こんばんは。都議の栗下です。

 

 

 

先週は、来年度予算審議で連日質疑が行われました。都議会の一年でも指折りの忙しい週で、ブログまで中々手をつけることができませんでしたが、また再開していきたいと思います。

 

先般は、ファミコンが出始めた世代におけるゲーム規制議論について書いてきました。以前まとめたマンガ規制においてもそうでしたが、こういった表現物とは切っても切り離せないのが「性表現」の規制です。実際にファミコンが83年に売り出され、家庭用ゲーム(PC含む)が普及しだしてから、性表現を含むゲームもグレーゾーンの中で売り出されました。今日は、国会で最初に問題視された性表現を含むゲームについて触れたいと思います。

 

 

■国会で最初にアダルトゲームが取り上げられた日

この時代においてはグラフィックが進歩し性表現ができるレベルに至ったことから、ファミコンソフトでも「裏ソフト」と言う、任天堂のチェックをかいくぐって非合法に販売されたソフトも少なからずあったようです。任天堂がそういったソフトに対しては販売差し止めなどの厳しい対応を徹底したことで、ファミコンのブランドが維持されたと言う事については先日のブログでも書きました。

 

一方、PCゲーム市場においては、任天堂のようなスタンダードを定める存在がなかったことから、より刺激の強いものも出回ったようです。

1986年にマカダミアソフトから発売された「177」というPCゲーム。歴史上初めて、国会で議論にのぼったアダルトゲームと言われています。

 

レトロゲームのデータベースサイト8bits

 

タイトルの「177」とは刑法177条のこと。

刑法177条とは「強制性交」つまりレイプに対する罰則です。

第177条
十三歳以上の者に対し、暴行又は脅迫を用いて性交、肛門性交又は口腔性交(以下「性交等」という。)をした者は、強制性交等の罪とし、五年以上の有期懲役に処する。十三歳未満の者に対し、性交等をした者も、同様とする。
 

YouTubeなどに実際のプレー映像がアップされていますので、関心のある方はご覧いただきたいと思いますが、横スクロールアクションの一種で、各ステージで女性を追いかけます。捕まえるごとに衣服が減っていき、最後は捕まえた場所によって違ったアダルトシーンが始まります。アダルトシーンでの操作がうまくできれば女性が満足してハッピーエンド。そうでなければ、逮捕されてバッドエンドというゲームです。

 

発売年の86年10月21日、公明党の草川昭三衆議院議員が、パソコンと教育に関する質問の中で「177」を取り上げます。

 

○草川議員 これは私の体験でございますけれども、つい最近、各所から父兄の方から電話が入ってきまして、中には直接お会いをする方があるのですが「草川君、パソコンゲームというのは今本当にもう家庭の中に入り、そしていわゆるソフト、その中にアダルトポルノというのですか、いわゆるかなりえげつないものが入り込んできている。それを子供が競い合って買おうとする。だから、例えばテレビゲームの場合だと、入れるカセットというのですか、ソフトというのですか、四千円から五千円するわけです。それをたくさん持っておることが子供の世界の中で非常に優位性を持つことになる。お金がないから万引きをするという例がある。とにかくこれを取り上げてくれ」こういう要望でございます。

実は、私ここにたくさんの本を持ってきたのですが、こういうパソコン用のいろいろなゲームの内容紹介なんですが、袋とじになっておりまして、それをはさみで切ると、私が今申し上げるようなのが出てくるわけですよ。

例えば「強姦体験は、ドキドキだ 期待に、思わず胸と下半身が膨らむ、お楽しみソフト」、こういう見出しですね。それで「177」というタイトルになっているのです。「177」というタイトルのゲーム、ここはもう後で警察庁にお伺いしますが、これは非常に警察庁がばかにされていると思うのです。「刑法177条の強姦罪をもじってつけただけあって、そのものズバリの強姦ゲームだ。家路を急ぐ女性との追いかけっこで始まり、女性の服をすべてはぎとって押し倒せば、次はお待ちかねの、あのシーン。ここで一生懸命、腰を動かして、彼女を」云々、こういうことになるわけですが、そうすると「和姦成立という次第だ。さて、どこまで、男性の欲望を満たしてくれますか?」というようなことを、実は小学校、中学校の生徒が読みながら打ち込むわけですよ。

ですから、親としてはもうどうなっておるか、こういうことです。その親の心配は非常によくわかるし、町の本屋に行けばこのような本がたくさんある、袋とじになって、開けますと今の例以外にもいわゆるいかがわしい絵があくさんありまして、それがパソコンゲームなりテレビゲームの題材になるわけでございます。

これは非常に重要だと思うのでございますが、通産省、ちょっとこれはこじつけになるかもわかりませんが、このような業界に物が言えるのかどうか、まず通産省からお話をお伺いしましょう。

○近藤説明員 今先生御指摘の「177」に代表されますような児童の教育上好ましくないと思われますものが、一部出回っておるのは事実でございます。それで私ども、業界に自粛の要請とか、年齢の制限の問題をきちっと、はっきりとわかりやすく書くとか、できるだけの指導をしてまいりたいと思っております。この業界は、パーソナルコンピューターの関係で独立の団体を持っていますので、そういったところを通じましてできるだけの指導をしてまいりたいと思っております。

