彼は1991年から日本にいて、2000年くらいから今の大学で英会話講座を担当してきたって話だけど、私個人的には、彼の英会話に通い始めたのは恐らく5年くらい前。
途中、人数が足りなくて開催されない年もあったから連続ではなかったけど、4年間は講座のある日は毎週顔を合わせてたと思う。
不出来な生徒だったけど、ケビンは優しく、少しずつなりと彼の話していることが理解出来るようになってきて嬉しかった。
クラスメイトは毎年変わったけど、そのうち数名はお馴染みの顔ぶれになってきて、一昨年くらいから彼等の毎週のトピックを聴くのが楽しみになっていた。
いつまでこの楽しい時間を過ごせるのかなぁ、ケビンも意外とお歳だからなぁ、なんて考えてたのは、実は先週くらい。
いつかお辞めになる日が来るかもしれないけど、多分まだ数年は先の話だろうな、なんて勝手に考えてた。
今日、彼が教壇に立って、まず始めに胸の前で一度両手を合わせて、それから開いて、
「ah……actually……」
って話を切り出した時に、
なんでかな?
分かっちゃったんだよね。
あ。これ、よくないお知らせだ。
終わりのお知らせだ、って。
なんでかは分からない。
その表情と仕草から察されたのかなぁ。
ケビンは、9月に家族と帰国することになって、この大学の公開講座で英会話を教えるのは今夜が最後だ、ということを私達に打ち明けた。
彼の子供はまだ幼く、8歳で、今後アメリカの教育を受けさせたいのだという。
あー……分かる。分かる。その方がいい。
そう思っちゃった自分が日本人としてちょっと悲しかった。
今日のトピックは、私にしては珍しくパーソナルな話題じゃなく先の参院選についての真面目な話を準備してて、ちょっとオッと思わせちゃおう、なんて企ててたから、色々察しちゃって。
あー……タイミングとしては、この夏から秋に越した方がベストだよなぁ……なんてことも考えた。
そうか。
オリンピックの開会式まであと丸一年(今日という日はそんな日だった)だから、来年までに飛躍的に英語力を高めちゃうぞ! なんて本気モードに入った私なんだけど、来年その成果をケビンには直接伝えられないのか……
そう思うと、無性に寂しかった。
でも、仕方ない。
さよならこそが人生だ。
よう知らんけど。
誰かの決断を自分のものにすることはできない。
誰かの人生を振り回すことはできない。
行く道に幸福をと祈るだけだ。
だから、今日は時々ちょっとグッときながらも、いつものように楽しく英会話の時間を終えた。
レッスン後にケビンの写真を撮らせてもらって、ツーショット撮ってもらって、みんなでも撮って。
最後に、ケビンと初めて握手をした。
初めての握手がお別れの握手かぁと思うと、ちょっと涙目になった。
小さい頃から大学に至るまで、色んな先生に教わってきたけど、大人になってからの「先生」というのはひと味違う。
「学びたい」という意欲が旺盛だし、自分で進んで学びに行った相手なこともあって、本当に大切な存在だった。
また、ホント、ホントにいい先生だったし!!
あーーーーー悲しいよおおおおぉ!!!
寂しいよおおおおぉ!!!!!!
いつか、アメリカに行ってケビンと再会したい。
ロスから1時間、って仰ってたし、上手くすればロスでお会いしたり出来ないかな……
今はまだ能力的にも他の意味でも夢のまた夢だけど。
叶えたいね、ってクラスメイト達と話した。
またお会いしましょう。
See you!!
See you Kevin!!!
来期からは、お話したことはないけどいつも挨拶だけは交わしているStieveが後任になるらしい。
来期も来ますよね!? 来ましょう!? 頑張ろう!? とクラスメイト達と熱く語って、LINEを交換し合ってから別れた。
来期にはちょっとびっくりさせるくらい英語力上げておきますよ! って宣言してきたから、勉強頑張る。
ひと夏でどこまでやれるか。
来年までにどれだけやれるか、の前哨戦をやろうと思う。
そんな、オリンピック1年前の夜だった。