送り仮名の話〈1〉──取り扱う 取扱い 取扱説明書 | tobiの日本語ブログ それ以上は言葉の神様に訊いてください

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 下記の仲間。 

日本語アレコレの索引(日々増殖中)【16】 

http://mixi.jp/view_diary.pl?id=1945401266&owner_id=5019671 


 直接的には下記の続きだろうか。 

突然ですが問題です【日本語編64】──話 話し 隣 隣り【解答?編】〈1〉〈2〉 

http://ameblo.jp/kuroracco/entry-11800720512.html 

【こんなもんまで日本語破壊の片棒担いでやがんのか〈3〉】 

http://ameblo.jp/kuroracco/archive2-201506.html 

==============引用開始 

 送り仮名の問題なんで、「間違い」とは言いにくい。昔の文豪なんかは、送り仮名を自己流に省略することがあったらしい。その影響か、年配の人には送り仮名を省略する人がいる。本則どおりだと字面がゆるんだ感じに見えるのだろう。 

==============引用終了 


 テーマサイトは下記。 

【どの送り仮名を使っていますか?  “備付”、“備え付”、“備付け”、“備え付け”】 

https://oshiete.goo.ne.jp/qa/9101934.html 

==============引用開始 

私は、新たまって考えてみると、“備付け”をよく使っています。理由は、次のことのようです。 

1.送り仮名があると読み易い 

2.とはいえ、送り仮名が多いのは冗漫である 

3.漢字に挟まれた送り仮名は、美しくない 

以上の怪しげな理由付けにより、”備付け”のように、最後にのみ仮名を付けているようです。と、書きながらも、“読み易い”には挟まれた送り仮名を使っていますが。 

皆様は、どの送り仮名を使っていますか?  “備付”、“備え付”、“備付け”、“備え付け” 

==============引用終了 


 非常に興味深い。 

 いい機会なので、「送り仮名」について書いてみたい。 

 質問者の3つの方針にも注目したい。とくに重要なのは「3.漢字に挟まれた送り仮名は、美しくない」。「美しくない」は単なる主観とも言えるが、世の中の傾向はこのとおりになっている。 

 まず質問の「備え付け」に関してWeb辞書を見てみよう。 

https://kotobank.jp/word/%E5%82%99%E3%81%88%E4%BB%98%E3%81%91-554918#E3.83.87.E3.82.B8.E3.82.BF.E3.83.AB.E5.A4.A7.E8.BE.9E.E6.B3.89  

 Web辞書を見る限り、「備え付け」しかない、ということで終了(笑)。まあ、これが「本則」(常用漢字表に従った「イチバン基本的な書き方・読み方」くらいの理解でいいだろう)だから、イチバン無難ではある。 

 実は送り仮名に関しては辞書は役に立たないことが多い。「本則」以外の許容がバラバラで基準がまったくわからない。こう書いても間違いではない、というのがわかることがあるが、そんなことを言えば、「備え付け」に関しては質問の4パターンはどれも「間違い」ではない。まあ、「備付」「備え付」はあまり一般的ではないが。 


 さて、ここから先はけっこうメンドーな話になる。 

「送り仮名」に関しては、一般的には下記に従うのが無難だろう。 

【送り仮名の付け方 文部科学省】 

http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19730618001/k19730618001.html 

 問題は通則6〈本則 複合の語(通則7を適用する語を除く。)の送り仮名は,その複合の語を書き表す漢字の,それぞれの音訓を用いた単独の語の送り仮名の付け方による。〉の〈許容 読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。〉って部分 

==============引用開始 

許容 読み間違えるおそれのない場合は,次の( )の中に示すように,送り仮名を省くことができる。 


〔例〕 書き抜く(書抜く) 申し込む(申込む) 打ち合わせる(打ち合せる・打合せる) 向かい合わせる(向い合せる) 聞き苦しい(聞苦しい) 待ち遠しい(待遠しい) 


田植え(田植) 封切り(封切) 落書き(落書) 雨上がり(雨上り) 日当たり(日当り) 夜明かし(夜明し) 


入り江(入江) 飛び火(飛火) 合わせ鏡(合せ鏡) 預かり金(預り金) 


