前回の雑あらすじ>

ルカは火の焼け跡を見つめながら、昔の事を思い返していた。

 

〝女神様〟に危機一髪救われ、向こうの世界へ飛ばされた。

運良くそうして死にかけていた所をこの世界のパッショーネのボスに拾われ治療を受け、一命を取り留めた。

 

突然見知らぬ場所に全裸で置かれ怒りに駆られたが、ボスの驚異的なスタンド能力に恐れおののき、彼が本物のボスである事を確信する。地位や居場所の保証も謳われ、スタンド使いになって彼へついて行く事を決意した。

セッコの主人であるカビ男の手により刺した者をスタンド使いにする〝矢〟を右脇腹に打ち込まれ、16日間意識不明で生死を彷徨い、計1か月程寝込む事となる。

その死闘の末不屈の心は巨大な不死鳥としてスタンド化、ラメント・バスを得た。

 

病床時よりボス直々に手厚い庇護を受け、更には教育もなされ親衛班の首席となることが出来た。

この事に強い恩義を感じており、これ故ボスに対する忠誠心が非常に高かったのである。

 

――かつては、の話ではあるが…。

 

ーーーーーーー

 

ルカのボスへの鋼の忠誠心に揺らぎが生じたのは、ある一件がきっかけだった。

 

麻薬の流通ルートを調べる中でボスの正体の核心を露見しかけてしまったイルーナの世界のソルベとジェラートを抹殺すべく、彼らと所属するヒットマンチームのメンバーの事をボスと親衛班が調査した。

それによりソルベを発見し捕らえ、その救助に一人で向かったジェラートをカビ男がソルベの目の前で生きたまま輪切りにし惨殺した。

 

 

彼女(※注;何度か言及しているが、イルーナの世界のジェラートは女である)を始末した数か月後、ボスは親衛班をパッショーネ本部にある赤いカーペット張りの特別室へ集めた。

 

尚この時点でカビ男はソルベに仇を討たれ相打って死亡しており、親衛班はルカ・サーレー・ズッケェロ・セッコの4人になっている。

 

重要な話という事で服を上に着れないセッコ以外は正装で参加し、ルカはいつものフランス風軍服、ズッケェロはカラビニニエリ風軍服の上に厚い紺色のマントをはおり、サーレーもカラニビエリ風軍服だが半袖の特別仕様のものを着用している。

※カラビニエリの軍服(参考用写真)

 

この服は後にイルーゾォの世界へ向かった際にも着ていたものである。

 

定時前に全員がそろい、ボスはピンク髪の男姿で現れて話を始めた。

 

ボ 「今日全員に集まってもらったのは他でもない、裏切り者のヒットマンチームについての件だ。」

 

ルカとサーレーは真面目に話を聞いているが、ズッケェロとセッコはつまらなさそうだ。

 

ボ 「どいつも見つけ次第抹殺するのは変わらずだが、一人だけ殺さずに捕獲を試みて欲しい奴が居るんじゃ。」

ル 「誰です?」

 

ボ 「鏡使いのイルーゾォだ。」

 

3 「えっ、誰!?」

 

ルカ・サーレー・セッコは声を合せた。

 

ボ 「何ィッ!?お前ら調べた連中のデータ共有しとらんのかボケ!」

ズ 「あれぇ、みんなにイルーゾォのメール廻してなかったっけ?」

 

セ  「廻ッテネーヨ!8人分シカ データ持ッテナイ。

オ前、コイツノデータ ボス ニ ダケ廻シテ安心シテ、オレタチ ニ廻スノ 忘レ テンジャネーカ!」

 

サ 「だらしねーぞ!」

ズ 「すみませんボス…。」

ボ 「全く…。」

 

仕方なくボスはレコーダーのような機械からその姿をホログラム投影した。

 

サ 「こんなの居たっけ?」

ル 「可愛い……このチーム、ジェラートの他にも女が居たのか?」

 

