<前回の雑あらすじ>
ルカはセッコにトドメを刺し、その炎の跡を見つめながら、ふと自身の昔の事を思い返した。
元々彼はイルーゾォの世界の人間であり、かなり若い時点でパッショーネへ入団、何もない所から己の力のみで のし上がりネアポリス空港内のショバ代取り立て人にまで上り詰めて生計を立てていた。
この権利は格上のマフィア下がりの人間から勝ち取り、この戦闘時の負傷の後遺症から〝涙目のルカ〟と呼ばれて怖れられるようになる。
しかしそれは下層構成員内での話であり、それらに対しても恨みを買うような行動をとり続けていたためかなりのヘイトを集める結果となってしまった。
数年前のある日、空港内でタクシーを駆る見慣れない男を見つけ、ショバ代を巻き上げようと声をかけて連れ出す。
しかし金を持っておらず腹いせからスコップで殴り殺そうとかかった所、不思議な力でそれは止められ、逆に見えない何かに全身をボコボコに殴られ重傷を負い、戦闘不能に陥ってしまう。
男が去った後、チンピラの集団がルカへ近寄る。今まで圧を受けてきた者たちがここぞとばかりに暴力をふるい続け、長時間のリンチの末瀕死の重体に陥る。
その上旅客機の滑走路に置き去られ轢き殺されそうになるが、その寸前に少女の悲鳴と共に突風が巻き起こり、航路がわずかにズレて難を逃れた。
直後風の中心に穴のようなものが開き、ルカはその穴の中へ吸い込まれ飛ばされ、元居た場所によく似たどこかへと着地した。
きっと女神様が自分を救ってくれたのだと思い感謝し、負傷の痛みと安堵により意識を失ったのであった。
ホラー仕様(?)
かなりショッキングなシーンもあります。
ご注意ください。
ーーーーーーー
雨は激しさを増し、気を失ったルカの周りには血溜まりが出来ている。
そんな中、彼の元へ何者かが近づいてきた。
? 「久々にいいタイミングで嵐が起こったようだな。何か面白いものは流れ着いていないだろうか?」
先程のタクシー男を迎えに来た老人に非常に姿が似ている。
それとの違いは目の色ぐらいで、こちらはエメラルドグリーンの瞳である。
あの突風により飛来した漂着物を探しているようだ。
? 「ん?」
男は倒れているルカに気付かず、その左手を思いきり踏んづけてしまった。
何か落ちていたと思い足元をを見て草をかき分け、ようやく彼が倒れている事に気が付いた。
? 「これは……!?」
今のは絶対に痛いハズだが、全く反応が無い。
かろうじて息はあったが、瀕死でもう数分と経たず死んでしまいそうな容態である。
? 「なんという事だ…!
こんな運命の出会いがあるとは…!」
ルカを見て何を思ったのか男は大変に喜び、彼を肩に担いで不気味に高笑いながら連れて帰った。
ル 「…………?」
気が付くとルカは手術室のようなステンレスの部屋に寝かされていた。
涙の落ち具合的に、少なくとも一時間以上はこの状態に置かれていたと思われる。
ル 「…痛みが無…ん?声が出せる!?」
気を失い生死を彷徨っている間に治療を受けたのか、目さえ動かせなかったハズだが、骨折も含め負傷がほぼ全快していて驚いた。
…が、しかし…。
ル 「……はっ!?」
着ていた服が全て脱がされ、真っ裸でブランケット一枚だけかけられて手術台の上に寝かさせられていた事にもすぐ気が付いた。
ル 「なんじゃこりゃあああッ!!」
服はどこにも見当たらず、勝手にそうされた事に猛烈にキレて怒鳴った。
? 「おお、目が覚めたようじゃな。」
手術室に響くルカの怒号を聞きつけ、彼を拾った男が自動ドアの向こうから部屋に入ってきた。
ル 「あ゙!?テメェ誰だよ!?
