はじまり2
「おい、しっかりしろ!」
うつ伏せになっているその人物を助け起こす。端に海藻や砂のこびりついた長い金髪がふわりと揺れ、青白い少女の顔が露わになる。
触れてみた腕は氷のように冷たく、目は閉じられているが、辛うじて肩が微かに上下しているのが分かる。呼吸がある、ということは、まだ生きている証拠だ。
「俺、ザクさん呼んでくる!」
とりあえず近場の人間に助けを呼ぼうと、ピートは直ぐ傍のザクの家に走る。
「おい、大丈夫か!?」
その間グレイは意識を取り戻させようと、必死に声を掛け続ける。しかし、閉じられた瞳は頑として開こうとしない。
(…)
彼女の顔を見ながら、グレイの頭にある思いがよぎる。(それにしても、すっげー可愛い娘だな…)
いかんいかん、こんなときに何考えてるんだ、彼は頭を振る。
「グレイ」
ピートが渋い表情で駆け寄ってくる。ザクの姿は無かった。「ダメだ、ザクさん、家に居ない」
「そっか」
確かに朝の八時といえば、まだ仕事で街中を巡っている時間だ。「仕方ない。俺らだけで、ドクターの所に運ぼう」
グレイの言葉にピートは神妙な面持ちで肯く。
「…よし、これで大丈夫だ」
彼女に点滴を施し、ドクターは告げる。「正直、もう少し発見が遅かったら危険だったよ」
「良かった…」
二人は肩を撫で下ろす。
「ドクター、エリィ、ありがとう。開院前だったのに」
「いや、礼には及ばないよ」
その青年医師は、あくまでも真面目に、そして無表情のまま答える。傍らの白エプロン姿の女性も、静かに微笑んで肯いた。
「―けれども、一体、どうしてあんな所に―」
この事件は、あっという間に街中に知れ渡ったようだった。
病院を出たのはもう十時半。鍛冶屋に行かなければならない時間をとうに過ぎており、怒られる覚悟で祖父の元に向かったグレイを迎えたのは、「命が助かったようで良かったの」という一言だった。それ以外はいつもの修行の時間。まるで、あんなことなんか無かったかのように。
しかしそれは気のせいだ。グレイの脳裏によぎる、瞳を閉じた彼女の顔が。自分の心臓の鼓動が。それを何よりも明確に証明していた。
いつものように修行を終え、鍛冶屋を出ると、彼の足は自然とミネラル医院に向かっていた。
瞳を閉じたままの少女。しかしその顔には血の気が戻っており、随分と顔色が良くなっていた。
(良かった…大丈夫そうだ)
彼は安堵し、目を閉じて大きく背伸びする。そして、目を開けたその瞬間―彼は固まった。
サファイアのような美しい青い双眸が、自分を静かに見つめていたのだ。
「―」
「…」
二人はただ、見つめ合っていた。
「あ、あの…大丈夫かい?」
ドギマギしながら、ゆっくりと、グレイは言葉を紡ぎ出した。その言葉しか思いつかなかった。
少女は、少し表情を和らげ、こっくりと肯く。そして周りを見回した後、
「…あなたが、助けてくれたの?」
恐らく、ここが病院であることに気付き、自分の状況を理解したのだろう。彼女はそう質問してきた。
「あ、ああ…まあ」
頬が熱を帯びてきているのが、自分でもよく分かる。「俺と、もう一人」
「ありがとう」
はじまり1
「おーいピート、いるかー?」
「おう、グレイ。どうしたんだ?」
「ほら、この間オノの改造頼んでただろ。いつまで経っても取りに来ないから、持ってきてやったぞ」
「ああ、悪い悪い」
そのセリフとは裏腹に大して悪びれもせず、ピートは答えた。後ろに被った帽子から覗くクセ毛の黒髪。オーバーオールを着込んだ彼は、クリクリとした人懐っこく大きな瞳を、目の前の作業服姿の青年に向ける。「こないだ、凄い風の強い日があっただろ?あんときに枯れ枝やら何やらガンガン飛んできてさー。こりゃまずいと思って改造お願いしたんだけど、そこらへんに適当にどかしてたら何とかなっちゃって」
「んで、取りに来なかったってわけか」
グレイは呆れたように頭を振り、「全く。久し振りに道具の改造を頼んできたと思ったらこれだもんな」
「いいだろ、真面目にやってんだから」
ピートは明るく笑う。その屈託の無い笑顔に、グレイは確かにそうだな、と微笑んで肯く。
二人の目の前に広がるのは、広々とした牧草の海と、そのなかで伸び伸びとした生活を謳歌する家畜たち。
