のすたるじあJAZZ喫茶へようこそ

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記憶の彼方のレコード棚から、忘れかけてた演奏を、一枚ずつ取り出して聴きなおす・・・

コラボレーション  (Collaboration  ザ・グレイト・ジャズ・トリオ 04年)

 

「エルヴィン・ジョーンズ哀悼盤! 偉大なるドラマーのラスト・スタジオ・レコーディングから未発表テイクをリミキシング‼」という帯のついた本作は、2004年5月18日に76歳で亡くなったエルヴィン・ジョーンズが参加したThe Great Jazz Trioの、02年5月の音源(「枯葉」と「いつか王子様が」としてリリース)の未発表テイクから9曲が選ばれています。

1.Rhythm-A-Ningや 4.Blue Bossa、そして意外にも 7. Autumn Leavesなどで溌溂としたドラムが聞かれる一方、スロウな 2.Summertimeや 8. My Funny Valentine、ベース(リチャード・デイヴィス)の弓奏が聞かれる 5. Long Ago And Far Awayなどにはしみじみと聴き入ってしまうことになりますが、もちろんこの時点でこれが最後の録音になるとは誰も思っていなかったでしょう。

それは9歳年上の兄ハンク・ジョーンズにしても同じこと、こんな形で弟を見送ることになってしまった悲しみが、ライナーノーツの文章にストレートに表れています。

 

76歳という年齢はジャズミュージシャンとしてそれほど早世ということではないのかもしれませんが、91歳まで生きた兄ハンクと比べるとやはり早かったと言わざるを得ず、その一因はもしかしたらエルヴィン・ジョーンズが、コルトレーンと密度の濃い時間を過ごしたことにあったかという気がどうしてもしてきます。

60年の My Favorite Thingsあたりから Live at the Village Vanguard(61年)、A Love Supreme(64年)、Ascension(65年)などを経て65年の Meditationまで、急坂を一気に駆け上っていくようなコルトレーンを黄金カルテットの一員として支えた音楽的燃焼と、それでもどこかで別れを告げなければならないと思い悩んだ精神的負担は、渦中にいる本人でなければわからない想像を絶するものであったに違いありません。

最後に入っている 10.Memories of Youのみはハンク・ジョーンズのソロによる2005年2月の録音ですが、そんな弟の労をねぎらい優しく抱きとめているかのように聴こえます。

 

Collaboration

ノルディック・クァルテット (Nordic Quartet ジョン・サーマン、カーリン・クロッグ  95年)

 

大寒波が列島を襲う夜に取り出してきたのは北欧ジャズ、カーリン・クロッグ(クローグ)の声、ジョン・サーマンのサックスとクラリネット、テリエ・リピダルのギター、そしてヴィグレイク・ストラースのピアノによるアルバムです。

この編成からも想像されるように、4つの「音」は明確な形もリズムも持たないまま、思い思いに漆黒の虚空に向かって解き放たれていくようで、少しずつ浮遊感のあるひんやりとした時間を紡いでいきます。

そこにオーロラの光の揺らめきを見る人も、氷河が静かに砕けていく音を聞く人も、遠い海に住む生き物の鼓動を感じる人もいるでしょう。

中盤にはプログレ調の曲やスリリングなインプロヴィゼーションもありますが、全体としては寡黙で瞑想的な気配が濃厚です。

7. Watching Shadows はそうした中でも比較的曲としてのまとまりが感じられ、モノローグのような声にサックスが適度な間を保ちながら絡んでいきます。

そして、とりとめのなさそうな 8. The Illusion をはさんで最後の 9.Wild Bird になると、ようやくぼろげながらひとつの像が結ばれるのを見るようです。

 

Nordic Quartet

バグス・グルーヴ (Bags' Groove マイルス・デイビス 54年)

 

今年も押し迫ってきたので、「クリスマスのケンカ・セッション」として有名なレコードを聴いてみましょう。

1954年12月4日に録音された表題曲は、やはりセロニアス・モンクのソロが独特の味を出しています。

冒頭から謎めいた緊張感のあるテーマが提示され、抑制的なトランペットとそれを引き継いだビブラフォンが、クールで洗練された都会の響きを聞かせていきますが、そこに闖入するモンクのピアノは異次元の領域に遊ぶようで、異質なものが紛れ込んでいるという評価もやむを得ないところかもしれません。

 

もっとも、2人が喧嘩をしたというのは「伝説」ということで落ち着いているらしく、ただ大先輩のモンクに対して「俺のバックでピアノを弾くな」という趣旨の話をしたのは間違いではないようです。

