チェゴンその答えをその日の晩に知る事になった。



魘されて起き出したテギルは小屋の外に出て縁台に腰掛け月を見上げていた。溜め息を吐いたテギルが目を閉じて嫌な夢の余韻が去るのを待っていると、縁台が僅かに軋んだ。
テギルが目を開けると隣りにはチェゴンがいた。

「師匠…」

「眠れないのか?」

「…うん……。」

「理由を聞いてもいいか?」

「えっ?」

「お前の剣には乱れがある。筋はいいのに心に蟠りがある。そんな奴はある程度は上達しても中々その先には行けない。」

テギルは考え込むように押し黙った。チェゴンはテギルの言葉を待つでもなく黙って月を見上げていた。話さないならそれでもいいと思っていた。だが、話してくれるなら何とか助けてやりたいと思っていた。

天性のものだろうが、デギルには人を惹きつける何かがある。

まるであの方のようだ…

生涯ただ一人、この人の刀になると定めたこの国の王の顔をチェゴンは思い浮かべた。



押し黙っていたテギルが口を開いた。

「俺…餓鬼の処にいた時、ソリムが餓鬼に襲われそうになったのを助けて逃げたんだ。」

「俺が虎からお前を助けた時か?」

「うん…結局連れ戻されたんだけど…その時、二度と歯向かうことがないようにって彼奴らに…」

テギルは言葉を切った。聞かなくても何と無くチェゴンにはわかってしまった。テギルなら殴られてもこんなに心を傷めることはないだろう。あの手の奴らがテギルのような男を痛めつける方法は想像がつく。男の自尊心を最も傷つける方法でテギルを嬲ったのだろう。

「眠るとその時の事が蘇るんだ。幾ら忘れようとしても頭から消えてくれない…」

「テギル…」

思わず名を呼ぶとテギルは俯けていた顔を上げた。

「同情はしないでくれよな。」

「仕方ないだろう。そんな目に会えば誰でもそうなるだろう。」

「違うんだ。初めは嫌で痛くて…それなのに最後には俺の身体は快楽を覚えてた…」

テギルは乾いた笑い声を立てた。

「はは…まったく…自分が嫌になる。あんなことをされて喜ぶ身体なんて…自分が許せない…」

テギルの心の蟠りが自分への嫌悪感だと知りチェゴンは考え込んだ。眠れない程、自分への嫌悪感に苛まれたテギルをどうやったら救ってやれるだろう。

サブぅ…

昼間に聞いたテギルの甘い声が耳の奥に蘇った。
手当てしてやった手を愛おしげに抱くテギル…
チェゴンはひとつだけ方法を思いついた。
チェゴンはその大きな手でテギルの肩を掴むと縁台に押し倒した。

「師匠…?」

テギルが驚いた声を出す。チェゴンは無言でテギルの着物の合わせを押し開いた。

目を見開いて驚いているテギルを見下ろしながらチェゴンはテギルに言った。

「俺がお前を救ってやる。」

チェゴンの宣言にテギルは慌てて起き上がろうとする。

「救うって…?」

起き上がろうとするテギルをチェゴンは大きな手で縁台に縫い付けた。

「お前の記憶を塗り替えてやる。」

桜の花弁がひとひらテギルの肌に落ちた。チェゴンはその花弁を唇で挟み、そのままテギルの唇に口づけた。

「サブぅ…」

潤み出したテギルの瞳がゆらゆらと揺れる。チェゴンがテギルの着物を剥いで行くとテギルが恥じらいながら唇に付いた花びらを取った。

「…師匠が…舞い散る花びらを剣で切った時…」

チェゴンが着物を脱がしていた手を止めた。

「俺…師匠に恋したのかもしれない…」

「だろうな。あれを見せて落ちない奴はいない。」


チェゴンはニヤリと笑った。つられてテギルも笑みを浮かべた。

「なら…俺はお前を救える。」

チェゴンはテギルの瞳に映る自分を見ながら告げた。

「お前の悪夢のような経験も相手が違えば違うものなる…
ましてや、お前は俺が好きだろう?」

チェゴンは嘯いた。テギルはチェゴンの言葉を否定せずに、縁台に投げ出した足を開いて誘ってきた。

「それなら…忘れさせてくれよ…俺の中を師匠でいっぱいにして…」

纏うもの全てをチェゴンに剥ぎ取られたテギルがチェゴンに手を伸ばした。
月明かりの下、舞い散る桜の花びらがテギルの白い肌を妖艶に彩る。
チェゴンはその姿に眼を見張る。

むしろ、俺の方が溺れてしまうかもな…

テギルは甘い毒だ。チェゴンの理性を蝕んでいく。

チェゴンを受け入れたテギルの鳴き声が木々の間に消えていく。テギルの声に応えるように山奥で獣が一声鳴いた。
獣のように貪りあう二人を月はただ照らしていた。


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