったオリバー・リードによる治療と称する悪との接触の数々が、後半のカタルシスに向けてエネルギーを蓄積するかの様な、極めて熱量の多いロックな映像の連続となっている気がします。

鏡に映る心の中の自分(内面世界のトミー)は、特殊技能や富を手に入れても、鏡の破壊により身体が元に戻っても解放されなかった魂の自由が、母の呪縛から解放されることで遂に真の自由を得るという、人間の内面に係わるテーマを持った作品ではないかと考えます。

この作品は、1968年の吹き込み当時から映像化を目論んでいた作品とのことですが、映画化の際、全ての楽曲を映画出演者により新たに吹き込んだことや(吹替えなし)、歌詞を追加するなどといったこの作品に対する意気込みが、冒頭からエンディングまで観客に伝わってくる、ロック・ミュージカル映画の金字塔だと思います。

 

1)エルヴィス・プレスリーのラスベガス万歳(監督:ジョージ・シドニー 1964)は、ロック・ミュージカル・アクトレスとしてのアン・マーグレットの凄演が観られる作品として大好きです。

 

2)さらば青春の光(監督:フランシー・ロダム 1979)はザ・フーの「四重人格」の映像化作品ですが、あちらはミュージカル(ロック・オペラ)ではないので登場人物は歌いませんが、ピート・タウンゼントは、「四重人格」で表現しようとした自伝的な内面世界の映像化に焦点を置いたのではないかと推察します。

 

§『トミー』