ズ 「こいつ男だぞ。」

 

ル・サ 「はあ?」

 

ルカとサーレーは動揺した。

 

サ 「どう見たって女だろこれ…。」

セ 「ドッチダッテ イイダロ。ドイツダッテ我ガ 主ヲ殺シタ ニックキ ソルベ ノ 仲間…抹殺シテヤル…!!」

 

セッコが怒りで暴れ出した。

 

サ 「落ち着けって!ボスの御前で暴れんな!」

ズ 「こいつは殺すなって今言ったろぉ、勝手な事すんな!」

 

サーレーとズッケェロに押さえつけられ、しぶしぶ大人しくした。

 

ボ 「話戻すぞ。こいつは単に鏡の世界を操れるだけではなく、能力が覚醒すれば空間をも操る力を秘めている事が分かったんじゃ。」

 

サ 「空間を操る…?」

 

ボ 「そう。今居る空間と別の空間を繋げて物を飛ばしたり移動することも出来るようになるんじゃ。実は度々起こるこの現象がスタンド能力によるものとみて長い事持ち主を調べておってな、それがこのイルーゾォの能力によるものだと最近判ったんじゃ。」

ズ 「オレのおかげっすね~。」

 

ボ 「まあそうさ。それでな、ルカ。」

ル 「何でしょう?」

 

ボ 「お前がもとの世界からこの平行世界へ飛ばされて来たのも、偶然発動したイルーゾォの能力によるものだったんじゃよ!」

 

ル 「えっ…!?」

 

自分の命を救い、ずっと心の支えとなってきた〝女神様〟の正体が思いがけない形で分かり、ルカは驚き目を丸くした。

 

ル 「 ( イルーゾォと言うのか…女神様は実在したんだ…!) 」

 

すぐに会う事も出来るかも知れないと思うと、なんだか嬉しくなった。

 

ル 「( 会ってオレを導いてくれた礼を言いたいものたな…。 )」

 

 

ボ 「この能力を使えばパッショーネとオレの地位は更に確かなものとなり、権力は揺るがなくなる。イタリア全国のみならず、この世界の全てを手中に収める事が可能となるのだ!

もし捕らえる事が出来たら、地位と生涯の年金を保障する。」

サ 「おお、ブラーボー!」

 

ボ 「だがしかし!この能力はこちらが彼を捕獲する前に覚醒した場合、甚大な脅威となりパッショーネそのものを壊滅させうる力を持っている!

もしそうなってしまったら、その力を自在に使いこなさせないために殺して始末をするように!

 

 

ル 「 (…こ…殺せだと……!?) 」

 

 

ルカは思いもしない一言にひどくショックを受け頭が真っ白になり、以後も話は続いたか内容が全く頭に入らなかった。

 

 

 

 

ボ 「今日の通達は以上だ。解散!」

 

話が終わり、セッコはすぐ地面に潜って泳ぎどこかへ行ってしまった。

次いでサーレーとズッケェロも2人で退室した。

 

ル 「………。」

 

しかし、ルカは固まってしまってその場から動けない。

汗をかき瞳孔が縮み、痙攣のような震えが止まらない。

 

見かねたボスは彼に近づいて耳元に話しかけた。

 

ボ 「ルカ、こちらの世界にお前を引き込んだのはイルーゾォでも、スタンド使いにして親衛班に入れ、ずっと付いて世話をしてきたのはオレだ。忘れたのか?」

 

ルカは首を横に振った。

 

ボ 「あちらにお前を助けたという自覚は無いし、お前の事も知らない。忠誠を誓う相手を間違えてはいけない。」

ル 「………。」

 

ボ 「パッショーネとオレの栄光のためにやるのだ。

 分かったな?」

 

ル 「…………。」

 

ルカは目を逸らしたまま反応を見せなかった。

 

しかしボスは無理矢理彼の肩を両手で掴み、自分と目が合うように動かした。

 

