こんばんは。都議の栗下です。


先々週に都議会定例会が閉会したのも束の間、昨年度の予算執行について審議する決算委員会がスタートしました。私も今年は委員として任命されましたので、諸々取り組んでいますが、今日はそれとは全く関係ない都の不健全図書について書きます。

今回取り上げるのは、第668回(2016年2月8日)の東京都健全育成審議会で不健全図書指定された「善悪の屑 4巻」です。


■どんな作品?

「善悪の屑」とはどんな作品なのか。Wikipediaより。



人気作品なので読んだことがある方も多いと思いますが、社会のダークサイドを描いた作品で、雰囲気としては「ウシ●マくん」に近いですかね。

■なぜ、不健全図書として異例なのか?

まず、いわゆる非エロという点です。

東京都健全育成審議会にかかる本の99%は、過激(と目される)性表現、いわゆるエロによるものですが、この作品は「甚だしく残虐性を助長する」として審議会に諮問されています。

問題とされた具体的な箇所については現在確認する術はないのですが、読んだ限りは「ゴロツキに脅されていた若者が逆襲し、その死体を溶かすなどして処理した後、便器から流す」もしくは「長年工場で働く鬱積した労働者が、児童に斬りつける」シーンでしょうか。

実際に読んでいただくのが早いと思いますが、これらのシーンについても直接的な表現は避けるような作者の配慮が伝わってきます。
これは全くの私見ですが、これらは「ウシ●マくん」でもよく見るレベルの残虐シーンであり、これが「不健全図書指定」されるようであれば、青年漫画にとっては大変な脅威になるのではないかと思います。


■審議会ではどのような議論があった?

実際に、出版社などで構成される自主規制団体の意見では、「指定やむなし」が6名、「指定非該当」が10名、「保留」が1名と、「この本は不健全図書に該当しないのでは無いか」と言う判断が下されました。

しかしそれを参考にした上で、都健全審での結果は何と・・18人いる委員が全て「指定やむなし」でした。


「子どもの自浄能力を信じたい」「現実の社会には実際に荒んでいることもあるのだ」と言うコメントもわずかにありましたが、殆どストレートで不健全図書として決定されました。

当時、私は委員ではありませんでしたので意見は述べられませんでしたが、「この本が指定されるんだったら、かなりの青年誌が不健全になっちゃうよ、本当に大丈夫?」と言うのが偽らざる感想です。


■「善悪の屑」のその後と、この一件から学ぶべきこと

この時、不健全図書指定されたのは第4巻でした。そもそも1〜3巻にも同等クラスの残虐描写はあるので、なぜ突然4巻だけ問題になったのかは大いなる謎。

「善悪の屑」はこの不健全図書指定後に第5巻で完結しますが、4巻以降は「実際の事件をモデルにしたそれまでと違って、一転オリジナルストーリーとなった。」と評されています。
その後、タイトルを「外道の歌」に改め2020年現在も連載は続いています。
不健全図書指定後も、販売は伸び続け、幾つものスピンオフ作品が展開されています。ネットでもマンガアプリの広告としてもよく表示されているのでご覧になった方もいるかも知れません。


皮肉にも、「不健全図書指定」が話題を呼び、人気を後押ししたと言う見方もできるわけですが、一旦完結しなくてはならなかったのは、不健全図書指定の影響があったと見るのが妥当でしょう。

何の弾みか知りませんが、こうしたいわば「一般向け作品」が残虐描写を理由に都健全審にあがってきてしまったこと。そしてそれに対してさしたる議論も無く平然と指定されてしまったこと。当時はあまり騒ぎにはなりませんでしたが、マンガ規制の境界線を人知れず動かした大きな出来事であったと思います。

こういった事例は私が委員になってからは見かけていませんが、このようなことが起こった時にやはりその都度世論がしっかりと反響を起こして、審議会のあり方を問うて行かなくてはならないのではないでしょうか。

この一件については、その内容の割にあまりネット上にも記載がなかったのでここに記録として残しておきます。