抜け駆け(抜駆け) 暮らし向き(暮し向き) 売り上げ(売上げ・売上) 取り扱い(取扱い・取扱) 乗り換え(乗換え・乗換) 引き換え(引換え・引換) 申し込み(申込み・申込) 移り変わり(移り変り) 


有り難み(有難み) 待ち遠しさ(待遠しさ) 


立ち居振る舞い(立ち居振舞い・立ち居振舞・立居振舞) 呼び出し電話(呼出し電話・呼出電話) 


(注意) 「こけら落とし(こけら落し)」,「さび止め」,「洗いざらし」,「打ちひも」のように,前又は後ろの部分を仮名で書く場合は,他の部分については,単独の語の送り仮名の付け方による。 

==============引用終了 


 複合語の場合、〈読み間違えるおそれのない場合〉は送り仮名を省略できるらしい。これがちゃんとした基準になるか否かは不明だけど。これで「備付け」「備付」も許容された。ただ、↑の「取り扱い(取扱い・取扱)」「乗り換え(乗換え・乗換)」を見てもわかるように、「備え付」は特殊だろう。 

 このあたりに関して、世間の慣例は下記のようになっているらしい。 

1)取り扱う 乗り換える←動詞は素直に送る 

2)取(り)扱い 乗(り)換え←名詞になると漢字の間の平仮名を落としてもOK 

3)取(り)扱(い)説明書 乗(り)換(え)駅←さらに複合語になって漢字が続くなら間の平仮名を落としてもOK 


「備付け」は2)に従った書き方。 

「備付」は「備付用」なら3)に従った書き方。単独で「備付」はちょっと厳しいかな。 

 このへんは「慣例」としか言えない部分が多いので、深入りすると泥沼が待っている。 

 新聞の用字用語のルールは、【送り仮名の付け方 文部科学省】 をベースに、多少アレンジを加えている。こちらに「備え付け」に関する記述は見当たらない。 

 まあ、本則どおりなのだろう。 


【送り仮名の付け方 文部科学省】に逆らうのは無謀だが、どうにも理解できない部分もある。 

 大原則は通則1の〈本則 活用のある語(通則2を適用する語を除く。)は,活用語尾を送る。〉のとおりなんだろう。 

「明るい」は例外的に「る」を入れるらしい。じゃあ、「明く」なのに「明ける」なのはなぜ……と言った話に関してはまた今度。 






【送り仮名の付け方 文部科学省】へのインネン前に、重要なことを思い出した。 

 ↑で書いた下記のパターンになる例は多い(はず)。 

==============引用開始 

1)取り扱う 乗り換える←動詞は素直に送る 

2)取(り)扱い 乗(り)換え←名詞になると漢字の間の平仮名を落としてもOK 

3)取(り)扱(い)説明書 乗(り)換(え)駅←さらに複合語になって漢字が続くなら間の平仮名を落としてもOK 

==============引用終了 


 ところがこういう話には例外がつきまとう。 


■取引 

 ↑のパターンどおりなら下記だろう。 

1)取り引く 

2)取(り)引き 

3)取(り)引(き)先 

 実際には、Web辞書に限れば「取り引く」という言葉さえない(泣)。 

 そのせいか「取引き」という表記もめったに見ない。ほとんどが、単独使用でも「取引」だろう。 


■問い合わせ先 

 ↑のパターンどおりなら下記だろう。 

1)問い合わせる 

2)問(い)合わせ 

3)問(い)合(わ)せ先 


 これもあるのだが、2)3)はもっと省略した形を見ることも多い。 

2)問(い)合(わ)せ 

3)問(い)合(わせ)先 


「問合先」って表記を見慣れてしまうと、平仮名入りがヘンに見えてくる。 

 とくに文章中ではなく、
■問合先 03-0000-0000
 と表示する場合などは漢字3字のほうがスッキリしている。 

 これにちょっと似た印象なのは、一問一答形式のときの「問」と「答」。「問い」や「答え」はめったに目にしない。いまどきは「Q」&「A」だろう、とか可愛くないことは言わないように。






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