スコットランドの伝説に基にアラン・ジェイ・ラーナー・ローが脚本を書き、ブロードウェイで581回連続公演の記録を持つミュージカルをヴィンセント・ミネリ監督がシネマスコープ方式で撮った『ブリガドーン(Brigadoon)』(1954)は、ミュージカル映画史に刻まれる幻想ミュージカル作品ではないかと考えます。
アメリカ人のジーン・ケリー(役名:トミー・オールブライト)とヴァン・ジョンソン(役名:ジェフ・ダグラス)は、スコットランドの森で狩猟中に迷子になってしまいます。
そこで彼等は、100年に1度、霧の中から1日だけ現れる奇跡の村、ブリガドーンに辿り着き、ジーン・ケリーは村娘のシド・チャリシー(役名:フィオナ・キャンベル)に恋をします。
シド・チャリシーの妹ヴァージニア・ボスラー(役名:ジーン・キャンベル)は、ジミー・トンプソン(役名:チャーリー・チザム・ダルリンプル)との結婚を控えています。
ジーン・ケリーとヴァン・ジョンソンが村とその住民に関する謎に気付いたことを知ったシド・チャリシーは、2人を村の学校教師であるバリー・ジョーンズ(役名:ランディ)の所へ連れて行くと、バリー・ジョーンズはブリガドーンの物語と奇跡を2人に語ります。
それは、若し村人がブリガドーンを離れると、村の呪いが解け、永遠に村が消滅してしまうという伝承です。
更にバリー・ジョーンズは、村に留まりたい部外者は、外界の記憶の全てを失うことを受け入れる程、村の誰かを強く愛さなければならないとに告げます。
その晩、バリー・ジョーンズがヴァージニア・ボスラーとジミー・トンプソンの結婚式を執り行い、ジーン・ケリーとシド・チャリシーも立ち会います。
しかし、結婚式は嫉妬に駆られたヒュー・レイング(役名:ハリー・ビートン)によって中断を余儀なくされます。
ヒュー・レイングは、愛するヴァージニア・ボスラーが別の男と結婚するのであれば、全てを消し去るためにブリガドーンを去ると言い放ちます。
彼を止めようと駆け付ける人々から逃れる為にヒュー・レイングは橋を渡ろうとしますが、ジーン・ケリーが彼の行く手を遮ります。
激しい揉み合いの後、ジーン・ケリーは意識を失ってしまいます。
人々が迫って来る中、ヒュー・レイングは木に登って身を隠そうとしますが、狩猟中のヴァン・ジョンソンに誤って撃たれてしまいます。
ジーン・ケリーを追って来たシド・チャリシーが彼の姿を見付けると、2人は互いの愛を告白した後、結婚とブリガドーンの永住をを誓います。
シド・チャリシーがバリー・ジョーンズを探しに出かけている間に、ジーン・ケリーはヴァン・ジョンソンに自分の思いを打ち明けます。
ヒュー・レイングを誤って撃ってしまったことを後悔しているヴァン・ジョンソンは、僅か1日で知り合った女性の為に現実世界の全てを捨てることなど出来ないとジーン・ケリーに言い渡します。
バリー・ジョーンズと共に戻って来たシド・チャリシーに、ジーン・ケリーはもうブリガドーンには居られないことを告白します。
悲しむシド・チャリシーは理解を示しますが、ブリガドゥーンが完全に消え去る前に2人は別れを告げます。
そしてジーン・ケリーとヴァン・ジョンソンは橋を渡り、ブリガドーンを去ります。
ニューヨークに戻ったジーン・ケリーは、華美で都会的な許婚のエレイン・スチュアート(役名:ジェーン・アシュトン)と再会しますが、彼の頭からはシド・チャリシーのこと離れません。
ジーン・ケリーは許婚との関係を断ち、ヴァン・ジョンソンに電話を掛けて、スコットランド行きの便に登場することを知らせます。
ヴァン・ジョンソンとジーン・ケリーは、迷い込んだ場所に戻りますが、ヴァン・ジョンソンはブリガドーンはもう消えてしまっただろうと改めてジーン・ケリーに言い聞かせます。
しかし、突然、霧の中から浮かび上がって来た光を見たジーン・ケリーは、光源へと駆け寄ります。
