こんばんは。都議の栗下です。


皆さま、クリスマスイブをいかがお過ごしでしょうか?
都条例制定から節目の10年ということもあり、今日は都条例問題以前から表現規制問題について取り組む美少女漫画評論家の稀見里都(きみりと@kimirito)さんとの対談をお送りさせていただきます。

オモテでは語られない青少年条例についての本音トーク。
都条例意向の流れと昨今の動向について、できる限り本当の内容が伝われば幸いと思っています!


以下、

き:稀見里都さん

栗:栗下

永:漫画論争編集長の永山薫氏


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栗:2010年に石原都政下で条例改正の問題があって、その後10年間、審議会が改正された条例のもと行われてきましたが、まずこの10年間についてどういう風にお感じになっているのかお聞かせください。

き:改正後の新基準の運用はものすごく慎重にやられているなという感じはあって、ただ新基準を設けた効果が出ているかどうかは疑問です。追加した基準が必要だったか?といった再検討はしていかなければならないのではと思っています。
10年前に比べれば指定されるものの種類がガラリと変わってしまった。
昔はいろいろなものが指定されて、いろんな議論がありましたが今はほぼBL一択ですね。そこに選ぶ方もマンネリ化していて、そもそも条例で青少年を守るという、この審議会を行う根本的な意味というのが薄れてきつつあるのではないかと。審議会に参加している皆さんと、見守る側の都民もどのようにしていくべきか見直す必要があると思います。どうしても形骸化している部分が目立っているように見えますね。
BLにしても選ぶ基準が単一化していて、「前もこれがNGだったから多分これもNGだろう」ということが多い。NGの基準はあるのだろうが、なぜNGかというのがわからない。それは結局本当の意味で青少年を守れているのか、効果というのは検証は多分難しいとは思いますが、見直すきっかけがないとどんどん世の中の感覚からズレていっているように感じます。

今日の議事録を見た時もネットでのリテラシーの問題を学校で教えている
Eラーニング、ああいう取り組みはすごくいいと思う。どういう内容かは知らないんですが…。

栗:講座をやっていますよね。

き:そういう取り組みももっと前面に出してやっていくべきだしアピールすべきだと思います。内容も公開してより専門的なアドバイスを広めていくべきではないか。未然に防ぐという教育が大事だと思います。
不健全図書になるような図書をチェックしてそれからゾーニングして避けるというよりは、今は若い人に事前に知識として教えることが大切。前の勉強会でも話題になった当事者(18歳未満)の意見、当事者がそういう問題をどう考えているかはヒアリングもできると思うので、もう少し当事者たちの意見を参考にしながら本人たちが何を問題としているのかという部分を拾い上げていく必要があると思います。そういう総合的な活動にシフトしていくべき。
それは別に不健全図書廃止というよりは、青少年に対して何が本当に有効的に今の審議会がちゃんと機能しているかというものの考え方というのをいろんな人に議論してもらいたい。

栗:インターネット全盛の時代において、若い子もネットの使い方が巧みだから今はいわゆるエロ本なんてものをほとんど買わないと思います。むしろネットで見るだろうと。そういった中で審議会が50年間続いた形でやられ続けているというのは確かにいびつさというものを出ている我々審議委員も感じています。
かといってネットにも規制を広げるべきではないかと言われたらちょっとつまらない、変な方向にいってしまう、なので軽々には言えませんがそういういびつさは感じています。

き:最近は香川とか鳥取の条例の問題がありますが、結局地方がネットを規制するなんてことは出来ないしやっても無駄だと思います。地方は地方で県民とか都民に対してアプローチをしていけるかという方が現実的。
例えば東京都であれば、性教育(避妊や生理、心の教育も含む)をきちんとしてエロ漫画を読んだとしても「こんなものはファンタジーだ」とわかるようなリテラシーを付けさせる方が全然有効な活動ではないかと思いますし、地方自治体の活動としても現実的だと思いますね。

