こんばんは。都議の栗下です。


今日からいよいよ12月。私個人は12月9日の一般質問に登壇するということで、準備に追われる毎日ですが、その合間に調査し多くの方からご意見等をいただいてきた「エコバッグが普及して万引きは本当に増えたのか?」問題についてお伝えしておきたいと思います。

まず、結論から先にお伝えしてしまいますが、「エコバッグ普及と万引き増加の因果関係は不明」というのが、様々なところでお話を伺った結果私の行き着いた結論です。

そもそも、この問題についてなぜ調査したのか?本年7月からレジ袋の有料化が始められ、「エコバッグが普及→万引きが急増している!」という論旨の多くのテレビ・新聞報道を目にしたからです。

警察の方はどう把握しているのか、警視庁に尋ねたところ「万引きの認知件数はむしろ例年よりも下がっている」という結果でした。


このデータについては、本年3月以降はコロナの影響が大きすぎて参考にならないのではないか。という問題もありますが、少なくとも、本年が始まりコロナの影響がなかった1月〜3月までも例年より少なくなっているため、コロナの影響だけで件数が減少しているということはなさそうです。

ということで、実態はどうなのかということを調べるために、件のテレビ・新聞報道の情報ソースとして挙げられている「全国万引犯罪防止機構」や小売団体の方にお話を聴いてみました。その結果、様々なことがわかってきました。


■万引きの正確な件数は誰も把握できない

まず、大前提としてこれをお伝えしたいと思います。これだけPOS管理の発達した現代、仕入れと売り上げをチェックすれば、どれだけの商品がなくなったかなんて、小売業者はわかっているハズ!と私自身も思っていたのですが、スーパーやコンビニなどの小売業者も万引の正確な実態は掴めないとのこと。

それはなぜか? 「うち引き」と呼ばれるそうですが、社内の方が商品を持ち帰ってしまったりすることがやはり一定数生じるとのこと、またうち引き・万引きのどっちで商品が無くなっているのかは正確に把握することは事実上不可能である上、小売業者もうち引きについては秘匿したがるので、正確な数字は上がってこないだろうとのことです。
ちなみにアメリカにおける研究では、「万引きされる商品よりも、うち引きされる商品の方が多い」という説もあるそうです。

警察の認知件数に至っては、警察に対して届け出された数でしかありません。警察はあらゆる万引きを届け出るようにと求めていますが、実際のところ警察に届け出る時間的コストを嫌って、届出がされないケースも多いようです。

上記などの理由から、万引きの増減については「増えたような気がする」「減ったような気がする」などのフワッとした感覚的なアンケートで確認されているという実態があることをまず知っていただきたいと思います。


■実は、殆どの小売事業者が「影響はわからない」と答えている。

以下のアンケートは全国スーパーマケット協会が行ったものですが、Q2をご覧ください。


43%の事業者が影響について「わからない」と回答しています。
「やや増加(26%)」「変わらない(26%)」であり、この結果から見ても、各メディアが伝えてるような「急増」というのは行きすぎた表現のように感じられます。

そして、万引犯罪防止機構はスーパーマーケット協会とも連携して、マイバッグ普及が積極的に進められた2010年から同様のアンケートを行っていますが、実はそれと比較しても今回のマイバッグ普及によって「万引きが増えたと感じている事業者さんの割合」は少ないのです。


実際、小売事業者さんの実態についてもヒアリングを行ってみましたが、「急増」していて大きな社会問題と言えるような感じではありませんでした。


■ではなぜ、一斉にメディアが報じたのか?

テレビ・新聞の各メディア報道を改めて確認してみると、あることに気がつきます。
それは、「万引きが増えた」という根拠のデータソースは殆ど同じものから来ているということです。
その他のニュースについても同様の傾向はありますが、この万引きの件については特に顕著であるように感じました。

特に、都内には某有名スーパーもあり、万引きの問題に関わらず、スーパー関連の問題が起こると、メディアがこぞってそこに取材に押し寄せるそうです。スーパーにとっても無料での宣伝になる事もあり、よりテレビ映えのする内容、刺激的な内容になっていくのではないかという懸念もあります。

(9月3日 MBSニュースより)

万引きの他にも、レジ袋をもらうのを億劫がってスーパーのカゴをそのまま持って行ってしまう「カゴパク」も同様に報道されましたが、小売団体に聞いたところ報道で証言されているような件数は起こっていないのではないかという認識でした。


今回の件で皆さんにお伝えしたいことは「メディア報道も人間が作っている」ということです。
何を今更、当たり前じゃないか、と仰る方も多いかもしれませんが、私も「エコバッグ普及→万引きが増加」ともっともらしいストーリーを見せられたときに、「なるほど」と思ってしまいました。我々が思っている以上にこうしたことは多いのではないでしょうか。

私を含め議員も「メディアが取り上げている社会問題→解決策」という質問をするパターンは多いのですが、今回調査の結果、本当の社会問題であるという確信が持てなかったのでこの問題について今回取り上げることをやめました。そんな今回の報道について私自身も今後の糧にしていきたいと感じています。