○草川議員 警察庁に、ついでながら百七十七条の解説を含めて見解を問いたいと思います。

○根本説明員 今のアダルトゲームということですが、大変ゲームをおもしろくするということで、そういった非常に好ましくないような形のソフトをいろいろ考えてきている、こういう大変憂慮するような動向だろう、こういうふうに思います。

 ただ、先生御指摘のように、大変この問題難しくて、警察として法令的にどういうことができるかということですが、一つは刑法に当たるかどうか、あるいはそれまでいかないとすれば、例えば幾つかの県には青少年保護育成条例、こういうものがございますので、こういったもので有害指定をしていくとか、そういうことになろうかと思います。ただ、基本的には、中身をよく検討して、果たしてそういった法令に当てはめることができるかどうか、こういう作業が前提になって、ゲームをいろいろ、幾つか私も拝見させてもらったのですが、なかなか難しい局面もあるようです。そういうことで、今通産省からもお話がございましたけれども、基本的にはそういったソフトはできるだけ避ける、子供向けにはつくらない、それから売り方についても自主規制をしていただく、こういったことを原則にして、そして中身をよく見させてもらった上で、法令に違反するものはきちんと私どもで対処していく、こういうことになろうかと思います。

 ただ、この問題はどんどん進んでいくことが速いので、先生御指摘のように若干対応がおくれぎみになってしまった、こういうことだろうと思います。ただ、私どもとしては、全力を尽くしてそういった子供たちに対する問題がないように努力をしてまいりたい、こういうふうに考えております。

○草川議員 実は、ソフトを打ち込むというのは、やろうと思えば簡単にできるわけですね、一つのストーリーをつくって。よく聞いてみますと、大学生が多いというのです、アルバイトで。ですからいい小遣いで、十五、六万から二十万ぐらいで、少しでも興味のある人ならこういうソフトをつくって、それを業者に渡す。あっという間にコピーができるわけですから、それがある日突然、いろいろな紹介雑誌等を通じて出る。出たときには、わっといってしまう。親が気がつくのは遅い、我々が気がつくのはもっと遅い、こういうことでございますので、よほどこれは慎重に、私はただ取り締まれということを言っておるわけではなくて、周辺の問題として対応を急がなければいかぬ。

 これはやはり子供の教育でございますから、文部省、どのようにお考えになられるのか、お伺いしたいと思います。

○澤田政府委員 まず、具体的に申し上げますと、業界の今一番大きな団体、これは通産省さんと協議をしながら相談をしておるわけでございますが、日本パーソナルコンピュータソフトウェア協会という団体がございます。この中でも、ある程度自主的にそのような問題について自制措置を考慮されておるようでございますが、実際はこの規制のらち外におられる中小の、今先生がおっしゃったような簡便につくるソフトが出回るということをどうするかという問題がございまして、非常に困難でございますが、まず業界の方につきましては、それにしましても、私どもの方から連絡をとりまして改めて御注意を喚起するということが一つ。

 それから、各地域の側では、これはこういうコンピューター物に限りませんけれども、PTAを含めて地域ぐるみで、そういうものについて親が、地域がどう取り組むかということについて、ひとつ社会教育の活動を通じて注意を喚起してまいりたいと考えております。

○草川議員 非常に歯がゆい答弁ですが、大臣、今の話を聞いておみえになって、どういうようにお考えになられるのですか。

塩川文部大臣 これは、私もそういう被害を訴える父兄の声を聞きまして、何とかこういうようなものを取り締まるというか、自粛さす方法はないのだろうかというふうに思うのですけれども、一方から言うたら、これはまた表現の自由で保障されておるじゃないかというような屁理屈が出てまいりますし、そうすると、これはもうそういう制作する人が自粛をしていただくということがまず第一。それと同時に、やはり大人、親なり一般の関係者が絶えず注意をしていくよりしようがない問題かなと思うたりいたします。何としても業者の自粛以外にないという感じがしております。

○草川委員 業者の自粛をするような誘導というものが、これまた政治の立場から必要だと思うので、特に文部省のそういう態度を求めていきたいと思います。

 

少し長くなりましたが、まだゲームにおける性表現のゾーニング等が十分に行われていない中での貴重なやり取りの記録であると思います。

こういうものを取り締まると「表現の自由という屁理屈」が出てくるという塩川文部大臣の発言からは、当時の社会で既に「表現の自由」というものが一定程度重要視されていたこと、また当時の(現在と比較すると)強力な国家権力は、ある側面ではそれを苦々しく見ていたという感覚が滲んでいます。

 

また、「不健全図書」「有害図書」で対処すべきではないかという発言もあります。実は青少年健全育成条例の「不健全図書」は電磁媒体によるものも条文に含まれており、コンピューターソフトを指定することも条文上は可能な作りになっています。しかしながら、今日に至るまで東京都における指定は紙媒体のもののみに留まっています。

 

これらの発言が、それ以前(1950年代)から行われてきたマンガの規制議論が下敷きになっていることは明白であり、マンガ規制議論の中で「あくまで業界が自主規制する」というラインを守り続けてきたことが防波堤として機能していることもわかります。

 

この国会における議論が元となり、その後ゲーム業界における業界団体の設置と自主規制が進んでいく流れが作られたと言われています。この続きは明日以降に書きたいと思います。