栗:規制をかけていくというのは巻き戻せないということでもありますよね。

き:巻き戻せないし効果というものが非常に曖昧です。
規制したという事実はすごく「やった感」は出るんですが、「やった感」だけなんですよね。効果がほとんど出なかったというのは今までの歴史が語っているので、それよりはネットありきで、ネットというのはいい面も悪い面もある。非常によくある例えですが、包丁と一緒で使う方の問題なんですよ。使う方がどのように知識を得て、どのように使っていくかということをみんなで考えていかなければならない。ただ免許制にするとややこしくなるので、そこはやっぱり教育が大事になっていくと思っています。

栗:今後ネット規制がいつ議論されるか、その兆しはたまにあったりしますよね。

き:多分来るとは思うんです。非常に挙げやすいし賛同も得られやすい。
ここが問題なんですけど。気に入らないと思っている人の意見というのはものすごく反映した気持ちになりやすい。不健全図書やめましょうと言っても賛同してくれる人の方が少ないと思うので、そういう切り口というのもあまりよくないんじゃないかと思います。むしろこうした方がいいんじゃないかというのを議論していくべきですが、今は議論の場がないんですよね。だから議論する場とかイベントとか、もっともっといろんな人に協力してもらった方がいいと思います。
ネットを見ると両極端な人たちが戦っているだけ。他の8割はどうでもいいと思っている層なので、むしろその8割の人たちにどうやってアピールしていくかというのがこういう問題を大きく捉えていくのに重要なところです。

栗:極端な事例ですが、感情論になりがちで都条例の時もやっぱり規制派の戦略というものあるんですけどこんなとんでもないものが跋扈しているんだということをアピールされるとやっぱりどうしても規制に傾きがちになるので、そうならないように普段から冷静な見方を皆さんに知っていただく、こういう問題があるんだっていうことをアピールしていくことは本当に重要だなと思いますね。

き:結局地道にやっていくしかない。急に変わることはない。いかに地道な活動で正攻法で理解を得て広めていくかが大事。昔は政権側には味方はいなかったんですが、今は多様性を持った議員の方がたくさん増えてくれているのは本当に助かります。昔は本当にいなかったので、どうやって賛同者を増やすかが大変でした。まともな議論すら出来ない状態だった。

栗:私も10年前を振り返ってみると、今ほど表現の自由にコミットする議員が多くなかったと感じます。やはりこの10年間で変わりましたよね?

き:変わりましたね。こういうマイノリティの相手をしても票田にならないので、マジョリティを相手にする方にとっては難しい判断です。表現の自由に賛同するというのはリスクもあります。逆にいうとそういう方を支持する人も増えてきた。こちら側の政治意識も高まっている。それが伝われば、法律も条例も変わるというのが10年前に一度証明されています。ネット上のモノは言うけど動かない人たちを、いかにモノは言わないけど動く人に変えていけるかが鍵でしょうね(笑)。

栗:そういう意味では10年前に最初に来られたちばてつやさんや永井豪さんらが来られてここで集会やってからはワーって広まっていったんですけど、その前の段階で最初に狼煙を上げられていた方々って本当に尊いなと思います。
これからどういう活動をしていけば、表現の自由に関心のある方はやっていくと表現の自由に繋がっていくんでしょうか。

き:難しいですが、ある程度影響力がある、今だと赤松先生みたいな方に協力してもらうことでしょうか。漫画家さんとか表現者の人たちって表に立って戦うっていうのが苦手な人が多いので、今叩かれてるBLとかも、BL作家さんもなかなか意見を言うことはハードルが高いと思います、そういう意味では難しいのですが少しずつアプローチして徐々に協力してもらうというのが必要かなと思っています。

栗:やっぱりそういう活動をしてしまうと作家さんのお仕事に影響があるわけですよね。

き:下手すると読者を減らしてしまう可能性がある。そもそももともと外に出すもんじゃないと思ってる人も多いので、自分たちの主義主張を主張するほど居場所がなくなると思っている方々が多い。男性向けの方は過激派が多くなるんですけど、BLの方はどちらかというと「騒ぐなほっといてくれ」という方が多い。ただその流れも最近は若干光腐女子というか(笑)自分たちのやっていることをもっと正当化していこうという流れができている。タイのBLドラマもすごい流行ってるじゃないですか。ああいう感じで、そういうのがエンターテイメントとして広がっていくのが楽しいという価値観の方が増えている。いろんな人の理解を得ないと表現の活動っていうのは広がっていかないし、自由になれない。

