こんばんは。栗下善行です。

 

 

4月23日に不健全図書の問題について語るスペースを開催したところ、その当日に実際にこの4月に不健全図書指定を受けた現役のBL作家 「星崎レオ」先生から直接連絡をもらい、実際に指定を受けた作家さんの心情や、作家さんから見た健全審の問題点などについてお話を伺う機会を得ました。

 

これまで、出版社などには「不健全図書制度」についてどう思うか、お話を聴いたことは何度かありましたが、作家さんからは匿名でしか伺うことがありませんでした。

出版社や編集部、またファンの方々とのセンシティブな関係性もあり、作家さんが自ら声を上げることは極めて心理的抵抗の大きなことであるといえます。しかし、以下に書かせて頂いた作家さんとのやり取りの記録にある通り、「自分はもうコミックスが出せなくなってもいい、それ以上に自分の子どもとも言える作品が問題のある制度になき者にされることがとても辛かった。」そうした強い想いを持って発信をされました。また、私とのやり取りの記録も多くの方々に知って頂きたいと公開をすることとなりました。

 

お話は限られた時間ではありましたが、この記録が共有されることで、これまで知られることのなかった不健全図書指定をされた作家さんの心情について、より多くの方々に知っていただき、時代から取り残されてしまったこの制度を改めて見つめるきっかけになればと思っています。以下、ご覧いただけば幸いです。

 

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◆自分の作品が不健全図書に選ばれるとどうなるのか

 

栗下:まず、自分の作品が不健全図書指定を受けてしまった時って、どういうふうに通知がされるもんなんですか?

 

星崎:当事者の私には全く通知はないです。

 

栗下:都からは出版社の方に来るわけですよね。出版社から星崎先生へ、審査対象になったということが知らされる訳ですか?

 

星崎:それもないですね。

 

栗下:ええっ。

 

星崎:出版社の方からお尋ねしたっていう形になってました。そしたら「検討書に選ばれてます」と。

 

栗下:そういえば、審査段階においては図書名は凄い機密なんですよね。だから出版社に対してもか。

 

星崎:多分そうなんじゃないですかね。

 

栗下:本当にあの審議会で決定されて、出版社に知らされて、それが公になるわけじゃないですか。そこで初めて作家の方が知ることになるっていうことなんですね。

 

星崎:そうですね。私は偶然ファンの方からTwitterで知らせていただいたので・・。出版社の方からいずれは伝えていただく予定だったと思うんですけど。

 

栗下:いきなりファンの方から知らされるなんて、結構ショックですよね。

 

星崎:そうですね。その時点ではかなりショックでした。本当にどうなっちゃうんだろうという。

 

栗下:わかんないじゃないですか。どういうシステムなのかという。何かとんでもないことになっちゃったと思いますよね。

 

星崎:直近でWebサイン会もあって、もう決まってしまっていたので、それに関してそのままやって大丈夫なのか、編集部の方に尋ねてしまいました。

 

栗下:今あの、AmazonのKindleの方でも、先生の作品見られるじゃないですか。そうすると、Kindleの方でもいつどうなるかっていうこともちょっとわかんない、そういう状況なんですかね。

 

星崎:わからないですね。要は私の分は4月ですが、先に指定されたの作品が消えてない状態だと思うんです。私ちょっと把握してないんですけど、もしかしたら一気に来るのかなって思うし、タイムラグが結構あるのかなと思います。

 

栗下:ここはもうやっぱりアマゾンの胸先三寸なんで、ちょっと我々にもわからないことが多いんですけど、より多くの方々に読んでいただくためには、Amazonがとっても大事な流通なので、基本的にはできなくなっちゃうっていうのは、やっぱりその収入とか売り上げ、その作家さんの実入りっていうものにもやっぱり関わってきますよね。

 

星崎:私に関してはそこはあんまりあてにはしていないと。コミックスでもありますし。でもそこが大きい方ももちろんいらっしゃると思います。月1本の形とかだと、普通月20万もいかないので、どうしてもコミックスの部分で当てにせざるを得ないっていうこともあるとは思います。

 

栗下:そこをコミックスで補っているから、やっぱりAmazonとかから、なくなっちゃったとするとすごい困るってことですよね。

 

星崎:そうですねそういう方はもちろんいらっしゃいます。

 

 

◆青少年健全育成審議会の在り方について

 

星崎:私の考えみたいなことも申し上げても大丈夫ですか?