ふざけんじゃねえ、何処なんだよここは!!」
? 「まあ落ち着け。お前、パッショーネのルカだろ。嵐に巻き込まれて死にそうになってたのを助けたんじゃぞ。」
男は激高するルカに一切怖じ気づく様子も無く、笑いながら話している。
ル 「誰も助けろなんて言ってねえ!服を返せ!!」
? 「すまんが、まだ返せない。」
ル 「はあ?もういい、ならこのまま帰るぞ!」
男の返答にあきれたルカは裸のままブランケットを腰に巻き、寝かされていた手術台のようなものから飛び降りて部屋を出ようとした。
しかし、男は右腕を掴んで引き止めた。
ル 「触んじゃねえ気色悪い!!」
? 「まあ待てって。お前は選ばれた特別な存在なんだ。」
ル 「はあ!?」
? 「お前は嵐で元居た世界からこの世界へ運ばれてきたんだ。平行に存在する、もうひとつの世界にな。」
ル 「おかしな事を言うジジイだな。」
当然、ルカはそんな子供ダマシじみたSFチックな話を信じなかった。
ル 「 (…でもあの時、危機一髪の所で〝女神様〟に助けてもらった事は事実。しかも、ワープゲートのような光る道も通って来た……。) 」
あながちソラ事をデタラメに並べて言っているわけでもなさそうな気がした。
そう思って少しばかり頭がクールダウンした。
ル 「…ひとつ訊くが、何故オレを真っ裸にしてこんな所に置いたんだ?金なんぞさっき全部持って行かれて無いし、追い剥ぎ目的ならオレ本体はもう必要無いから適当にバーベキューの具にでもして棄てるもんだろ。何故、オレのケガを治して生かしている?」
? 「理由か?ああ、それならもちろんある。」
男はズボンのポケットからルカの持っていたパッショーネのバッチを取り出して見せた。
ル 「あっ!オレのバッチ…!返せッ!!」
男は何も抵抗せず、すぐバッチは奪い返された。
この様子を見て男は笑った。
? 「ほう。その様子は、地位を失うのが怖いんだな?」
ル 「…ち、違う!!」
図星である。
パッショーネ構成員の証であるバッチを失う事は、地位もだが居場所そのものを失うようなもので無意識に怒りと不安が湧き、取り戻すのに必死になってしまったのだ。
? 「案ずるな。もう地位も居場所も失う事を恐れる必要は無い。」
ル 「は?お前、パッショーネの役員か何かなのか?」
男はまた笑った。
? 「ハッハッハ!いかにも!
オレはこの世界のパッショーネのボスだからな!」
ル 「えっ!?」
ルカは非常に動揺した。
ル 「…じょ…冗談はよせよ!
証拠あんのかよ証拠ッ!」
ボ 「もちろん有るとも。」
男はもう片方のズボンのポケットから、宝石で出来たパッショーネのバッチを取り出して見せた。
ル 「!?」
デザインは一般メンバーのものと同じだが、ブラックオパールを彫り込んで作られている。
注;イメージの形が異なりますがご勘弁下さい(色のイメージです)
漆黒ベースに妖しく美しい青と緑の煌めきが走っており、見る角度によって光り方が全く異なって見える。
魔力でもあるかのように目にした者の心を掴んで離さない輝きを放つ。
これを持てるのは、パッショーネのボスただ1人である。
窃盗や模造品の作成は重罪であり、いかなる理由であれ死刑に処せられる。
ボ 「もちろん話は聞いたことはあるとは思うが、現物を見た事は無いだろうからこれだけではまだ分からんよな?」
確かにルカはまだ半信半疑である。
その様子を見たボスは、いきなり服を脱ぎ始めた。
ところが服だけでなく一気に身体の皮まで脱ぎ、上下とも床に投げ捨てた。
ル 「はっ……!?」
あまりの事にルカは言葉を失い、恐怖で震えが止まらなくなってしまった。
脱ぎ捨てた皮は服とつながっており、顔も付いている。
精密なゴムマスクに似ており、干からび骨格を保たずペシャンコになったそれはあまりにもグロテスクである。
ホ 「フフフ…!」
皮を脱いだボスは、先程までとは全く姿が変わっていた。
年の頃30代くらい、ピンクの長髪で上身裸体(しかしレースのような黒い網を着ているようにも見える)、紫のズボンをはいた男になっていたのだ。
声も老人姿の時とは異なる。