栗:民意を得られるとそれだけでものすごい防衛力になりますよね。
正直言うと、ワンピースとか描写としてかなり女性キャラクターの格好が過激だったりしますが、誰も人気作品なので文句言わないじゃないですか。

き:言っている人もいるんですけどね。鬼滅も言っている人もいるんですけれど、無限列車編の次は遊郭編が始まりますし(笑)

栗:子どもに見せていいのかという声もありますよね

き:そこで何か問題があったときにどう切り抜けるか、影響力というのをどう考えるかですよね。都条例の時も面白くて、刷ってる本って3000部くらいなんですよ。3000部の極端な例で影響力があるということは、ジャンプの300億円稼いでいる映画で若干グロ描写があるものの小さい子どもからお年寄りまで見る影響力っていうのをどう評価するかというのがあって、都条例は本当にマイナーなものに対して規制をかけて意味があるのかということですよね。
10月の議事録で、「あるウェブサイトのAという業者」ってAmazonしかないですよね。なぜ途中で取り下げたのかという問題が載っていましたけど、あれもAmazonなんてボタン1個で大人向けにできるのに、あそこで規制をするといういびつな規制というものに伝播していくというのがあって、そこは考えなくてはいけない問題ですよね。

栗:そこが難しいですよね。Amazonなんてどこかから命令されている訳でもないんですけど、そういった影響についてもちゃんとわかった上で行政側も考えていかないといけない。

き:特に企業というのは独自の判断が強いので、行政の判断に引っ張られた方が良企業に見えるというロジックで動いている。裏ではよくわからないものたくさん売っているじゃないですか。

栗:ボウガンとか売ってますもんね。

き:そういう意味ではちぐはぐな規制というのが世に氾濫してしまうと。
それは行政がちゃんとしていなければ示しがつかない部分もあるし、青少年に対して何が重要なのかというのを真剣に、時代にあったものですね。
この審議会は50年、要するに変わってきてはいるんですけど変わり方に対する議論というのはまだまだだと思います。2年に一回の変革の時も重要だと考えていない。それより時代が動く方が全然早いので、その辺はもう少しフレキシブルにしないと。
昔の議事録を読んでいると、できた当時はオリンピックもあったしあの当時は不良少年の問題として不健全図書があり、警察白書によると犯罪者の8割が不健全図書を読んでいたという。犯罪者の8割がパンを食べていたぐらいのよくわからない動機が載っているんですけど、非行と結び付けられた部分があるんですけど今はもうなくなって。悪影響という観点では語れるんですけどその悪影響というのがなんなのかというのは全然議論されていない。
検証もしないんだったらどのような悪影響があるのかという指針は出さなければいけない。

栗:昨今B Lがほとんどになってきているんですけど、いわゆる男性向けを真似してこういうことをしたらどうするんだという議論がありますが、B Lはある種ファンタジーと言ってもいいの世界なので、それに対してどういう悪影響があるのか、しかも読むのは女性じゃないですか。そういう疑問というのをB Lを審議するたびに感じます。

き:10月の議事録で面白かったのが、「血は繋がってないけど近親相姦を想起させる」

栗「Twitterに書かれてましたね、妄想じゃないかって(笑)

き:そもそもBLの近親相姦というものをどういう風に捉えているかっていう。

永:思い出した。うちも記事に書いた。法律では禁止されていない、一応条例には第二基準的に問題があるっていうけど、男女だったらまだわかるけど同性同士の近親相姦だと、なんでも想起させるっていうか想起しちゃた人の負けじゃないですか。
あそこですごくおかしかったのが、都の側の人が真面目に「これは血の繋がりがないから近親相姦ではありません」と言っていて、これはおかしいなと(笑)

なのでその議論は別にいいんですけど、その根本ですよね。
そこに結局踏み入らない限り、見てる側からしたら不毛な議論にしか見えない。

栗:だから審議会での条例の運用が非常にいい加減で、審議委員の意見も必ずしも条例の趣旨が正確に共有されていないと。
「子どもたちに見せたくないと思うので指定」みたいな。それはちょっと違うんじゃ無いかって。
だから先ほど稀見理都さんがおっしゃったように、どういう悪影響があるのかっていうところを忘れてはいけないということですよね。

