六角堂で蓮池を長い間眺め続ける夫の後ろ姿を
十一娘は悩ましげに見つめていた。
「旦那様…」
「十一娘・・」
振り向いた夫の瞳に精彩がない。
十一娘は夫の腕にそっと触れた。
「旦那様…お寂しいんですよね?」
「諭を楽山にやった時も、諄を遼東に見送った時もこんな気持ちにはならなかった…」
「旦那様…まして暖々はまだ七つにもなっていません。旦那様がお寂しいのも無理はありません。私もこう早々と暖々の婚家が決まってしまうとは予測もつきませんでした」
あの柳公爵家訪問のあと、柳家から要請があり暖々を暫く柳公家で預からせて欲しいと懇願された。
十一娘は酷く動揺したが許可したのは令宣だった。
暖々は案外芯の強い子どもで請われるまま柳家に滞在している。
令宣は気を取り直したように妻と肩を並べるとその手を握った。
「暖々の幸せを願って先行きを心配してやるのは我々親の義務だ…我々は自分の気持ちだけを優先すべきではない」
そう言いつつ令宣の声は沈んでいた。
誰よりも一人娘を愛する令宣だ。
十一娘には夫の気持ちが痛いほど伝わって来ていた。
その気持ちに少しでも寄り添いたい。
十一娘は夫の手を包みこんだ。
「旦那様…今日太医の診脈がありました…」
ぼうっとしていた令宣が急に我に返った。
「なんと?それで結果は?」
夫に急かされて十一娘は頰を染めながら報告した。
「旦那様…ご安心を…順調に育っているそうです。一安心です」
「本当か!良かった…」
「ええ…本当に。旦那様」
妻を見る令宣の目が突如として光を帯びた。
劉太医とは妻のおらぬところで男同士の話合いをしてある。
夫婦の交わりに付いては次回の診察の結果で決めましょうと言われていた。
令宣は向かい合った妻の手を握りしめた。
その目が妙に艶っぽい。
「十一娘…今夜はお前が慰めてくれるな…?」
十一娘は熱を帯びた夫の瞳に動悸が早くなった。
夫の求めるものが何かは判っている。
こんなに求められているのに断われようか。
「旦那様…私」
「大丈夫だ。私に任せておけば良い…だがお前を不安にさせるなら…」
十一娘は頭を振った。
「…いいえ…旦那様に従います……それに」
令宣は妻の顔を覗きこんだ。
「それに?」
「いいえ…何でもありません」
「十一娘、、言い掛けて途中でやめるな」
十一娘は恥じらいの余り顔を覆ってしまった。
「旦那様…私も、私も旦那様に…」
令宣は微笑みながら妻を抱きしめた。
「いいんだ…みなまで言わなくとも良い」
その夜、令宣は壊れ物を扱うように妻を抱いた。
柔らかい白磁の如き二つの丘は弾むような盛り上がりを見せて令宣の目を悦ばせた。
「あゝなんと可愛いのだ…」
令宣は両の掌を其々の乳房にあてがい包んで揺らす。
ツンと上を向いた先端は早くも硬く尖って艷やかに光り令宣を誘惑している。
瑞々しい果物を頬張るようにその硬い蕾のひとつを口に含んで舌で味わうと妻は堪えきれずに溜め息を漏らした。更に甘噛みして吸うと溜め息は欲情を示す声に変化していった。
その切ない声は令宣の欲望を一段と刺激する事になった。滑らかな腹部に手を滑らせようとすると妻の手に阻まれた。
「旦那様…お腹がもうこんなに膨らんでいます…お願い見ないで」
「駄目だ十一娘…私の子が宿っている。愛しくて堪らない…恥じ入らなくていい」
理屈などそこにはない。
恥じらう妻を征服したい男の我欲なのだ。
遮る妻の手を易易と外してしまうと令宣は膨らんで来たお腹を撫でた。
彼の自由に動き回る掌はさらにその下の秘処にまで達した。
令宣にはこの妻の躰に溺れていると云う自覚があった。
「ここも、ここも私のものだ」
それ故彼は褥の上で聞き分けのない独占欲の塊となる。
逆に十一娘は執着される事に無上の歓びを感じるようになっていた自分の心と身体の変化に驚いていた。
令宣と愛し合って求められ与え合うその歓びの為に彼女の身体は在った。
既に秘処は焦れて甘い期待に満ち満ちて露が溢れている。
「力を抜くんだ…」
令宣が命じ十一娘の身体を開かせた。
激しい行為は禁じられている。
令宣が導く優しい抑制の効いた交わりはその夜時間をかけて互いの歓びを見るまで続いた。
