薪を割り、釜戸に火を入れる。
男二人とはいえ、鍋いっぱいに飯を炊き、汁物を作った。
チェゴンはまだ高鼾で寝ている。まだ起きそうもない師匠の寝顔をちらっと見たテギルは小屋を出た。
チェゴンが起きるまでの時間がテギルの鍛錬の時間だ。木刀を振るい、矢を射る。手の平に出来た肉刺がつぶれ巻いた布に赤く血が滲む。
一通りの鍛錬を終えたテギルは疲れて縁台に仰向けに倒れ込んだ。
うらうらとした春の陽射しが顔に降りかかる。暖かい陽だまりの中でデギルの目蓋は次第に重くなっていった。
鼻をひくつかせたチェゴンが徐に起き出した。朝餉の匂いがチェゴンの鼻孔をくすぐる。
腹が減った…
釜戸に近寄り鍋の蓋を開けるといい匂いの汁物が湯気を立てていた。炊き立ての飯の匂いにも惹かれる。
テギルが弟子入りして一緒に暮らすようになってから、山での暮らしが快適になった。
料理らしい料理もせず、必要な分だけ狩りをして鍛錬に明け暮れていチェゴンには些か毒になりそうな快適さだった。
小屋の中を見回したがテギルの姿は無かった。外に出ると縁台に仰向けに寝ているテギルが目に入った。
まったく…やっと寝れたみたいだな…
あどけなさが残る寝顔に見入った。
テギルに近寄ると血が滲んだ手が目に入った。テギルの傍らにある木刀の柄の部分にも僅かに血が着いている。
ふっと小さく息を吐いたチェゴンは眠るテギルの手を取ると血で汚れた布を外し、新しい布を巻きつけてやった。
「…ぅん…んんっ……」
手を取られたのが不快なのか、テギルが魘され出した。
身を捩り首を振り嫌がる素振りをする。チェゴンは無言で手を握り締めたままテギルを見詰めた。
テギルが夜、眠れてないのは知っていた。
チェゴンが寝台に横になっても、闘銭の札を弄びながら中々眠ろうとはしない。うとうととしても魘されてすぐ起きる。テギルの心の中にある何かがテギルを眠らせないようだった。
まるで眠ることを恐れているようなテギルの心に何があるのかチェゴンは気になっていた。心にある蟠りの所為か、剣を振らせても乱れがある。
テギルがパッと目を開いた。
荒くなっていた息遣いを自分で落ち着かせるとやっとチェゴンに目を向けた。
「あっ…サブぅ…」
寝起きでぼんやりしているのかテギルが魘されていたことが嘘のような甘えた声を出した。チェゴンの顔を見てほっとしたかのような風情だ。テギルが手当てされた手に視線を移す。
「…手当てしてくれたんだ……ありがとう…」
手当てされた手を愛おしげに胸に抱くテギル。そんなテギルにチェゴンは疑問に思っていることをぶつけてみた。
「随分と魘されていたな。嫌な夢でも見たのか?」
気まずそうにテギルは顔を背けた。
「……眠ると……厭な夢を見るんだ……」
「厭な…?」
テギルは恥じ入るような顔をした。そのまま言葉を続けることは無く、朝餉の準備をすると言って縁台から起き上がり小屋に入ってしまった。
何がテギルに魘されるような悪夢を見せるのだろう…
チェゴンは小屋の扉の向こうに消えたテギルのことを思い、小さく溜め息をついた。