き:そこはもう少し議論すべきだと思いますし、あとは予選問題ですよね。

栗:毎回100冊以上ですからね。

き:よく都民からの申し出で、「この本はひどいと思います、不健全図書にしてください!」というのがあるじゃないですか。あれで「職員の審査の結果問題ないと判断しましたので」っていうのは結局諮問にあげないで、都民安全推進本部が勝手に判断しちゃってるじゃんっていう。最終的に審議委員会に責任を投げてるだけじゃないかと。

栗:報告って一応一通でもメールがあればされるんですが、具体的な内容って知らされないんですよね。こないだのゆづか姫の話って知ってます?
アベノマスクブラポスターのやつ。あれって一応後から見たら報告するんですけど、私たちはその時ブラポスターの件に気がつかなかったんです。
ポスターがどうのこうのとは言っていたけど、具体的にブラポスターがどうのこうのって話じゃないんで。同じく本についても、概要すぎてどの作品のことを言っているのかわからないんですよね。だからおっしゃる通り、完全に彼らが判断していると言っても過言ではないですよね。

き:そこらへんはある程度市民運動というか周知していくことには話が進まないんじゃないかと。

栗:10人、20人、傍聴に来ている人の中でも注目を集めるだけでも違うと思います。今はもうあらゆる都議会の傍聴は中止になっているんです。本会議ですら傍聴はやっていないのに、審議会だけ傍聴はやっているっていう。
だからかなり都民の視線というものを都民安全推進本部も気にしている。

き:傍聴が増えてから議事の内容は良くなっているんです。実は。
20年ぐらい読んでいるんですけど、視線があることによって議論が前より良くなっていく。昔は本当に「指定でお願いします」で終わっていたのが、ちゃんと話そうというものが増えてきている。それはやっぱりいろんな人が注目しているというのを感じている証拠だと。
あと僕は議事録の時間の統計を取っているんですけど徐々に伸びているんですよ。昔は15分で終わったこともあった。

栗:データとしてまとめてらっしゃる?(驚)

き:議事録に開始時間と終了時間が載っているじゃないですか。あれを毎回グラフにしているんですよ。
なので、みんなが注目しているというのは議会を良くする効果になっていると思います。(グラフを送ります)

栗:1月12日に審議会があるんですが、コロナはその時までに絶対良くなっていないですから、傍聴もなしにしろと言わないですが、この状態で皆さんにおいでいただくというのもやっぱりリスクなのでそろそろインターネット中継入れた方がいいのではというのもアリなんじゃないかと思っているんですけれどね。

き:できればして欲しいですけどね。もっと多くの人に見てもらえる。

栗:2年に1度の改正の時にトライしようと思ってこれも推進本部に話したんですが、一人ひとりの審議員がいいと言わなければ進まないということで、少なくとも全体で「異議なし」ぐらいにならないといけないと。審議員の方達がかなり殻が固いなというのがこの間改革を提案した時に思いました。普段は結構和やかに話をしているんですけど、いざっていう時は変わることに対する抵抗というのがものすごいある。

き:実は意外と都民じゃない人(都外の方)が盛り上がっているという。

栗:やっぱり都条例は事実上国をリードしている部分もあります。
稀見理都さんの深い見識の中で、この間の「初めて指定された漫画」っていうのがすごい面白くて、いわゆるエロ漫画。この案件は面白いなというのがあれば伺いたいなと思っているんですが。

