万年付き人と呼ばれても構わない。

僕照影は旦那様に付き従っている事に誇りを持っている。

一生お仕えしたいと思っている。

仕え初めた頃、旦那様は気難しくて暗い顔をなさっている時が多かった。

理由は仕えているうちに判って来た。

軍営にいる間は冗談を仰る事もあるのにお屋敷に帰ると途端にお顔が暗くなって無口になってしまわれる。

旦那様にとって家庭は安心出来る憩いの場ではなかったのだ。

奥様が病弱だからだけではなさそうだ。


屋敷には奥様以外に姨娘が二人いる。

この数は旦那様の品階から云うと少ないほうだ。

後に一人若い姨娘が増えて三人になった。

普通の男なら新しい夜のお相手が来て喜ぶところだ。

でも旦那様はその方のお部屋に行こうとなさらない。

その方を好きではないのが僕にも分かった。


世の中の官吏は屋敷に沢山姨娘を囲うのが甲斐性だ。

ところがうちの旦那様にとっては厄介事がまたひとつ増えたと云うだけなのだ。

前より気難しい顔をなさっている。

それから直ぐに元娘奥様が亡くなった。

旦那様の足は更にお屋敷から遠のいた。

朝廷に復帰したばかりで公務が忙しいと軍営に寝泊まりして屋敷には殆ど帰らなくなってしまわれた。

旦那様の着替えを用意して軍営と屋敷を往復するのが僕の仕事になってしまった。


奥様が亡くなって一年後、喪が明けて旦那様は新しい奥様を迎えられた。

今度の奥様は前の奥様の妹にあたる人だ。

臨波殿にも聞いたけれどはきはきと物を言う方で裏表というものが無い。

旦那様にも言いたい事を云って最初は喧嘩ばかりだ。

でも僕らとか冬青さんみたいな使用人にも偉そうにしたりしないし思いやりのある賢い方だ。

奥様のお陰で旦那様は令寛様と仲直り出来たし、諄様の病も奥様が治した。


旦那様が変わったのは奥様が嫁いで来てからだ。

屋敷にも頻繁に帰られるようになった。

喧嘩ばかりしてたお二人にも色々な出来事が起ってお二人が協力して解決していくうちに本当に仲の良いお二人になった。

今では旦那様は寝ても覚めても奥様だ。


旦那様は仕事が終わると毎日毎日飛ぶように屋敷に帰って来られる。

奥様の顔を一刻も早く見たいからだ。

今じゃ毎日旦那様の笑顔が見られる。


ところで僕の事だ…。

僕も成人を過ぎた。

旦那様が気を遣って気に入った女子は居ないのかと尋ねて下さる。


臨波殿はとうに冬青さんと祝言を挙げたし、僕もそろそろ…と言いたいところだが…

周りの女子が皆気が強すぎる。

なかなか僕に合わせてくれるような子が居ないのが目下の悩みの種だ。

旦那様と奥様みたいに幸せになりたいのだ、僕も。