 

栗下:ぜひお願いします

 

星崎:印象として今まで、あまり声を上げる人がいなかったと思うんですが、やっぱりそういう表現の漫画を書いているので、後ろめたさというかそういった部分はやっぱりあると思うんです。私自身が同人誌即売会に行ったりするんですが、リスク回避のために、わずかな性描写でもあれば、もうR18にしてアップするという、そういう形をとるんですが、商業BLだと自分で決められない状態なわけじゃないですか。

なので、私としては、レーティングに関しては反対派ではないです。

 

あらゆる出版社がせーのでちゃんとR18というものを出すとか、そういうことがない限りはやっぱりその月に1冊とかだとどうしてもどちらの棚に置くか考えてしまいますし、現状置き場がないというような状況で。不健全図書に指定されたものをR18で再度出していただいたという前例も同じ出版社からあるんですね。なので、前例もなくはないんですが、それは男性向け要素が強い作品だったりとかするんです。現状ではやはりこれから変わっていくかもしれませんが。

 

栗下:つまり成年マークをつけて売るっていうのは、やっぱ男性ならそこまで敷居をかいくぐって買いに行くけど、女性向けはもう根本的売れなくなっちゃうってことですよね。

 

星崎:そうですねティーンズラブとかもそうありますし。私が元々ティーンズラブ作家なんですね。で、旧作のBLが今回指定されてしまった訳なんですが。石原都知事の時代のことを知識としてではなくて、経験として知っていて、事情もわかっていて、作家としての。もしBLが今後、そのゾーニングに成功したとして、R18のBLとか女性向けR18作品っていう、そのカテゴリができたとしたところで、不健全図書の仕組みだとか、次に性的なものっていうところにターゲットが移るだけだと思うんです。

 

そこは話が別というか、今回の私の作品が不健全図書になったこととそのシステム自体、話が別かなと思っていて。それこそ次はティーンズラブだとかヤング誌だとか違うものがが標的になるだけで、結局、相対評価でしかないので、そういうことを危惧しているっていう部分もあります。ツイートでは自分のことをやっぱり中心には書いたんですが。

 

栗下:審議会を知っている者からするとその通りだなと思っていて。昨日のスペース対談でも出たんですけど、やっぱりもう基本的に月に1冊何かを選ぶっていうのがまず前提としてあるのでそんな風になりますよね。

 

星崎:無限ループですよね、このままだと。まずBLになってしまっていますが

他の作品とかに標的移るかもしれませんしそうですね。

 

 

栗下:だから、もうあの制度自体が古くなっていて、多くの方々ってやっぱり普段関心ないんですけど、はい。でも誰も別に止めようともしないので、止まらずに粛々とそういうふうな働きをしてるってことですよね。なんと表現すべきか・・

 

星崎:「惰性」ですよね。

 

栗下:そう「惰性」だと思います。だから本当にガラッと変えられたらと思うんですけれどもね。

昨日のツイートはもう相当拡散しましたので、小池知事の目にも確実に届いてますから、小池知事がそれを受けとめるかどうかは全くの別問題なんですけど。

 

星崎:いやいやいやいやいや

 

栗下:リプライでも、あそこまでの行く行くってのはあんまりないので、間違いなく。小池知事の目にも映ってると思うんですけど。ちょっと力入れてくれれば、何かしらのことはできるはずなんですけどね。我々も後押しをしていきたいというふうに思ってますので。

 

これ、出版社のスタンスっていうのは、その作品を作るときにその編集の方々と相談して描いたとおっしゃってたんですけど、出版社の方々も結局、何が駄目なのかっていうのは、何か明確な基準が都の方で定まってるわけじゃないから、やっぱり手探りになっちゃうわけですよね。

 

星崎:ちょっと今回イレギュラーにして、「主任」の方に関しては元々電信専門レーベルで書いていたものを別のところにコミックス化していただけることになったんですね。それで電子なのでちょっと過激な表現がやっぱり多く。電子の方は作っている時点で、なるべく性表現を多くしてください、とのことで作ったものなので。そういう表現がやはりあることは確かですが、コミック誌にする際に今回発行していただいた編集部さんの編集さんが、

コミックスをいくつも出されているわけですし、ある程度全例を鑑みて、れくらいだったら大丈夫だろうというところで、私も事前にやっぱりその経験と知っているので、不健全図書の件は大丈夫でしょうか?みたいな話をしたんですね。

 

その時点では大丈夫ですって感じで、星崎さんは大丈夫ですよっていうような形だったんですね。つまり、しかも例えば薬物を使っている表現があったりだとか、そういう人格否定の表現があるわけでもないですし。