き:いろんなものがあります。50年の歴史をずっとウォッチングしていて思うことは、本当に場当たり的だなと。問題になったから取り込もうっていう。
最初に指定されたコミックも、91年のコミック騒動の時に結局警視庁からの圧力で「じゃあとりあえずこの2冊」という感じで選んだことから始まっているんですよね。それで規制の圧力で動いちゃう。「危ういから規制する」というのは非常に危険な行為だと思いますが、今のBLは危ういと思っているかはわかりませんが、もう規制するものがなくなってきている意味では、僕はもっと他に危ないものがあるような気がするんですが、漫画に限らず。
もっと暴力とか性行為以外のもので、逆に青少年がこれはどうだろうというものはたくさんあるだろうと思うので、そういう議論も含めて広げていって欲しいなと。規制するんではなくて議論して欲しいなと思います。
140冊からパーッと上がってきていますけど、審議会がしなくちゃいけない部分っていうのは本部が出してくるものに対して「なぜこうなんだ」というのを素人だったら素人目線で議論して欲しいんですよね。そこにプロフェッショナルがいればもちろん解説してもらえるし、素人は素人でなぜこれがダメなのか、なぜこれがいいのか、というのをもっと議論して、ただ単に自分が子どもに見せたくないからNGということだけじゃ多分何にも変わらないんじゃないかと。

栗:議論されることでラインに弾力性が出てくるんですよね。

き:何が不健全か不健全じゃないかっていうのは線引きできないんですよ。
そうなると時代にあった議論をして柔軟に変えていく必要があるんです。

栗:時代によってかなり変わってるんですよね。常識とか社会通念とか。
おっしゃる通り、そこを補完するのが審議員ですよね。

き:それが本当の役割だと思います。その割にはそういう議論をせず台本通りに進んでいる感じに見えてしまうと。

栗:5年以上前の議事録を本部は見せないんですけど、あれはずっと保管するべきですよね。

き:むしろなぜ補完しないんだろう?と。
あんなのパソコンに入れたら終わりなのに。

栗:だからあえて保管しないのではという気もするんですが(苦笑)

き:あれは証拠隠滅に近いんじゃないかと。

栗:だから昔の審議会の議論とか見ていると今と全然スタンダードが違いますよね。そこをやっぱり公にしたくないというのがありますよね。
過去の審議会って結構問題あるっていうんですけど、実際ご覧になってどうですか?

き:昔の方が酷かったです。
栗:偏っていた?
き:議事録上がってきた時には直っていたと思うんですけど、昔呼び出された編集者さんの意見を聞くと、昔は本当上から目線で事情聴取みたいな感じで「こんなの作ってて恥ずかしくないのか」と説教されたとよく聞きます。
もっと本が多かったし主に男性向けに対してかなり横暴な感じで規制していたのがまかり通っていて、そのへんは議事録に残したくないんだと思います。
 
栗:諮問されて指定にならなかったというのは私の知る限り1冊は知っていますが、きみりとさんの知見の中では他にあったりしますか?
 
き:昭和まで行くとわからないですが、わかってる中では1冊ですね。指定されなかったものは公開しないので議事録を見ないとわからないです。
 
栗:それを見ても何が違うのかっていうのは全くわからない。
議事録を見てみると、とある委員の方が「これは他のものと違うから心して見てください」みたいな、諮問の前にマインドコントロールをしてしまっている(笑) そのコメントがあってもギリギリの僅差ですよね。業界団体よりも途方もなく厳しい審査。
 
き:140冊全部審査したら半分くらいは指定されるんじゃないかと。だとしたら本来議論すべきなのはそっちじゃないのかという。
 
永:140冊も130冊でも、内容がわからない。その中に週刊少年ジャンプが入っているのかどうかとか。内容がわかれば、どういう基準で集めているのかというのもわかるんだけど、月々エロ本ばっかり140冊集めてるのか? という。
 
き:被りもあるから実質120冊くらいだとは思います。だとしたら何を買っているんだろう? なんで公開してくれないんだろう? という。
 
永:例えばヤングマガジンとかまで視野を広げているんだろうかという気はします。
 
栗:ブログでも取り上げたことがあるんですが、エロに関しては比較的わかりやすい基準なんですが、残虐性で指定されてることが時折あって、残虐性で指定された作品を見ても、他に数多あるヤング系作品と何が違うのかと。
 
き:僕が思うにあの残虐性の基準で引っかかるのなら全てのデスゲーム系漫画は引っかかると思います。人権ないところから始まってますから(笑)。
 
栗:なぜあれが弾みで出てきちゃうのかが非常に疑問です。
 
き:残虐性で引っかかったのは雨がっぱ少女群先生のもの(『怖い心理テストあなたの中のサイコパス』(竹書房))なんですけど、元々エロの出身なのでエロと絡められたというのがあったとか。
 
