こんばんは。都議の栗下です。


 

昨日は、99年に始まった石原都政下における最初の都条例改正について書きました。
今日は、同じく99年に行われた国における児童ポルノ法改正議論についてお伝えします。


■きっかけは国際会議


国における表現の自由議論重大テーマの一つである児ポ法(児童売春、児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律)ですが、法律が制定されたのは1999年5月です。

きっかけは96年にストックホルムで開催された

「第1回児童の商業的性的搾取に反対する世界会議」でした。児童ポルノの8割が日本発だという指摘にショックを受けた国会議員が働きかけ自民・社民・さきがけの3党で議員提案条例として99年に可決されました。

制定の目的は、「18歳未満の少年・少女を性的虐待や搾取から守る」ということでしたが、法律の条文が表現の自由の侵害ではないかという議論を呼びました。

 

 

児童ポルノ対策に係る国際的動向:警察庁資料



■表現の自由に関わる問題点


この法律の問題点は多岐にわたるのですが、特に大きなポイントは、


一つ、規制の範囲があいまいで、恣意的解釈の余地が大きい。
99年当時の児ポ法における「児童ポルノ」の定義は以下の通りです。

一 児童を相手方とする又は児童による性交又は性交類似行為に係る児童の姿態

二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの

三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、性欲を興奮させ又は刺激するもの

特に三に抵触するもの(3号ポルノと呼ぶ)については、
一体誰が「性欲を興奮させ刺激する」か否かを判断するのでしょうか?

罰則を伴う法律については濫用がなされないように、その対象を明確かつ限定的にすることが一般的ですが、この規定については恣意的解釈の余地が大きく、創作活動の委縮させるという指摘がされています。


二つ、創作物のキャラクターにもこの法律を適用するのか?


上記にもあるとおり、この法律の目的は「18歳未満の少年少女を性的虐待や搾取から守る」ということでした。
しかしながら、マンガ・アニメといった創作物における未成年のキャラクターの姿態についても同様の扱いになるという憶測が流れ、後述の紀伊國屋事件が起こることとなりました。

世間では、創作物におけるキャラクターについても「児童ポルノ」と混同されがちですが、これらは「準児童ポルノ」として区別されています。

 




その他に単純所持規制の是非など多くの問題が指摘されていることもあり、2000年代以降幾度も改正が繰り返されることになります。この経緯については改めてまとめたいと思いますが、2020年現在も特に一つ目の問題点については解消されておらず、今後も推移を注視して行かなくてはいけない状況であることはお伝えしておきます。



■紀伊國屋事件(1999)

児ポ法が施行された99年11月、マンガやアニメといった創作物のキャラクターにまで規制が及ぶことを危惧した大手書店は、18未満のキャラクターの姿態が登場する作品について撤去しました。
紀伊國屋では井上雄彦先生の「バガボンド」や小山ゆう先生の「あずみ」などが撤去の対象になりましたが、これらはいずれも文化庁メディア芸術祭マンガ部門の受賞作品でした。
 

 

 

 


精度の低い法律が作られ、業界がそれを忖度し過度な自主規制を行い、結果創作活動の委縮を生み出す。という負のスパイラルを生んだ事例として、この事件から学びとれることは多いのではないでしょうか。
社会の常識は10年もあればかなり変わっていきますが、法律の条文は変わらずに残されていきます。

また、条文のわずかな変化が大きな影響を及ぼすことも多々あります。

何が言いたいかとと言うと、法律はとてつもなく重要で、知らない間に変えられてしまわないように、皆で注意深く目を光らせるべきだと言うことです。 


明日は、2000年代、石原都政下で進められた規制強化についてお伝えします。

続く。