その年、嘉靖帝の崩御に伴い恩赦が施行された。

遠島に処されていた重罪犯以外の犯罪人らが赦されて都に戻って来るという。

どうやら区彦行達も恩典に預かるという情報を令宣が得た。

元々彦行は区家の犯罪には関わらず政治的な結託もしておらず恩赦の対象になるのは難しくなかっただろう。


「本当ですか!じゃ琥珀も都に戻れるんですね」

琥珀が彦行について塞外に行った事は後から冬青に聞いていた。

北辺のいつ他民族からの襲撃を受けるか分からない危険な土地に行った琥珀を十一娘はずっと案じていた。

「但し、区家は取り潰されている。再興は無理だろう。林姓を名乗って地道に生きていくしかあるまい」

「そうですね…」

あれから区家の屋敷も閉鎖され、刑が執行されて一年後には人手に渡った。

家屋敷は失われたが彦行と琥珀にはせめて人並みの暮らしをさせて上げたいと思う十一娘だった。

「旦那様、、」

令宣は傍らに座る妻の肩を抱いた。

「十一娘、心配しなくていい。彼等が帰って来たら援助してやればいい。私も協力を惜しまない」

十一娘は令宣の胸にもたれかかって甘えた。

「旦那様、ありがとうございます。旦那様が懐の深い方で私は幸せです」

令宣は微笑んで妻を抱き寄せた。


林公子と呼んでいた頃から彼は商売をしてきた。

またそれを再開すればきっと上手くいく。


まだ彼等が帰って来るまでには時が掛かるだろう。

会えたらどんな風に言葉を掛けようか苦労した彼女をどんな風に労ろうか…

今は無事に帰ってきてくれる事を祈るばかりだ。


再会を喜びとする友人が居る反面、

亀裂の入ったままで関係を終える相手も少なからず存在するのが人生だ。


十一娘にとって、仙綾閣に迎えた難民の女性達がそうだった。

喬蓮房の差し金により喬夫人が放った間諜の口車に乗せられて仙綾閣を去った繍女達。

半数以上は騙された事を知り後悔して再び戻ってきた。

彼女たちは反省を口にし簡先生に詫びる事で許された。

その他の者は引っ込みがつかなくなったのだろう。

行く宛もなく他の繍房に雇ってくれと泣きついた者も居たようだ。

だが金欲しさから恩のある簡先生を裏切った者を雇う繍房など何処にも無かった。

結局、その数名は行方知れずになった。


その中に一番技術の覚えも早く絵心のある才能が秀でた女子が居た事を十一娘は残念に思っていた。

他人より秀でていたからこそ喬家の扇動に最も乗りやすかったと言える。

せめて故郷に帰り彼女なりの人生を歩んで居てくれるよう十一娘は願っていた。