ドヤ顔で笑ってルカを見下ろしている。
ボ 「オレは数多くのスタンド使いの中でも、トップクラスの能力を持っている。」
ル 「…ス…スタンド…?何だよそれ?」
ボ 「一部の人間が持つ特殊な超能力だ。能力は人により異なり、オレはこのように姿を変えられる力を有している。能力の源である守護霊のスタンドやその攻撃などは多くの場合凡人には見えない。だが、お前もギャングなら一度は見えない何かの攻撃を受けたり圧を喰らった事はあるだろ?」
ル 「確かに…。」
あのショバ代をボッたくりに来る男や、さっき自分をボコボコにした日本人男もそうだったのか…と思い返した。
ル 「 (あれがスタンド能力というやつなのか…。) 」
ボ 「この力でオレは成り上がり、パッショーネを創設したのだ。イタリアでギャングは多くあれど、スタンドが使える奴はごく少数だ。スタンド使いこそがギャング界を、いや、この世界を制するのだッ!!」
喋り終えると、ボスはまた皮を脱いだ。
今度はルカの姿になり、しかも服もここに来るまで来ていたものを着用している。
ル 「オ…オレの服…着てやがったのか気色悪い!!」
ボ 「いや、これはお前が着ていた服ではない。姿と同じで、スタンドのカム・アウトの力で再現したものだ。」
やはり声まで完全に再現されており、戦慄が止まらない。
最初とは別の理由で部屋を逃げ出したくなったが、恐怖に脚がすくんでほとんど動けなかった。
ボスは怖じ気づいて必死に逃げまどうルカにギリギリまで迫り、壁際まで追い詰めた。
ボ 「まあ、そう怖がるな。」
ボスは震えが止まらないルカの顔を撫で、手で両目の涙をぬぐいながら続けた。
ボ 「ルカ、オレにはお前の力が必要なのだ。お前は強大な力を持つスタンド使いになれる素質がある。その力があれば、パッショーネの社会的地位や権力をより確かなものに出来る。」
ル 「………!」
顔が近すぎる。
声も出せず、汗が止まらない。
ボ 「お前がスタンド使いになれれば、お前の地位も居場所も揺るがないものとなる。それは約束する。」
ル 「………。」
ボ 「オレの側近として、力になってはくれないか?」
ル 「………。」
どうにも震えが止まらないが、地位や居場所の保障の謳い文句に心を惹かれ、少しだけ信用しついて行ってみる事にした。
ル 「……分かった。オレを本当に上役として登用してくれるというのなら…。」
ボ 「そうか!そう来なくては。」
ボスは笑って喜び、また皮を脱いだ。
本当に目の前でそうされても、脱皮出来るしくみが全く以って分からない。
肉の下に肉があり、脱ぐと直前まで通っていた血の気や肌の弾力が一気に失われ、死体のような様相になるのだ。
まるで自分の死体のようにも見え、ルカはゾッとした。
顔を上げると、ボスは少女の姿に変わっていた。
小柄で短めの黒髪だが触角のような長く白い毛束が2本あり、片目の周りに黒いメイクを入れ、黒いビキニを着てポンチョのようなものをはおった姿をしている。
ボ 「ふう、やはり女の身体のほうが軽くて動きやすい。」
ル 「お前、女なのか?」
ボ 「いや、男だ。割合気に入ってよく使っているが、これも仮の姿の一つに過ぎない。
名前もそうで、普段は〝L〟と名乗っておる。」
姿と声は少女でも、話し言葉は一貫して老人口調のままでどうにも不釣り合いである。
これが仮の姿であるという事はよく分かる。
ル 「……。しかし、どうやったらスタンド使いになれるんだ…?」
ボ 「スタンド使いは生まれつきの者と、後から〝矢〟の力でスタンド使いになる者が居る。お前は今はスタンド使いではないが、〝矢〟の力でそうなってもらう。少しばかり苦しいだろうが、いっときの辛抱だ。それが収まれば、絶大な力が手に入る。」
ル 「〝矢〟の力…?」
ボ 「まあ、どういう事かはやってみれば分かる。」
ボスはルカから離れ、部屋に備え付けられている電話で内線をかけた。
ボ 「おい出番だ。アレ持ってきてくれ。」
鶴の一声を受け、すぐに2人組の男が入室した。
爆発したような妙なヘアスタイルで緑色のメイクをし白衣のようなものを着たカビ臭い男と、茶色っぽい全身スーツを着た男だ。