半年前、ピートが来るまでは、ここは鍬も容易に入れられないほど荒れ果てた土地だったのだ。その頃一度だけ来たことのあるグレイは、ここが、元々牧場だったということが信じられなかったものだ。
ようやく元の姿を取り戻しつつある『ソレイユ牧場』。
―が。
「…あのさぁ、気になってることがあるんだけど」
「何?」
「動物、少なすぎないか…?」
それは前々から、グレイが疑問に思っていたことだった。「というよりも、牧草地が広すぎないか…?」
牧草地は既に、牧場の総面積の優に半分を超えている。揺れる牧草の向こうで佇むのは、牛と羊が一匹ずつ。
広々としているといえば聞こえはいいが、どこか寂しそうでもある。
「そうか?これからも牧草地広げるつもりなんだけどな。なんなら、全部牧草でも」
「全部!?」
グレイは思わず面食らって、「何でそんなに牧草ばっかりなんだよ!?」
「ああ、折角動物飼うなら放牧しようと思ってさ。ほら、ずっと小屋のなかだと可哀想だし」
と、ピート。「んで、夢中になって牧草地広げてたら…」
「こうなった、と」
「そういうこと」
ピートは頭を掻いて、「ま、どちみち飼えるだけ飼うつもりだから、これで良かったんだって。エサの心配することも無くなるしな」
「道理で真っ先にカマの改造頼んだわけだ」
グレイは苦笑した。「けれど、ちょっと広すぎないか?もっと作物でも育てたらいいのに。その分、金も早く貯まるし」
グレイは手前にある、猫の額ほどのジャガイモ畑を指さすが。
「うーーん。俺、作物の栽培にはあんまり興味ないんだよなぁ」
ピートは浮かない表情で、「ここは『牧場』なんだし…、ま、自分が食べれるのに必要な分を作ればいいかっていうカンジだな」
「そうか?」
―まあ、本人がそういってるのならいいか。
宿をとっている宿屋・『ダッド・イン』に戻ろうとしたグレイだが、丁度食事をとりにピートも宿屋に行こうとしていたらしく、結局、二人で宿屋に向かうことになった。
「あっと、グレイ」
街のなかへ進もうとするグレイをピートは呼び止める。「悪い。俺、ちょっとザクさんに配達してほしいもんがあるんだ。海のほうに寄りたいんだけど」
「ああ、いいぜ」
そこまでの大回りというほどでもない。グレイは肯き、方向を変える。
ソレイユ牧場の斜向かい、鍛冶屋サイバラの隣。
荒れ果てた更地が広がっている。
「じいさんの話だと、ここも昔、牧場だったらしいぜ」
「へー、俺のじいちゃんとムギさん以外にも、牧場やってる人いたんだ…」
朝の八時。ひんやりとした朝の爽やかな空気に、甘じょっぱい潮の香りが混じってくる。広場を曲がり、運送業者・ザクの家のある、砂浜へと向かう。
それがようやく視界に入ってきた、そのとき。
二人の足が止まる。その視線の先にあるのは―。
最初、それが何なのか、二人とも直ぐには分からなかった。黄色…?他にも細々とした色がある。そのなかの一つ、砂浜に重なるようにしてあったために分かりずらかった白が、人の手の形をしていることに気がつき、グレイは思わず目を見開いた。
「お、おい、ピート」
「グレイ…あれ、何だろうな?」
片やピートはまだそれに気が付かないらしく、視線の先のものを、そして顔面蒼白のグレイを怪訝そうに、「…?どうしたんだ?」
「馬鹿、あれ…人だよ!」
「え!?」
二人は慌てて駆け寄った。果たしてそれは、紛れも無く、正真正銘の人間だった。
はじめに
はじめまして。
このたび、牧場物語・ハーベストムーン&ミネラルタウンの仲間たちオンリーの非公式ファンブログ・二次創作サイトをオープンしました。
男の子版&女の子版ミックスのいろいろパロディをマイペースに書いていきたいと思います。キャラによっては原型なくなるくらいに変わっていたり…
「ミネラルタウン」は正統派ストーリー
その他のジャンル(以後増加予定)はギャグ比率高めです。
キャラが壊れちゃってる話も多いです・・・
男の子→友情重視
女の子→ややグレイ、クリフ、カイといい感じ?
リンクフリーです。題材やセリフ等気に入ったのがあれば、コメント欄に一言言ってくださればいくらでも持って帰っちゃってください!