ボ「分かったな!!」

 

ル 「……………。」

 

 

ボスに強く迫られ、歯を食いしばって頷く他無かった。

 

 

 

ボ 「お前は親衛班を束ねる首席だ。個人的な私情に流される事が無いように。」

ル 「……………。」

 

ボ 「ルカ、ポンコツばかりの親衛班の中で、唯一お前だけが頼りなんだ。俺はお前を信じている。お前ならやり遂げられるとな。」

 

ル 「………はい。」

 

 

一声を聞くとボスは表情を和らげ、ルカの肩をたたいた。

 

ボ 「そう来なくてはな。今日はもう上がっていいぞ。」

ル 「はい……。」

 

 

ルカは足取り重く部屋を出て行った。

 

 

ル 「 (…オレが…オレが女神様を……?そんな…ボスの望みだが…でも………!) 」

 

張り裂けそうな心を必死に抑え、体の震えを押し殺し、なんとか毅然としていようと努めた。

 

 

――それが部下のトップである、首席というものなのだから。

 

 

ボスの命令は絶対。それに逆らう事は、首席であっても許されるものではない。

 

ル 「…………………。」

 

 

 

 

 

廊下では先に退室したサーレーとズッケェロが立ち話をしていた。

 

サ 「あ、やっとルカ出て来たぞ。おっせーな。」

ズ 「…あれぇ、いつもと涙出てるほう逆じゃね?」

サ 「ホントだ。シバかれたんじゃね?」

 

当人は毅然としているつもりでも、ショックがあまりにも甚大だったせいでそれを全く隠せていない。

闇を背負っているのが遠くからでも一目で丸分かりだ。

 

2人は顔を見合わせ、ルカのほうへ走って行った。

 

 

サーレーは思い切り彼をどついた。

 

サ 「おーいルカ!女神様が男でショック受けてんのかッ!」

ル  「はッ!? いや、そうじゃない。」

ズ 「今日は仕事ももう無いし、パスチャーフェッドビーフ丸々一頭買いしてきたから屋敷の外でバーベキューしようぜ!」

ル 「ほう、そりゃいいな。」

サ 「お前の能力でグリル頼むぜ。」

ズ 「シャトーブリアンは全部やるから、喰って元気出せよ。」

ル 「お、いいのか?そうさせてもらうぜ。」

サ 「明日は休みだから、ソースにニンニク使いまくろうぜ!」

ル 「それもいいな。」

ズ 「胃モタレと2日酔い気にしねぇで思う存分喰おうぜ。」

ル 「おいおい、そうなるのはいつもお前だけだろ(笑)」

ズ 「そうだっけ?」

 

3人は笑いながら屋敷の外へ歩いて行った。

 

 

 

この時は2人おかげで一時的に辛い気持ちをしのげられたものの、この一件からルカの絶対的なボスへの忠誠心が揺らぎ始め、複雑な気持ちを抱え続けながらも親衛班の首席としてヒットマンチームとイルーナを追う事となったのであった。

 

 

 

 

―――

 

ル 「……そんな事もあったな…。」

 

時は過ぎ同じく死霊となって再会し、心身朽ち果てて暴走したセッコにトドメを刺したルカは、その燃え跡を見つめながら昔の事をそう思い返していた。

 

その身体があった場所には黒い跡が生々しいほどくっきりと残っているが「それ」は一切無く、青銅鏡で作られた右の義眼のみが変形し焼け残っている。

 

ルカはセッコの義眼を拾い上げ、夜空にかざした。

ル 「セッコの奴…こんなんで世界を見ていたのか。」

 

ルカが持っていた青銅鏡よりも人工ディオプテーゼの純度がずっと低いためか、ススを払っても透度が低めで、景色は濁って見える。

 