後者は助手なのか、カビ男のうしろをついて歩いている。
尚助手のこの男はセッコであり、この時点ではまだ全身は腐っておらず、外見はほぼ普通の人間であった。
このカビ男こそ、セッコが盲従してやまないその主人である。
ボ 「ルカに矢を打ちこんでやってくれ。
くれぐれも殺す事が無いようにな。」
黴 「はいはい。」
ル 「( 殺す事が無いように…? ) 」
ボ 「あとは任せたぞ。」
ボスは元来たドアの向こうへと戻っていった。
ル 「( お、おい!置いて行くな!!) 」
ひとり置き去られたルカは得体の知れない恐怖を感じ、また不安になった。
ボスが去るとカビ男は態度を一変し、不機嫌そうに悪態をつき出した。
黴 「ケッ!全く、脱いだ服ぐらい畳んで片づけるか洗濯機にブッこめってママに教わらなかったのかよッ!!」
一番近くに落ちていたボスの皮を踏んづけてめちゃくちゃに壊しながらキレ散らかした。
ルカは全身の血の気が引いた。
踏み壊されているのは、自分の姿を模した皮である。
黴 「あ゙?何ビビってんだよ?ただの皮だぞ。」
皮は原形すら留めないほど踏み壊され、損壊された死体の肉塊のように成り果てた。
いくらギャングとはいえ、この様な事をされては背筋を凍らせざるを得ない。
黴 「毎度あちこち散らかされてジャマでしょうがねえが、まあウサ晴らしのサンドバックにはなるわな。」
先の老人姿の皮とピンク髪の姿の皮を拾って掴み上げ、遠くにあるゴミ箱に思いきり投げつけた。
老人姿のほうはちゃんと入ったが、ピンク髪のほうは入らず、首の部分が外れて床に落ちた。
ルカは自分もこの男にこのような目に遭わされると確信し、最早身動きどころか声を上げる事すら出来なかった。
カビ男は彼の目を見て不気味に笑った。
黴 「すぐに始める。台の上に戻れ。」
……断るという選択肢は無かった。
セッコに押されてすくむ脚を引きずり、また手術台の上に載せられた。
最早殺処分機に入れられた犬や まな板の上の鯉のようなものである。
もう自分ではどうしようもない。
運命に従うしかない。
黴 「おいセッコ、ちゃんとカメラ廻ってるか?」
セ 「もちろんですぅー!」
黴 「後で録画されてませんでしたぁってのが一番ムカツクんだ!今日は大丈夫だろうな?」
セ 「ちゃんと全台動いてます!」
黴 「そうか。よし、では動かないようにお前のスタンド能力で固定しろ。」
セ 「はーい!」
セッコは手術台のほうを向いた。
セ 「オアシス!!」
すると手術台の上にドロのようなものが現れ、バンドのようなものと化してルカの手足をきつく固定し動けなくした。
ル 「なっ、何だこのドロは!?」
黴 「ん?お前まだスタンド使いじゃないのにドロが見えてるのか?こりゃ面白そうだな!」
セッコはドロの色を変えた。
セ 「何色に見えるぅ?」
ル 「…たぶん緑色っぽい…。」
セ 「ピンポーン!ただ者じゃないですよコイツ!」
黴 「そうだな。あいつが見込んだだけの事はある。セッコ、矢をくれ。」
セ 「はーい!」
セッコは身体の中にしまっていた矢を取り出し、カビ男に手渡した。
何処にこんなものをしまっていたのかと思うような長さで、1mはある。
その黒い棒の先端に黄金の矢が付いており、矢の中央部には赤い宝石があり、どちらも輝いている。
黴 「さて、どこを刺すか…?セッコのドロが見えてるんだ、多少深い所に刺しても死なねえだろ。」
セ 「心臓とかどう?」
黴 「ダメだ。さすがにそれじゃ大半が死んじまう。そうなりゃあのカメレオン野郎めんどくせえだろ。サジ加減が必要さ。」
ル 「サジ加減…?」
黴 「そうだ。矢の力でスタンド使いになるなら、苦しみゃ苦しむだけ強大な力のスタンドを得る事が出来んだよ。」
カビ男は矢を撃つ位置を決めた。
黴 「よし…喰らいなッ!!」
手にした矢で勢いを付け、ルカの右脇腹を思いきり突き刺した。
ル 「ぐああああああッ!!」
カビ男は激痛に叫びもがくルカを楽しそうに見ている。
暴れもがいた事でドロで拘束されている部分がうっ血し、傷からも大量の出血があるが何もしない。
黴 「苦しめわめけ!