 

栗下:確かに。「人格否定」と同じ位審議会でよく指摘される、「器具を使った」表現もないですよね。

 

星崎:なんというか男性向け的要素は少ないというか。引っかかることはないでしょっていう形で、最初は話をしていたので、紙にするにあたって、前例を鑑みて、修正も増やしていただいて、ある程度万全の体制だったんですね。出版にあたっては。もちろん全く不健全ではないということ言うつもりはないんですが。

 

栗下;これちょっと私不勉強だったんですけど電子版と紙っていうのは、電子版の方が表現の幅っていうのはやっぱ許されるんですか、より広く。

 

星崎:それはおそらく書籍の配信元というか、電子書籍書店みたいな、そこのレギュレーションというか、そういうのに沿っているので、基本的には現状のBLコミックスをベースとした軽度の資料を持っていることになってると思うんですが、もちろんレーベルによってもレギュレーション違いますし。

レーベルごとのレギュレーションがあるので、それを守って書くっていう形になります。

 

栗下:電子書店は一応体裁っていうか、システムとして「18歳以上ですね」っていう確認を多分してるので、そこら辺はより多分自由度が高いのかな。そういう具体的なものに落とし込むとさっきおっしゃったような、その修正の部分であったりっていうような、その他部分であったりっていうようなことになるんですよね。

 

星崎:コミックスと同等ということにはなっていると思います。なので今回のことに関しては、より同等ではある。それに修正を足したっていう形になると思います。

 

栗下:審議会にもう上がったらほぼ100%指定なので、そこら辺も顧みられないですよね。そもそも100%指定にするのならば、審議会の意味もない。

 

星崎:発売された図書全体がどうなっているかは関係なくて、都で選ばれたものだけが指定されるっていう状況になってるという感覚です。

 

栗下:確かに器具とか薬物使用の表現があると、審議員はみんなそれを指定理由としてあげるんですよ。それはもう間違いなく背を押す要素であることは確かなんです。また、修正が不十分っていうのは言われるんですけど、仮にそれがなかったとしても結局、性行為の表現があることだけでも、それなりの回数ですねつまり1話に1回とかあれば、やっぱりそれを理由に、区分陳列だって、みんないいますよね。

 

あと、星崎先生の作品は特に、器具とか薬物使用の要素であったり、あとは性行為が主のストーリーではなく、キャラクターとストーリーの中で性行為とがあるように感じられたので、そこら辺の違いっていうのは審議員にもっと見て欲しかったですよね。僕個人の意見ですが。

 

 

◆最も傷ついているのはクリエイター

 

栗下:都庁の職員が150冊ぐらい本屋で買い集めて、比較検討するわけですけど、審議会に上がっている図書が一番過激かどうかというのもわかんないですよね。それはもちろん主観的な話なので、すごくアンフェアだと思います。

 

星崎:それで今回のことはやっぱりその出版社の編集さん側は、事故にでもあったと思ってと。言い方悪いですけど泣き寝入りするしかないと。その経緯を犠牲にして成り立ってきた業界でもあると思うので。

 

栗下:僕も委員のときにいくつかの出版社にお話聞きたいってメール出したら、〇〇社さんだけが答えてくれたんですけど。〇〇社さん、常連ですよね。当時、話のわかる方が取締役いたんでお話したんですけど。同じようなことを言っていました。編集部はともかく作家さんがかわいそうだ、ともおっしゃってましたね。

 

星崎:やっぱりそうですよね。結構割を食うのは作家の方なので。いつ自分の順番が回ってくるかわからない、処刑みたいなことですよね。

 

栗下:そういうことですよ本当に。

でも星崎先生は編集さんともいろいろ話聞いてそれをやった上でそうなったんで、出版社としては、作家さんにはもうどちらかというとむしろごめんなさいっていうそういうスタンスじゃないんですか。

 

星崎:もちろんそうなんですが、Amazonでの取り扱いはなくなってしまいますが、星崎先生のせいではありませんっていうふうに言っていただいて励ましていただいて。なので、編集部の方に悪い気持ちっていうのは全くなくて、発言したというわけではないんですね。私としてはお互い最善を尽くしたことだったので、悪い気持ちは全く持ってないです。

 

栗下:そうですよねそこはやっぱり、編集部の方々にも引き続き良い関係を保っていただきたいですね。

でも作家さんは個人じゃないですか。いろんな出版社さんとお仕事する可能性もあるっていう中で、やっぱりそのただ、傷ついた、と僕はそんなには思わないですけど、そういう人によって受けとめ様々ですから、傷ついたと思う方もいますよね。この指定を受けたことによって、名誉が。