それは自分のトランペットに重ねてくれるな、というリーダーとしての音楽的な要請に過ぎず、結果として2つのテイクを採用したところに(今のCDはボーナストラックがあって珍しくなくなっていますが、LPの時代に同じ曲の2つのテイクが入っている例が他にあったのかどうか)、モンクへのリスペクトを見るべきなのでしょう。

 

それでも、たとえソロの部分だけであってもここまでやられては、その後にどう立て直して元の曲想に戻したらいいのかとさすがのマイルスも戸惑い、やはり俺の美学には合わないと思った可能性は高いかもしれませんが、あらためて今聞けばとても貴重な記録に違いなく、それはソニー・ロリンズを迎えた(かつての)B面も決して悪いわけではないのに、どうしても平凡に聞こえてしまうことが証明しているようです。

 

Bags' Groove

 

トゥゲザー・スルー・ライフ (Together Through Life ボブ・ディラン 09年)

 

2016年11月にボブ・ディランがノーベル文学賞受賞というニュースを聞いて、ここでも主だったオリジナル・アルバムを取り上げてきました@が、2年ほど中断していたので何とか完成(というほどのものでもありませんが)させておきたいと思います。

 

本作はトランペットとアコーディオンが入って賑やかに始まる1曲目のビヨンド・ヒア・ライズ・ナッシンから、サウンドだけを聴けばご機嫌なナンバーが続いていくような印象ですが、この先には何もない、というペシミスティックな歌詞に戸惑わされます。

そもそもこのアルバムは映画のために依頼されて作ったライフ・イズ・ハード(2曲目に収録)が契機となって制作されたもので、前の『モダン・タイムズ』から3年という間隔で新作がリリースされたのはよかったと受け止めた一方、本人の中にどのくらい自発性や熟成の時間といったものがあったのかが気にならないでもありません。

あなたがそばにいなければ人生はとても厳しい、あなたが去ったあの日わたしは全く空虚になってしまった、というナイーヴともいえる率直な物言いも、もしかしたら映画のためということだったかもしれないし、私の妻の故郷は地獄だ(マイ・ワイフズ・ホーム・タウン)、ヒューストンに入ったら気をつけろ(イフ・ユー・エヴァー・ゴー・トゥ・ヒューストン)などというのも、いったいどこまでが本気なのか・・・

 

そんな中でディランの切実な肉声と思えるのがフォゲットフル・ハート、忘れっぽい心よ、お前は思い出す力をなくしてしまった、私の頭の中を歩き回る影のよう、ドアは永遠に閉まってしまった、もし本当にドアがあったのだとしたら、といった独白には深い孤独の思いが滲みます。

でも、あなたを夢見ることがわたしのすべて、それがあるから生き続けられる、と明るい曲想で歌うディス・ドリーム・オブ・ユーは同じような心境をポジティヴな面から見ているようだし、わたしは変化の兆しを感じる、というアイ・フィール・ア・チェンジ・カミン・オンで希望を感じさせた後は、イッツ・オール・グッド(すべてよし)で終わります。

 

Together Through Life

クッキン(Cookin‘ マイルス・デイビス 56年)

 

この作品をまだ取り上げていなかったのは、たぶんいつでも適当な時にと思っているうちに、もうとっくに書いてしまったような気になっていたのでしょう。

1曲目のマイ・ファニー・ヴァレンタインから、同時期のラウンド・アバウト・ミッドナイトとトップを争うマイルスのミュート・トランペットによる繊細な語り口に引き込まれていきます。

ここにコルトレーンの出番はなく、マイルスの美意識が隅々まで徹底した6分間、この曲が4枚のシリーズの冒頭を飾ることとなったのはPrestigeサイドの判断でしょうが、初めて聞いた時コルトレーンは、そしてマイルスはどんな反応をしたのでしょうか。

 

ともあれ2曲目になるとテンポが上がり、コルトレーンも入ったクインテットとしてみな笑顔を取り戻したように快調な演奏となり、モダン・ジャズの楽しさが溢れてきます。

3、4曲目はさらに高速のスリリングな演奏となり、コルトレーンも5カ月前とは打って変わったように自信に満ちた吹きっぷりで、このクインテットの黄金時代という感を強くします。

始まりのマイ・ファニー・ヴァレンタインの印象が強烈なので、そのためのアルバムといった感じを持たれやすい作品ではありますが、むしろそれは序曲であってメインはクインテットの丁々発止という聴き方をしてみるのも面白いかもしれません。

