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堀越勸玄くんの史上最年少4歳での宙乗りが話題の七月大歌舞伎。

勸玄くんが出る夜の部はインターネットでのチケット販売は完売で。


その勸玄くんが出るのは2幕目なので、幕見席は3幕目を見る前に帰ってしまう人も何人かいたようですが、

これは丸々見たほうがいい演目だと思います。


駄右衛門花御所異聞



これは、成田屋(初代市川團十郎に連なる屋号)として170年ぶりの復活上演となる「秋葉権現廻船語」を名前を変えて復活上演するものです。
(この演目自体は明治の頃まではよく上演されていたそうです。)


私自身古典は分かりづらくて苦手な演目もあるのですが、これは海老蔵さんが、「古典でもわかりやすくて面白く後世に残る作品を目指し」企画から携わって完成させたものです。
テンポが良く、歌舞伎を知らない人でも楽しめる演出がたくさん取り入れてあって、「これほんとに古典??」というくらいたしかに面白かったですよ。

とは言っても、私は原作を知りませんが、おそらくこれは元々の部分を使ったのかなあと思われるところも。
昔の歌舞伎と今の歌舞伎とが入り交じる様も見どころです!

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さて、パンフレットによるとこの主人公の悪人 駄右衛門のモデル、無宿十右衛門こと浜島庄兵衛は京都の町奉行所に自首して数え年30の歳に処刑され晒し首にされたそうです。


時は江戸。もし江戸時代でなく戦国の世なら、信長や秀吉のようなひとかどの人物になっていたほどだそうで、私も30ですが、その彼をモデルにした駄右衛門がどんな活躍をするのか楽しみに観ました。


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まあ、その悪いこと、悪いこと。
普通悪人はどこか同情するところも出てくるものですが、この駄右衛門はひたすら悪い!


面白いのは、
その駄右衛門と、駄右衛門と敵対する玉島幸兵衛、そして、彼らの戦いで大きなカギを握る秋葉大権現の3役を海老蔵さんが演じてるんです。


特に駄右衛門と幸兵衛は斬り合うシーンもあって、
え!?いつ入れ替わったの!?あれ??あっちもこっちも海老蔵さん??と混乱するくらい。
イヤホンガイドを聞いてたのですが、解説の方も、

「あちらから出たのは、海老蔵。
その後ろからでたのは、海老蔵。」

と、海老蔵さんの名前を連呼する事態に(笑)


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それだけ激しく入れ替わって、そのすべての役をきちんと演じ分けているのが見事の一言です。
(憎しみ合う2人も演じるわけですからね。)

その中でも、幸兵衛のワンシーンが見事だな、と。

生き別れた妻が、幸兵衛のためにその作った莫大な借金を返そうと悪事に手を染めてまでもお金をかき集めていて、
やっとそれが満額になるという時幸兵衛と再会。
でも、そのお金のためにした悪事が幸兵衛の怒りをかい、その彼から斬られてしまいます。
死ぬ間際、彼女は夫に今まで貯めたお金を渡して「あなたのためなら地獄に堕ちてもいい」と言うんです。
彼女は、自分の命と引き換えでも彼にお金を渡し、つまりは愛を貫きます。

そんな彼女に対して幸兵衛は、

「来世でも夫婦になろう」

と伝えて、それを聞いた妻は息絶えます。

このセリフで、麻央さんと海老蔵さんとのエピソードを思い出したのは私だけではないはずです。
数日前海老蔵さんがブログで、今回演じる役が元々自分が演じるわけでもなかったのに当て書きになってて妻とのことを思い出してしまう、と書いていました。このあたりだったのかなあ、と。


この演目をその視点だけで見るのはどうか、とも思いますが、やはりこの舞台は麻央さんに捧げられたものなんだと思います。

最近海老蔵さんは、麻央さんが近くにいる気がするというようなことを良く書いていらっしゃいますが、
あのセリフの部分も、言葉に魂がのっている、といいますか……。もしかしたら、麻央さんがまさにそこにいて、今伝えてるんじゃないかしら、とか。


勸玄くんの宙乗りも生前麻央さんが楽しみにしていたそうですが、見事でした。私は勸玄くんを直接拝見するのは初めてでしたが、現実にいるようでいない異界の者の役を幻想的に演じていて美しかったですし、
宙乗りも(大人でも怖いものだそうですが)落ち着いていて、下にいるお客さんの中に知り合いがいたのか指差して手をずっと振っていて(お父さんを引っ張って、○○さんがいるよ!というようなことを言っているのか、微笑ましい光景でした(笑))あれ、そうか、この子4歳なんだっけ、って後で思い出すくらい。さすが成田屋の後継者だ、と感じさせられました。


最後の幕。
これがまた見事で。
死んだものが生き返って舞台は地獄絵図となるんですが(ゾンビがたくさんの歌舞伎は初めて見ました。舞台の仕掛けもすごかった!)
「死んだものは生き返らせるのではなく、成仏させてやるべきだ」という筋書きで、幸兵衛の大切な人も生き返るのですがまた元のように土に還ります。


生と死と愛とを描いた演目。
その中で3役もの大役をこなす海老蔵さんと、4歳にして宙乗りに挑む勸玄くん、成田屋の圧倒的な力を見せられた舞台でした。

これほどのハードな役、しかも、物語の内容と現実とがリンクしてしまうような役を演じる海老蔵さんは心身ともに日々まさに戦っていらっしゃるのでしょう。
だからこそ、これだけ心揺さぶられる舞台を私たちは見られているんだなあと。

海老蔵さんの歌舞伎は10年ほど前から見てますが、本当に、今回は最高の作品だと思います。

幕見なら、まだ見られるチャンスがあります。
ぜひ歌舞伎座へ。





#歌舞伎