力や地位を得たいなら、それに見合った代償が必要なのだッ!!」
カビ男は傷口を手で軽く仰いだ。
ル 「ああああああああッ!!」
焼け付くような痛みが走り、苦痛と恐怖以外の思考が消え失せる。
ふざけてセッコも傷口に息を吹きかけ、激痛をあおり暴れさせた。
黴 「セッコ、こんな所にしよう。ルカはもう暴れられても逃げられはしない。解いて大丈夫だぞ。」
セ 「はーい♪」
カビ男はセッコにドロの拘束を解除させた。
黴 「人が苦しむ様子を間近で観察するのは実に楽しい。ビデオもちゃんと撮れてるだろうし、後でゆっくり見るとしよう。」
セ 「はい!」
黴 「そうだセッコ、帰ったら角砂糖投げて遊んでやるからな。」
セ 「ホント?やったぁ!」
黴 「何個やろうか?」
セ 「いっぱい欲しい!」
黴 「いっぱいはダメだ。糖尿になるぞ。」
セ 「え~。」
黴 「まあいい、家に帰ってから個数は決めよう。」
セ 「分かったよぉ。」
黴 「よしよし。」
台の上で苦しみ続けるルカの事など全く眼中に無く、カビ男は甘えるセッコを撫でて連れ、手術室から出て行ってしまった。
放置されたルカはその後もしばらく苦しみ続け、意識が飛んだり戻ったりを繰り返した。
その後も痛みと高熱で意識が朦朧とし、動くどころか目を開ける事すらままならない日が続いた。
矢で刺されて数日後。
朦朧とし続ける意識の中、夢を見た。
夢の中でも痛みにもがき、もう耐えられず早く死んで楽になりたいとさえ希う程容態は悪化していた。
そう思い何も無い空間を這って死に場所を求め必死に動く中、彼の肩に白く細い手がそっと当てられた。
ル 「!?」
はっとして振り返った。
そこに居たのは、華奢な体躯の比較的小柄な女性だった。
全身を白い光に包まれ、美しくも神々しい。
しかし、顔がよく見えない。
ル 「…女神……様……?」
女性は何も話さずに微笑み、ルカをかかえて抱きしめた。
ル 「あの時の……!」
これがあの時自分を助けてくれた女神様である事を確信しお礼を言いたかったが、ここで目が覚めてしまった。
ル 「………。」
ボ 「おっ、気が付いたようじゃな。」
ル 「……?」
目を開くと、すぐ隣に老人姿のボスが居るのが見えた。
ボ 「ずいぶんかかったな。もう16日間は意識不明で寝ていたんじゃぞ!」
ル 「…え……。」
そんなにも長い間寝続けていたとは思いもしなかった。
知らない間に手術室から病院の個室のような所へ移されており、病院服まで着せられていた。
腕や脚、胸などあちこちに管が多数繋がれている。
ボスは布団をめくってルカの右腕を出した。
ボ 「オレの手、握ってみな。」
言われるまま、ボスの手を握った。
ちゃんと力を入れて動かす事が出来、ボスの手の硬い感触も良く分かる。
ボ 「大丈夫そうじゃな。ずっと寝たきりなのにまったく筋肉量が落ちていない。どうも再生・回復に特化したタイプのスタンドになりそうだ。」
ル 「そうなのか…。」
ルカの枕元には、赤い瞳の小さなひよこが1羽寄り添っていた。
更にその後も矢の傷が膿み、40度を超える高熱と痛みにより意識が不確かな日がかれこれ10日は続いたが、カビ男は全く世話に顔を出さず、ボスが直々に手厚く世話と看護を行った。
食事の介助から傷の手当、果てには身体のケアまで全てを行い、この異例の厚遇により心身を支えられ、ルカはなんとか生還出来た。
そして不屈の心は巨大な炎の不死鳥としてスタンド化し、ラメント・バスを得た。
初出現時はあまりの巨大さに病棟を破壊し死者も出す惨事となったが、予想以上に強大な力を持ったスタンドの誕生にボスは喜び、笑って許された。