本作では、シド・チャリシーが『バンド・ワゴン』(監督:ヴィンセント・ミネリ 1953)で披露したフレッド・アステアとのデュエット・ダンス「♪ダンシング・イン・ザ・ダーク」を彷彿とさせる(※1)、ヒースの丘でのデュエット・ダンス「♪オールモスト・ライク・ビーイング・イン・ラブ(恋をしたみたい)(※2)」が、或る意味本作の白眉でではないかと考えます。
あと、終盤にも繰り広げられる華麗なデュエット・ダンスと共に、この作品の透明でファンタジックな香りを演出している様に思います。
100年に1度しか現れないスコットランドの村に迷いこんだジーン・ケリーと村の女性シド・チャリシーの一目惚れ(Love At Fiest Sight)による恋愛譚ですが、観る人によっては軀の奥が疼く感覚を覚える作品なのかも知れません。
それは、一度アメリカに帰ったジーン・ケリーが幻想の村ブリガドーンとシド・チャリシーのかけがえのない清廉さに気付く件の演出や(周囲の人々や婚約者の世間ずれした会話が突如ブリガドーンの音楽に変わるシーン等)、ラスト近くに語られる
●「理屈に合わない事も信じれば、それが真実になる時もある。でも人は多くを失わねばそれに気付かない」 、
●「誰かを深く愛すればどんな事も可能になり、奇跡も起こる」、
という科白により、喚起される憧憬の様な感覚ではないかと思います。
しかしながら、この作品はセット撮影の素晴らしさにも驚きを禁じ得ません。
セットに再現された森や川、そして遠景に続く道や風景はこれまで観て来たセットによる作品の中でも抜きん出たスケールとリアルさを感じます。
それにより村の結婚式のダンス・シーンや花の咲くヒースの丘のデュエット・ダンスの華麗さと夢々しさが一層際立っているのだと思います。
ジーン・ケリーのミュージカル作品中、躍動的なタップやコメディ部分が抑えられている作品ですが、観れば色々なことを考えさせられる奥深いミュージカル・ファンタジーとして自分はこの映画をとても愛しております:
(※1)MGM社製作のミュージカルを中心とした所謂’ハリウッド・ミュージカル黄金期の2大巨星’と目されるフレッド・アステアとジーン・ケリーには、MGM社を代表する3人の俳優を相手役にデュエット・ダンスを踊る、個人的に愛して止まない映画が各々あります:
✦シド・チャリシー
『バンド・ワゴン』(1953、フレッド・アステア)&『絹の靴下』(監督:ルーベン・マムーリアン 1957、フレッド・アステア)⇔『ブリガドーン』(1954、ジーン・ケリー)〈注:『雨に唄えば』(監督:ジーン・ケリー&スタンリー・ドーネン 1952)にジーン・ケリーとのダンス・シーン有〉
✦ジュディ・ガーランド
『イースター・パレード』(監督:チャールズ・ウォルターズ 1948、フレッド・アステア)⇔『踊る海賊』(監督:ヴィンセント・ミネリ 1948、ジーン・ケリー)&『サマー・ストック』(監督:チャールズ・ウォルターズ 1950、ジーン・ケリー)
✦レスリー・キャロン
『足ながおじさん』(監督:ジーン・ネグレスコ 1955、フレッド・アステア)⇔『巴里のアメリカ人』(監督:ヴィンセント・ミネリ 1951、ジーン・ケリー)
(※2)スタンダード曲として、フランク・シナトラ、ナット・キング・コール、ナタリー・コールの歌唱や、ソニー・ロリンズ(ts)、ジョン・ルイス(p)、レッド・ガーランド(p)の器楽演奏等が比較的多く聴かれているのではないかと推察します。
PS:この文章は2018年8月に掲載されていた内容に粗筋を加え、大幅に加筆・訂正を加えた差替えになります。
§『ブリガドーン』
ヴァン・ジョンソン、ジーン・ケリー↑
シド・チャリシー↑
ヴァン・ジョンソン、シド・チャリシー、ジーン・ケリー↑
ジミー・トンプソン、ジーン・ケリー、ヴァン・ジョンソン↑
ジーン・ケリー、シド・チャリシー↑
シド・チャリシー、ジーン・ケリー↑
バリー・ジョーンズ、ジーン・ケリー、シド・チャリシー↑
ヴァージニア・ボスラー、シド・チャリシー↑
ヒュー・レイング(左)↑
シド・チャリシー、ジーン・ケリー↑
エレイン・スチュアート、ジーン・ケリー↑
シド・チャリシー↑