 

なお、元になった「マラソン・セッション」は1956年5月11日(A)と10月26日(B)の2回行われており、最初にリリースされた本作は全てセッションB=10/26の音源によっています。

そのあたりを念のため整理しておくと以下のとおりとなり、シリーズ全体の売れ行きを考慮してということなのでしょうが、まずは後ろのセッションBから先に出していったということがわかります。

 『クッキン』(57年)   B B  B B

 『リラクシン』(58年)  B B B  B A A

 『ワーキン』(61年)   A A A A  A A B A

 『スティーミン』(62年) A A A  A B A

 

また、下線付きはカルテットによる演奏で、マイルスの繊細なミュート・トランペットが堪能できるスローな曲となっており、このタイプとセッションBの混ぜ具合は4枚を通して周到に考えられているという感じがします。

 

ついでに、ほぼ同時期にコロムビアに録音した方もいくつかのセッションから成っており、これも前後にA(55.10.26と56.6.5)とB(56.9.10)に分けるとすると、やはり後期の録音を重視しているような傾向が見られます。

『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(56年) B A B  A A A

 

Cookin‘

アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード  (At The Village Vanguard  ザ・グレイト・ジャズ・トリオ 77年)

 

ハンク・ジョーンズと、ロン・カーター、トニー・ウィリアムスのトリオによる、ニューヨークの名門ジャズ・クラブにおけるライヴ盤です。

マイルスの枯葉などで知られるように、どちらかというと名脇役ピアニストと言われることの多かったハンク・ジョーンズは、58歳にして40歳のベーシスト、32歳のドラマーと The Great Jazz Trio (第1期1975~80、その後メンバーを変えて2010年まで活動)を結成しました。

同世代の仲間たちで組まれることが多く、リーダーの名を冠することが一般的な中にあって珍しいパターンと言えますが、それぞれに経験を積んだプレイヤーの持ち味が楽しめる見事なアンサンブルです。

 

1曲目のムース・ザ・ムーチはアップテンポな曲で、マイルスの第2黄金時代を支えた若手2人が大活躍し、ライブらしいスリリングな演奏を繰り広げます。

2曲目のナイーマは一転してスローテンポになり、ハンク・ジョーンズのリリカルなピアノをじっくりと堪能することができます。

各メンバーのソロが楽しめる3曲目、軽快さが戻り会場の熱気が感じられるような4曲目も含めて、古きよき時代のNYの夜へと誘ってくれる一枚だと思います。

 

 

ザ・グレイト・ジャズ・トリオ アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード

ソングズ・ウィズ・レッグズ (Songs with Legs  カーラ・ブレイ 94年)

 

カーラ・ブレイとスティーヴ・スワロウのコンビに、サックスのアンディ・シェパードが加わったトリオによるライブ・アルバムです。

ヨーロッパ各地を回ったツアーからのピックアップですが、演奏の完成度はライブとは思えない出来で、緻密なアンサンブルの中にしみじみとした情感も、茶目っ気たっぷりのユーモアも盛り込まれて千変万化といった印象です。

前衛的でありながら雄弁で歌心の溢れるカーラのピアノ、プログレのように変幻自在なスティーヴのベース、そして二人に一歩も引けをとらないアンディのサックスも実に素晴らしいとしか言いようがありません。

 

カーラのオリジナル曲で固められた中に1曲だけセロニアス・モンクの ミステリオーソ が挟まれていますが、この3人の腕達者にかかると、曲の持つ魅力が別の命を授けられて新たに生まれ変わったかのようで、カーラのピアノや編曲の才能とともに、モンクの音楽の底知れなさをも思い知らされるようです。

また、サックスが気持ちよさそうに歌う2曲目の ザ・ロード・イズ・リス人・トゥ・ヤ、ハレルヤ!、最後の クレイジー・ウィズ・ユーでは、固唾を呑んで聴き入っている会場の雰囲気がよく伝わってきます。

 

Songs with Legs

 

ランド・オブ・ザ・サン(Land of the Sun チャーリー・ヘイデン 2003年)

 

ベーシストのチャーリー・ヘイデンが、2001年の「ノクチュルヌ」に続いてキューバ出身のピアニスト、ゴンサロ・ルバルカバと組んで発表したアルバムです。

10曲中8曲までがメキシコの作曲家 ホセ・サブレ・マロキン(José Sabre Marroquín, 1995年没、メキシコで活躍したヴァイオリニストの黒沼ユリ子さんが録音などで紹介したこともあるようです。)のナンバーとなっているのは、ヘイデンが前作の3曲目にマロキンの「ノクターナル」を取り上げたところ、その娘からお礼として父の作品集を贈られたためだそうです。