どうかお暇なときにでも遊びに来てください♪
―以下、キャラ設定―
ピート 20歳 176センチ
祖父の荒れ果てた牧場・ソレイユ牧場を再建させ、評判も上々な若き牧場主。
陽気で人懐っこくお人よし。物事を深く考えるのは苦手であるが、妙なところで勘が鋭い。気が優しくおおらかでさっぱりした性格。恋愛には疎く、男同士でつるんでいたほうが楽しいというタイプ。
スポーツ全般が得意。
牧場の仕事は動物の世話のほうが好き。あまり無理をするタイプではないため、最近はクレアの牧場に業績を抜かれている。しかし、それを気にしていない。
クレア 19歳 160センチ
かつて世界中を旅していたという女性。ピートが牧場を始めてからしばらく経った後、乗っていた船が難破してミネラルタウンに流れ着いた。街の居心地の良さに腰を落ち着けることとなり、荒廃していたもう一つの牧場・ルナ牧場の主となる。
快活で人当たりがよく、情に厚い性格。世界各地を旅していたためか、かなりの物知りでその思考も楽観的。物事も器用になんでもこなす。しかし、ピート以上にマイペースで天然ボケ。
趣味は読書。特技は楽器の演奏と歌で、時々宿屋に歌いに行っている(旅のときはこれで稼いでいたらしい)。
牧場の仕事は農作物の栽培のほうが好きである。
グレイ 21歳 174センチ
ピートの親友。鍛冶屋の祖父・サイバラのもとで修行に励む青年。ピート&クレアの仕事道具に関わるために二人との接点が知らぬ間に出来ており、その仕事の状況や大変さについても理解している。ややぶっきらぼうで不器用な面はあるが、屈指の常識人。
基本的にはツッコミ役だが、どこか抜けた面や恋愛に対するあまりの純情さや奥手さをからかわれ、しばしばイジラれ不遇な境遇に置かれてしまう、不憫なキャラクター。ピートと同じく同性とつるんでいたほうが楽というタイプ。しかし、彼とは違い恋愛に対する興味は津々で、クレアに一目惚れしてからは彼女に様々なアタックを試みるようになる。
鍛冶だけはなく、細工物全般にも詳しい。手先が器用なためか、意外と料理も上手である。
カレン 24歳 166センチ
クレアの親友であり酒飲み友達。既婚。実は無自覚に大酒豪であるクレアに酔いつぶされたことがあり、それをきっかけに仲良くなった。雑貨屋の娘で、かなりの酒豪。さっぱり、さばさばした性格で姉御肌。鈍感なピート&クレアにギブアップ寸前の若者たちのよき相談相手。
街の女の子の中心的存在でもある。
クリフ 18歳 170センチ
儚げな雰囲気と優しい笑顔(白クリフ)の裏に黒いもの(黒クリフ)を秘める少年。
生き別れた妹を探しているうちに禁断の魔術に興味を抱いてしまったオカルトマニアで、薬物や一部の植物(毒を持っていたりするような、危険な類のもの)、怪しげな儀式や黒歴史などに詳しい。
その話題で話があってしまったクレアに恋心を抱く。
グレイとは一応友人。
カイ 23歳 181センチ
夏の間だけミネラルタウンにやってきて海の家を経営する青年。ピートの悪友でありグレイの親友。軽い口調のお調子者だが根は真面目で気のいい性格。ただ金銭感覚はシビア。
一時期は海の家の経営も危ぶまれていたが、ピート&クレアの助力により経営は上向きになり、街の人々とも徐々に和解。会社経営のレストランにはない自分のレストランを営むという夢を再確認し、本格的な永住を考えている。
女性に純情なピートとグレイをからかっては楽しんでいる。人生経験も豊富なためか、二人の兄貴的存在。
ラン 19歳 156センチ
宿屋の娘。明るく元気だが、少々お転婆。料理と食べ物が大好き。というか、食べ物命。
一時期クリフが気になっていたことがあるが、彼が黒魔術の儀式に失敗し宿屋の壁を壊してしまってからは、その想いも醒めてしまった。
マリー 21歳 158センチ
小説家志望の図書館司書。本のストライクゾーンは広く、最近は同人誌にはまっている。
控えめで優しい性格だが、「小説のネタに!」を口癖に必要以上にチャレンジ精神を持っている。
ポプリ 16歳 150センチ
養鶏場の娘で、コスプレ好き。マリーとはオタク友達。
天真爛漫な性格なトラブルメーカー。
ドクター 28歳 177センチ
冷静沈着な反面、ややマッドサイエンティストな一面を持つ医師。超現実主義者で、オカルト信仰者のクリフとは犬猿の仲。
豊富な知識を持つクレアに興味を抱く。
エリィ 22歳 162センチ
しっかりした性格だが、しばしば食物兵器を作るのが玉にキズの女性。
その威力はドクター、クリフの両方に一目置かれている。
リック 25歳 175センチ
カレンの夫。「砂漠の花」をクレアが持っていたために父親が旅する必要が無くなり、父を連れ戻すために、ミネラルタウンを出ている。