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十一娘の母・呂娘の位牌を西跨院の一隅に祀って数年が経った。
十一娘は日々手を合わせ、嬉しい事も悲しい事も折りに触れ母に報告している。
線香を上げ祈っている十一娘の背中に令宣が静かに声を掛けた。
「十一娘…熱心に何を報告していたのだ?」
十一娘は振り返って微笑んだ。
「旦那様!お帰りなさいませ…今日はお母さんの孫の暖暖が初めて立って歩きましたよ…そう伝えました」
令宣は妻の肩を抱き寄せた。
「お母上が生きておられたら大層喜ばれただろうな」
優しい言葉を掛けられて十一娘は涙ぐんだ。
「見せて上げたかったです…」
「あの世できっと見ておられる…」
「そうですね…母は喜んでいます…なにより
…私が旦那様に大切にして貰って幸せですから…
この想いはきっと母に通じています」
薄暮が迫り十一娘の瞳は折から小窓から入って来た入り日を映して輝いていた。
令宣は腕の中の十一娘を更に抱き締めるとそっとその桃の花に似た柔らかな唇に口づけをした。
唇を離すと令宣は微笑んだ。
「幸せにして貰っているのは私のほうだ…お母上には感謝しなくては…お前のような女性を産み育てて下さった…」
「旦那様…」
二人は互いの瞳を覗き込んで幸福感に酔いしれていた。
桔梗の声がぶち破る。
「奥さま〜夕餉の支度が出来ました~」
頬を染めて浸っていた十一娘ははっとした。
「今行くわ〜」
十一娘が令宣の腕から抜け出そうとすると令宣にがっちりと阻まれてしまった。
「旦那様?」
「行かせない」
令宣の悪戯な目が妙に色っぽい。
「もう〜…旦那様ったら〜」
十一娘は夫の胸を軽く叩いた。
「ははは…」
食卓の仕えはしなくて良いと
十一娘は桔梗や明々を下がらせた。
二人で水入らずの夕餉を囲んでいると令宣の口から母・呂娘について尋ねられた。
「以前にもお話しましたが母は余杭の文人の家に生まれました。祖父はかっては地方官として出仕していましたが病で亡くなった後祖母も亡くなり家はたちまち困窮し…世話をする人があって羅家の妾として嫁ぐ事になったと聞きました」
「お前は師匠について特段な教育を受けた事はないと聞いていたがお前の教養を見るにつけお母上の影響があると思っていた」
「はい、母は祖父から学問の手解きを受けました。読書が好きで私にもあらゆる本を読ませてくれました…その程度ですが」
「学問をしたかったのか?」
十一娘は微笑んだ。
「はい、出来れば」
「良い志だ。その気持ちがあればお母上のように暖暖にも良い影響を与える事が出来る」
「はい…私は庶女という立場なので大姉のような学問を修める事は叶いませんでした。幸い母が居てくれましたし、旦那様が仰る通り志さえあれば何時でも学べると思っています」
令宣は箸を置くと、しみじみとした様子で十一娘を見た。
「お前の話を聞いていると…如何にお前が母上を慕っていたかがよく分かるな…」
プチお知らせ📢
今日からイイネ(≧∇≦)bを復活させる事にしました。
もし宜しければ読んだよ〜と推してくりゃれ❦
(* ̄(エ) ̄*)