やっぱりそれは作家さんに全部かかってきちゃうわけじゃないですか。出版社じゃなくて。そこは理不尽だなとしか言いようがないですよね。

 

男性向けの作家さんだと、なんかもう、むしろ何か勲章みたいになってる方もいるんですけど。有名な作家さんの中にも、またあの人が取った、みたいな、そういう人がいますね。

 

星崎:有名な方いますよね。私もそういう方がいらっしゃるとお聞きましたけど。

私、今後コミックスが、話がなくなってもいいやくらいの気持ちでツイートしましたが、特に思い入れがあるコミックスでもあったので。

 

栗下:いや、コミックス出して欲しいですよ、せっかくなのに。ダメですよねなくなったら。

 

星崎:やっぱり作家にとっては作品は自分の子供みたいなものなんですよね。なので、そういうふうに割り切れる方もいらっしゃると思うんですけど、私は割り切れなくて。

 

栗下:でも、それぐらいの覚悟といいますか、思いを持って、あれはツイッターの発信して頂いたんですよね。

というのは、これまで匿名でこういう気持ちだって伝えていただいた方がいますけれども、名前とセットで公にした方は僕の知る限りいないです。だからそれぐらいやっぱり心理的抵抗っていうのはあると思うんですよね。

 

星崎:今回みたいな内容は叩かれることももちろんありますし、自分が悪いんだろ、みたいな。

 

栗下:だから、今お話伺ってな、なんていうか非常にそこまでの、何ですかねそういう抵抗がありながらもう声を上げてくださったっていうのは、そこまでの思いがあったんだなっていうふうに思いますね。BLの場合、結構人気作家の方が指定されるんですよね。

 

星崎:そうですよね。私なんて本当にぽっと出ですけど、私の好きな作家さんの作品とかも、不健全図書指定されて絶版になってしまったりとか、そういうのがそれぞれ残念だったんですね。

 

栗下:アニメ化とか他のメディアミックスが展開されているような作品でも、たまに指定されたりしますもんね。じゃあ他媒体の奴はどうするんだとか。だからそこもやっぱり、ちょっと男性向けのやつとちょっと違うかなっていう気はしますよね。

 

星崎:そこは本当に難しい問題だと思いますさっきゾーニングの話をしましたがもう本当にそんな感じの話ではないと。

 

 

◆電子媒体と紙媒体

 

栗下:昨今もうやっぱり電子媒体電子でのその流通の方が、あるいはその特にこういうふうな本においては、もしかしたら主になってるのかなっていう印象もあったんですけど、実際のところどんな感じなんでしょう。実際に読まれてる方々がどっちを選択されてるのかっていう。

 

星崎:私の体感だとどうしてもまだBLっていうのは、まだ紙の方が上です。要はコミックスが出ているかどうかでその存在を認識していただけるかどうかっていうところがやっぱりまだあって。私は元々そのWebオンリーのところでコミックスが出ませんよっていう話で。

今回指定されたものもそうしていて、読者さんというか例えばフォロワーさんとか、コミックスな出る前は今ほどはないという状態で、コミックスが売れたことり、一般的な認知というのが、BL作家としての一般的な認知っていうのが高まった。なので、今でも紙が主要媒体だと思います。

 

栗下:まず認知が高まっていかなくちゃいけないっていうのがあって、そのためにもやっぱり紙っていうのはやっぱり重要な流通経路なんですね。

 

星崎:そうですねBLに関しては、今でもそうだと思います。

 

栗下:やっぱり読者さんは書店等々で買ってるってことなんですね。でも通販とかもありますかね。

 

星崎:おそらく書店の方が東京では多いかなと。地方だとやっぱり書店に並ぶ数も限られてますし、例えばAmazonで買うとかそういう方も多くいらっし

ゃると思うんですが、やっぱり東京だと、それこそアニメイトとかそういうところに行って、今月の面白そうだって言えないかなー、みたいな層の方が結構いらっしゃるのではないかと想像しています。

 

栗下:なるほど。私の年代、つまり20年前ぐらいは、男性向けの本でR18がついているものはやっぱり紙でみんなおそるおそる買ってた部分あるんですけど、今もう紙だとあんまり買わないだろうと思うんですよ。だってどう考えたって、ネットを通じてっていう方が楽だと思うんですけど、BLにおいては紙媒体もやっぱり大事だってことですね。