十一娘の敏感なところを愛撫するかのように令宣の指が幾度となく触れて彼の温かい息がかかる。

「あ〜ん、くすぐったいです…」

「動くな」

「は〜い…うふふ」

隣の部屋では使用人達が朝餉の準備をしている。

寝室からは二人の秘め事のような潜めた笑い声が聴こえて来るのでやりにくい。

「旦那様、奥様。準備が整いました」

声を掛けた侍女がチラと上目で見ると、丁度令宣が十一娘に耳飾りを着けてやっているところだった。

やっと着け終わると令宣は文句を言った。

「難しいものだな。だいたい穴が小さ過ぎる」

「そんな事ありませんよ。これが普通です。旦那様が不器用なんです」

「私が不器用な筈ないだろ」

「はいはいそうでした。旦那様は何でもお上手です!」

令宣は腰に手を当て十一娘を指差した。

「なんだそのあしらい方は…」

「はいはい、朝餉を頂きましょうね」

令宣は十一娘に背中を押されて朝餉の並べられた食卓に付いた。

使用人達は全員俯き加減で笑いをこらえながら下がって行った。

二人きりになって、十一娘が粥をよそうと令宣が言い出した。

「今日は公休日だ。食後令寛のところへ行ってみようか。最近甥にもずっと会えてないしな、顔を見に行ってやろう」

「そうですね!私も丹陽に渡すものがあるんです。昨日義姉が漳州の珍しい干海産物を送って来てくれたのでお裾分けです」

「そうか、文は入っていたか?」

「はい、兄も元気にやっているそうです。後でご覧になって下さいね。義姉はまだ双子に手を焼いているそうですが…」

令宣は漬物を妻の椀に置いてやった。

「滋養のあるものを送って差し上げろ。そろそろ都の味が恋しくなる頃だ」

「はい、そうします…」

最後に茶を飲むと二人は立ち上がった。


夫婦は指を絡めながら気持ちの良い秋の回廊を歩いていた。

途中まで来たところで十一娘は違和感を感じて左耳に触れた。

「あっ!」

「どうした」

「あ、いえ耳飾りを落としたようです…」

令宣は立ち止まって彼女の耳朶を見た。

「私の着け方が悪かったのか?」

十一娘は笑顔で答えた。

「よくある事です。そのうち出てくるでしょう…」

令宣は残念そうな顔で十一娘の耳に触れた。

夫はゆっくりと身を傾けたかと思うと妻のそこに口づけをした。


数日後、令宣は軍営での任務を終えると照影を連れて街中へと出た。

「旦那様、何処へ行かれるおつもりですか?」

「前回、十一娘の簪を作らせた親爺の工房だ。お前が聞き出してくれたお陰で良い職人と出会えた」

照英はちょっと胸を張った。

あの怖い御姐さんの機嫌を損ねた時の恐怖を思い出してあゝ言うのはもう勘弁願いたいなと思った。

けれど、もう教えて貰えないのかとくよくよしていたら思い掛けず向こうから書き付けを届けてくれたのだ。

あのお姐さんは親切ないい人だと分かった。

「で、今回は何を頼まれるんですか?」

「耳飾りだ」