大文豪、かく記せり 青空文庫への疑問 | tobiの日本語ブログ それ以上は言葉の神様に訊いてください

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日本語アレコレの索引(日々増殖中)【33】
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1986890608&owner_id=5019671

mixi日記2024年06月12日から。

 下記が少し関係する。
【新しき命を吹き込まれし者……その名は「なんなら」】
https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980235280&owner_id=5019671
===========引用開始
 実は「大文豪、かく記せり」というのは温めてるテーマのひとつで……。
 そのうち書きます。
 簡単に書くと、大文豪が書いている、を典拠にしていいいのか、って話。
 たとえば、村上春樹の文章にあったって、間違いは間違いでしょうが。もちろん、なんらかの技法として書いたのなら別ですが。
===========引用終了

 こちらのほうが詳しいか。
【表記の話15──「違和感」「異和感」〈1〉~〈3〉】
https://ameblo.jp/kuroracco/entry-11942431843.html
===========引用開始
「異和感」を使う識者は多いらしい。そのこと自体にはあまり意味はない。よほどの人物が明らかに意識して使っているのでなければ、なんの根拠にもならない。
 ネットの書き込みを見ると、村上春樹は「異和感」と書くらしい。だから「異和感」もアリ、なんてことは言えない。それは芸術文の話だから。
 いろいろな言葉遣いなどに関して、森鴎外や夏目漱石が使っていたからアリなんて論調も目にするが、個人的にはそういう考え方には賛成できない。それも芸術文の話だから。まあ、あの時代なら文豪を根拠にするのもアリなのかなぁ、って気もするけど……。
 現代なら、辞書や新聞を調べるほうがよほど確かだろう。 
===========引用終了

 いずれにしても表記の問題だから、どちらかが「正しい」なんてことはなく、どちらかが「一般的」なんだろう。「正誤」なんて言葉の神様マター(これってまだ俗語らしい)だろう。
 ちょっと書いておくと、「記(しる)せり」っておかしくないよな。「きせり」とも読める? 
「語りき」あたりのほうが無難かな。こういうところを間違うと本質・ストーカー・坊主が喜々として噛み付いてくるからなぁ。


 古い言い回しなどの正否を調べるのに「青空文庫」https://www.aozora.gr.jp/という便利なものがある。
 ただ、「青空文庫」に使用例があるからOKといえるか否かはビミョーな話になる。
 先日、興味深い例を見つけた。
【”異状な” site:www.aozora.gr.jp】の検索結果約41件。
https://www.google.com/search?q=%E2%80%9D%E7%95%B0%E7%8A%B6%E3%81%AA%E2%80%9D+site%3Awww.aozora.gr.jp&num=20&lr=lang_ja&sca_esv=b06929e385b137cd&hl=ja&complete=0&tbs=lr%3Alang_1ja&sxsrf=ADLYWIIDYQM4_IjiyPeGkEThbaQYLIRKug%3A1717374980641&ei=BBBdZu3mJrvj1e8PtOD6wAc&ved=0ahUKEwjt-KqtmL6GAxW7cfUHHTSwHngQ4dUDCBA&oq=%E2%80%9D%E7%95%B0%E7%8A%B6%E3%81%AA%E2%80%9D+site%3Awww.aozora.gr.jp&gs_lp=Egxnd3Mtd2l6LXNlcnAiJeKAneeVsOeKtuOBquKAnSBzaXRlOnd3dy5hb3pvcmEuZ3IuanBIhydQ-g9Y6h1wAngAkAEAmAHNAaAB7wKqAQUyLjAuMbgBDMgBAPgBAZgCAKACAJgDAIgGAZIHAKAHmQE&sclient=gws-wiz-serp#ip=1
 ただし、この検索結果には「異状なさそう」が含まれているので、実数はもう少し減る。
 ヒット件数が1~2件なら「死語」?と考えることもできる。でもこれだけあると、通常は「異状な」はOKと考えられる。
 ところが、これを現代の辞書などでひくと……。
【国語の事でお聞きします。 異常な動きをする。異状な動きをする。 どっちが正しいのですか? 品詞は異常】
https://oshiete.goo.ne.jp/qa/13825361.html
===========引用開始
No.13

回答者: 1311tobi 回答日時:2024/05/29 20:47
No.5、6でコメントした者です。

 いままでの皆さんのコメントを読めば、わかると思います。
 たった1人を除いて、皆さんが書いていることはほぼ同じです。
 あらためてまとめます。

 一般的に「異状」は名詞なので「異状な」とは言いません。
 さらに、「異状」は「限定用語」なので、あまり使われません。 
===========引用終了

 辞書は「異状」を形容動詞にしていない。記者ハンなどは「限定用語」にしている。こうなってくると、「表記の問題」ではないような。どう考えればいいのか不明。
 よく話題になる「全然+肯定形」も、古い文献には多数ある。これは「全然+肯定形」でも「間違い」ではない、と考えるしかないだろう。個人的には使わない。それを言い出すと、芥川の「とても」の話あたりも出てくるだろう。
 大文豪クラスの文章だと信頼できる。現代でも簡単に手にできる点も大きい(古い辞書を確認するのは困難)。「青空文庫」を使えば、検索も簡単にできる。
 でもさぁ……。
 表記の問題なんかに関しては、大文豪を信用してよいのだろうか。夏目漱石あたりは独創的といえば聞こえがいいが、かなりいい加減なのでは。
 現代は辞書が充実しているし、用字用語集の類いも各種ある。そういったものが雁首そろえて(死語?)認めていない「異状な」(なぜか変換できる)あたりは、「死語」扱いにしてもよいのでは。たとえかなりの使用例があっても……。この場合の「かなり」はいくつぐらい?