栗:これはあってはいけないことなんですけれど、松文館事件みたいな。平沢勝栄さんの支持者からの指摘だったから特別に声が響いちゃったみたいな。
そういう俗人的な運用をされてないかなと。
 
き:そういう可能性は大いにあります。表には絶対出てこないので。
あれも10年ぐらい経ったら公開してもいいんじゃないかと。
その辺のどういう過程でどんなものが選ばれているのかというのは知りたいです。
 
栗:指定されると作家さんは実害被りますから、そこらへんの責任を担保した上でやるべきですよね。善悪の屑だってタイトル変わっちゃいましたし。
きみりとさんの一押しの知っておくべき不健全図書はありますか?
私の中では善悪の屑の指定された理由が境が曖昧なので皆さんに知って欲しいなと思っています。
 
き:最近だとB Lばっかりだしなぁ・・・。古いですが、強いて言えば山本直樹先生の『BLUE』ですかね。あとは、こっちもほぼ昭和ですが昆童虫(コンドーム)先生の『インセクトハンター』ですね。この本は、かなりマニアックな「虫姦」という昆虫との行為を描いたエロ漫画なんですが、こんなマニアックなジャンルを指定するとは、当時の審議員の人は相当マニアックだったんじゃないかと(笑)。
 
永:『妹ぱらだいす2』の基準がわからない。あれを見て近親相姦しようと思う人は絶無だし、単純に女の子のキャラを一杯を出すために多数の異母妹がいた、という設定なわけで。
妹ぱらだいすに関してはあれが唯一の一号基準に該当しない図書なんです。
二号基準のみ。合わせ技ではない。
 
き:あれはある意味基準作りだったのでは。
永:あとは邪推ですけど角川に対する報復ですよね。
 
栗:角川はアニメフェアでボイコットもしましたからね。
角川が指定されることってあまりなかったんですけど。
 
き:最近で大手だと角川のみですね。
昔は集英社もあったんですけど、週刊プレイボーイとか。
 
栗:新基準で指定されたのは石原都政が終わった後ですね。猪瀬知事の時。
 
永:当時の青少年課の中に面白くないと思っている人がいたかもしれませんね。
 
き:今の安全推進本部の恣意的な部分がものすごく見え隠れするので、もう少し手続きを透明化して欲しいなと。都条例にない部分をより透明化して欲しい。
 
栗:候補をどう挙げるかというのも事実上指定の権限を持っているということですよね。
 
き:審議員の人が最後ハンコを押すみたいな感じになっているので、そういう意味では責任だけ投げつけている。
 
栗:これは違うぞというものが上がってきたときに、皆さんにバッと広まるような注目をしていただくことが大事かなと。でも私たちも、当日まで何が出てくるかわからないので。
仮にそれが通ってしまったとしても、その後波紋が広がるということは重要なことですよね。
 
き:審議会が終わった後に、140冊何が指定されたか聞くことはできないんですか?
 
栗:そういうことも公開すべきではないかとこないだの2年ごとの改正の時に色々言ったんですけどね。ただそれを示すことによって、ある種ラインが見えることになるのでそれは作家さんたちにとっても萎縮につながるんじゃないかと言われました。逆ですよね。ラインが見えないとどこまで描いたらいいかわからないから萎縮してるので。
 
永:変な形で突っ込みすぎると、じゃあ包括指定的な方向で行きますとなりかねない。
 
栗:審議会の歴史の中では今の運用が一番抑制的であると、本部も認識していますから、逆にそこでかき混ぜることがどうなのか?と言う問いもあります。確かに、長い歴史を振り返ってみると今が一番小さい。
 
き:小さいけど一番歪んでいる。
 
栗:おっしゃる通りで、そこら辺をどう判断するか、どう見るかというのは非常に難しい。
 
永:すごく嫌な言い方になってしまうんですが、出版側も生贄の本を1冊2冊出しておけば丸く収まるんだみたいな意識は絶対あると思う。
 
栗:B Lのごく一部を生贄に捧げておけばいい、みたいになっちゃってる?
 