義眼を手に少し近辺を歩いていると、自分が縛り付けられていた墓の隣の墓の供え物がふと目に留まり、失敬した。

おそらくフランスパン状のものだがカビが青々と茂り、本当にそれであったのかは分からない。

 

墓と墓の間のスペースに鉤爪で深く穴を掘り、セッコの義眼とそのパンらしきものを埋めて葬り、その上にロウソクを立てて尾で火を灯した。

 

 

ル 「…地獄で仲良くしてろ、ゲス野郎ども…。」

 

 

静かにロウソクを見つめ、一言つぶやいた。

 

セッコとの再会で、姿以外の〝何か〟も変えられた事を自身でも大きく実感出来たのであった。

 

 

 

ル 「…いかん、こうしている場合じゃない!シュピーゲルが…!!」

 

ハッと本題を思い出したルカはすぐ、先程シュピーゲルの声が聞こえた場所を目指して飛んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

ルカの飛翔で起こった風に、ロウソクの炎が揺らめいた。

炎は一瞬大きく膨らみ緑色と茶色に変化し、すぐに消えて白煙が天へと立ち上っていった。

 

 

 

 

<次回予告>

ルカがセッコと闘う一方、イルーゾォとホルマジオはシュピーゲルの元へ向かった。

彼の身に一体何が起きたのだろうか?

 

次回、イルの奇妙なX日間

#79 「Va , pensiero」

来週もご視聴ください。

 

イ 「すまん…こんなに苦しんでいるのに…!!」

 

※来週から話の本線へ戻ります。

 

補足など

 

・もちろん この回想内の「イルーゾォ」はイルーナの事です。

このルカが引き込まれた世界では彼がイルーゾォですからね(ややこしい)。

 

・向こうの世界(イルーナの世界)のヒットマンチームがボスに追われるようになったいきさつ等は#2 もうひとつのヒットマンチーム(

https://ameblo.jp/kuro-inu-kennel/entry-12459203676.html)のイルーナの話を、向こうのソルベがカビ男と相討って壮絶な最期を迎えた事については#17 合・相・愛(https://ameblo.jp/kuro-inu-kennel/entry-12495770884.html)をご覧ください。

向こうのセッコがやたらにソルベに憎悪する理由、分からなくもないかも?

 

・向こうのセッコがあのスタンド化しているスーツの上に服を着れない理由は不明です。

ちなみにカビ男ことチョコラータは原作でおなじみのあの姿が正装だった模様。

 

・ルカから得られた解析データを見た#23 フェイス(https://ameblo.jp/kuro-inu-kennel/entry-12504714420.html

では本話の会議の後に青銅鏡授与のシーンが映っていましたが、これは実は別々の記憶がつなげられてワンシーンに見えてしまっていました。

彼の記憶データは破損が激しかったため、無理矢理つなげて復元を試みたためと思われます。

青銅鏡が授与されたのは後日です。

 

・本話の会議の時点では、もちろんイルーナはまだ向こうの世界に居ます。

 

・パスチャーフェッドビーフ;牧草で肥育出される、グラスフェッドビーフの一種であるブランド牛。

パスチャーというのはマメ系牧草の事で、カラスノエンドウみたいなやつを食べさせて育てたもの。

加えてこのブランド牛は成長促進剤を使用せずに育てるものなので肥育に時間がかかるものの安全で、パスチャーから得られたビタミンや不飽和脂肪酸を多く含むのが特徴です。

時折牧草の香りがする場合がありますが、異常ではありません。逆にこれを好む人もいます。

 

・シャトーブリアン;ヒレ肉の芯で、最も大きくサシも入りやすい部位。高級志向だったルカの好物です。

尚、ノーマルグレード(一般等級)の外国産赤身牛のそれはイマイチ他の部分と変わらず、グルメでなければ普通のヒレの部分との違いが分からないので〝一種のカルトのようなもの〟と揶揄する人も結構います。

 

ちなみにヒレ肉は人の身体ではここになります↓

これで覚えられたかな?