ヘイデンがルバルカバに声をかけてアレンジがスタートし、腕達者な仲間を集め総勢10名で作り上げたサウンドは、同じラテン・ジャズではあるものの、前作のキューバからメキシコにシフトしたからか、寛いで聞くことのできる曲が多くなっているという印象です。

 

前作は基本となるピアノトリオが曲ごとに1人(1曲目のみは2人)のゲストを迎えてそのソロに耳を傾けるという感じだったのに対し、今回はフルートやトランペットなども含めた様々な楽器が1曲の中で交替したり、アンサンブルの妙を楽しめる場面もあって、色彩豊かな時間がゆったりと流れていきます。

その中には日本の旋律ではないかと思うようなフレーズもあり、初めて聞く曲ばかりのはずなのに懐かしい気分にさせてくれる作品集でもあります。

特に強い印象を残すのは、分厚い響きが楽しめる6曲目の「フォーエヴァー」、フルートのソロが美しい7曲目の「ロンギング」、哀愁の色が一段と濃い10曲目の「パオラズ・ソング」など。

 

ランド・オブ・ザ・サン

 

ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード~雲(live at the village vanguard~Nuages クリスチャン・エスクーデ 91年)

 

ジプシー・スウィングの創始者ジャンゴ・ラインハルトの流れを汲むフランスのジプシー・ジャズ・ギタリスト、クリスチャン・エスクーデ(Christian Escoudé、1947-2024)の命日に、ニューヨークのヴィレッジ・ヴァンガードで1991年にベースのピエール・ミシェロ、ピアノのハンク・ジョーンズ、ドラムのケニー・ワシントンと共演したライブのCDを聞きましょう。

ジャケットの写真を見ればドラマー以外はみなそれなりの年を重ね風格すら漂っていますが、演奏はアップテンポでエネルギッシュなものが多く、時折観客の手拍子も交えながらスリリングに進んで行きます。

 

一方でハンク・ジョーンズの落ち着いて陰翳の濃いピアノがアンサンブルを格調高いものにしているようで、特に3曲目の「エンジェル・フェイス」はしみじみとした語らいを聞くように充実した時間が流れていきます。

また、クリスチャン・エスクーデの作品「プチ・ビギン」では、ピエール・ミシェロのベースが名クラブの熱気を高めている感じが伝わってきます。

そして最大の聴きどころは最後に納められたジャンゴの名作「雲(Nuages)」、余裕の感じられる落ち着いた演奏によりこの曲の持つ謎めいた雰囲気がさらに深められており、ハンク・ジョーンズのピアノ・ソロも絶品です。

 

ライヴ・アット・ザ・ヴィレッジ・ヴァンガード~雲

陽光と静寂(O Espírito da Paz マドレデウス 94年)

ようやく秋を感じる風が吹いてきたので、久しぶりにマドレデウスを聞いてみましょう。

大ヒットした「海と旋律(Existir)」から4年、前作よりはやや地味に聞こえる感じはありますが、作品も演奏の質も格段の進歩を見せて、落ち着いた統一感のある世界を生み出しました。

コンサートなどで引っ張りだことなっていたにもかかわらず、これだけの熟成を見せたところに本物志向の音楽家の矜持を見るようです。

 

「コンセルティーノ」と題された器楽曲で始まり、「運命」でテレーザ・サルゲイロの美声が導く世界が全開となりますが、「戦士たち」あたりではこのグループには珍しい緊張感にも支配されます。

後半に向かってはただ茫漠とした海の前で立ち尽くしているような「海」、「三つの幻想」や「海を離れて」といった楽曲で聴く者を遥かなる時空に誘い込み、「願い」「救い」で余韻を感じさせながらCDは終わるのですが、ここまで付き合ってきたことで呼び覚まされた想像力はどこまでも続いていき果てることがありません。(日本盤ではこの後にシングル「海と旋律」が再録されているようですがお勧めできません。)

 

なお、先のアルバム「海と旋律」はメンバーそれぞれが作品を持ち寄ったり全員でひとつの曲に関わったりといった感じだったのに対し、本作の制作にあたってはギター担当のペドロ・アイレス・マガリャンエスが前作以上に主導権を取っているようです。

さらに、ジョゼ・ペイショートというもう一人のギタリストが新たに加入したこともあって、クラシックギターの響きが充実した一枚となっています。

 

O Espírito da Paz