回復後も引き続きボスの手により世話をされ、通常の学問に加え軍事的な教育を受けてすぐに才能を開花させ、異例のスピードでボス親衛班の首席となった。
手暑い庇護と愛情を受けてスタンド使いになり、この地位を与えて支えてくれた事に対し強い恩義を感じており、これ故にボスに対する忠誠心が非常に高かったのである。
かつては、の話ではあるが……。
<次回予告>
ボスへの鋼の忠誠心に揺らぎが生じたのは、ある一件がきっかけだった。
〝女神様〟の正体が分かり、喜んだのもつかの間だった。
次回、イルの奇妙なX日間
来週もご視聴ください。
補足など
・パッショーネのバッチにはシリアルナンバーが記載されているようです(これでルカは自分のバッチと分かったようです)。
ボス専用のバッチは上層の人間しか見た事が無いので、どんなものかは様々なウワサが飛び交っていました。
ちなみにボスのバッチのシリアルナンバーはXと表記されています。
・ブラックオパールのパワーストーンとしての効果は強烈なカリスマ性、物怖じさせない、勝負に強くさせ絶頂を導く力を与えるというものです(これは書いた後に知りました)。
・ボスは会ったことがある人物なら誰にでも化けられるようですが、今話に出てきた3つの姿を好んでとっています。
尚、老人姿が3部ジョセフ、ピンクの長髪姿がディアボロ、少女姿がシーラEで声もそれらになっています。
しかし以前ルカの死体からボスのデータを解析した#23フェイス(
https://ameblo.jp/kuro-inu-kennel/entry-12504714420.html)でも出たように、どの姿でも瞳の色はエメラルドグリーンになっています。
・ボスのスタンド、カム・アウトについても#50ブラックボックス(
https://ameblo.jp/kuro-inu-kennel/entry-12569787938.html
)で言及されていますが、ルカですらどんなスタンドなのかよく分かっていません。
※カム・アウト(再掲)
名前の元ネタのこの曲に、様々なヒントが…。
・セッコ、この段階ではまだ腐っていません。
カビ男(:チョコラータ)死亡のショックと自分で身体の防腐処理が上手く出来ない事で腐れだしてしまいました。
まだ頭も普通なのでちゃんと喋れています。
助手として働いている時はいつもビデオを撮っていますが、この日はハンディではなく固定カメラをいくつか廻していました。
・ラメントが破壊した病棟はその後、ボスのポケットマネーで修繕されました。これはパッショーネの構成員専用の病院ですが、誰がどの時に使用するための物かは不明。
イルーゾォの世界に同等の施設があるかは分かっていません。
・ラメント、初めて出てきた時はあまりに小さかった為ボスにもルカにも気づかれず、今知られている巨大な不死鳥の姿になって病棟を破壊した時が初出現と思われています。
・ラメントの大きさは厳密に考えたことがありません(笑)
紅蓮の翼の回で白いダウンが生えている部分にギアッチョがしがみついたシーンがあり、となるとあの部分がおよそ170cmはあり…まあ、とにかく巨大です。
生前の融合時は身体のパーツを借りている時は人(ルカ)のサイズ、ラメントに融合、或いは化けて(?)召喚操縦している時は本来の巨大サイズです。
・ルカがカビ男を名前呼びしたくない程嫌っている理由、お察しいただけたでしょうか?
回想前の#75 スターバト内のセッコとの会話にあるよう、ひどい仕打ちを首席になった後も受け続けました。
ちなみに呼んでないせいか、チョコラータという名前をすっかり忘れてしまっているようです。