き:もし、B Lにマークつけ終わったら次のジャンルは何を指定するの?という。
そっちの方が怖い。何を探してくるんだろうと。
 
永:「今月は全く指定する本がなかったです、終わり」があっても不思議ではないんですけどね。
 
栗:おっしゃる通りゼロじゃない月がないって言うのは変なんです。
今日は年末だから少なめに1冊でお茶を濁したみたいな。
 
き:1冊の時って緩いのがきますよね。しょうがないからこれにしようみたいな。
該当のものが見つからないから仕方なく、基準がちょっと下がる。
 
栗:都条例改正から10年間経った今、かつて活動された方が今も同じようにやられているかと言うと、完全にはそうでなくて、一部入れ替わっているように聞いています。
 
き:入れ替わっているというか卒業しちゃった。変えられない絶望を感じて離れちゃった。どっちにも絶望している。運動する方も変えようとする方も、自分たちにはどうしようもないという無力さがあると思います。どちらかというとネット時代になって変な人が目立ちすぎちゃって、自分たちがやってきたことが無にされてしまったようなイメージが強いんではないか。
 
栗:確かに裾野は広がったけれども、多様になったというか、一枚岩という感じは減ったかも知れません。
 
き:クリエイターからすると日本はまだまだ自由。
 
永:中国よりは自由。B L書いたら捕まる国ですから中国は。
 
き:日本はかなり自分たちの中で自由にできている状態であって、あまり不満を持っている人は実はそんなにいない。そういう意味では自由なんだからこのままでいいじゃんという人が多い。
 
栗:じゃあ2010年みたいな大きな問題が今後起こってきた時にはそういう方々も含めて新たなムーブメントは起こると思いますか?
 
き:わからないですね。だって今B Lがこれだけ叩かれていてもB Lの人たちは全然動かないじゃないですか。過ぎ去るのを待っているか、なくなっちゃったらなくなったでしょうがないと思っているか。
ただ何か作って発表するという活動が制限されると、さすがに色々声が上がってくると思います。声のあげ方がわからない人が多いので、そこをうまく
まとめられるかどうか。僕の経験からいうと簡単にはまとまらないというのがあります。
 
永:10年前のことを思い出したんですが、1つの集会に1500人来るとか、なぜそうなったのか。実際都条例改正問題は本当に大変なことが起きるという感じがあったんですけど、現在のように月に1冊2冊B Lが指定された程度のことでは危機感はあまり持てない。それこそ「B L禁止条例」ができるぞとなったら、1500人か1万人集まると思うけど(笑)
今の状況では盛り上がらない。実際腐女子に話を聞いても、中には指定されたら大人だけ読めばいいじゃん、子どもは読めなくていいよ、という考え方の人もいるわけですから、危機感にも温度差がある。
 
き:特に日本は昔から表現に関してはかなり緩い。モザイク以外は全て自由。ある意味ものすごい不均等な自由ではあるんですが、それで十分やってこれたし、今まで自由が奪われた経験があまりないので、創作する時からそういう意識はあまりないと思います。権利を勝ち取ったっていう経験がない。それが一度でもあると、昔でいうと昭和の労働組合みたいに再燃するわけですよ。そういう経験がないと問題意識が上がるまでは相当な圧力がないと難しい。
 
栗:けれどそういうネットワークを形成していざという時に立ち上がるというのは大切ですよね。
 
き:漫画だとグローバル化の問題があって、そういうのと絡めて問題が出てくる時にどう対応するか。外圧と地域がどうやって戦っていくかというのを突きつけられているわけですから。
 
栗:そういう意味では過去を振り返るのとは別次元の問題構造になって行きますよね。きみりとさんのように発信されている方は重要ですね。
 
き:コロナがなければ不健全図書のイベントは開きたかったんです。
 
栗:コロナがおさまってきたら是非!これからも色々ご教示頂ければありがたいです。今日は貴重なお話を本当にありがとうございました!!
 
き:不健全図書問題に関してはこれからも続けていきたいと思いますので、興味がある方は気軽に声をかけていただければ幸いです。