ある日、十一娘と五娘は共に羅家の振興兄に呼び出された。

「今日君達を呼んだのは他でもない、二妹を救う為なんだ…金蓮からの文によれば二妹は病の床に伏せっているようなのだ。だが使いを遣っても門前払いされて状況が分からぬのだ」

十一娘は眉を顰めた。

病状が分からないだけでなく門前払いされるとは。

「先日も顔色が悪かったけれど悪化したのでしょう」

五娘も姉の性格はよく知っている。

「でもあの気性だとまた強がって助けようとしても拒むかも知れないわ」

侍女が告げた。

「旦那様、金蓮が来ました」

やって来た金蓮は肩に荷物を抱えていた。

「若旦那様、若奥様」

「金蓮、どうして此処へ?二娘はどうしたの?」

義姉が尋ねるとひざまずいた金蓮は思い詰めた表情で話し始めた。

「二娘様の病は重く絶望して死を願ってばかりです。私の事も羅家で働けと言って追い出しました。もう雇えないからと言って。自分が死んでももう関わるなと仰るんです」

「なんですって!」

五娘が驚いた。

二姉は夫を失ったとは言え跡継ぎも出来た茂国公家の若奥様だ。

病になったなら尚更侍女が必要なのに雇えないから帰れとはどんな事情があるのだ。

「若旦那様、若奥様…お聴き下さい。二娘様にはどうにもならないのです。家の差配は跡継ぎの生母王劉氏に握られてしまいました。二娘様は王劉氏に虐げられています。王劉氏は私を年寄りの商人の後妻に嫁がせようとしています。だからそうさせないよう私を追い出したんです」

十一娘は疑問に思った。

「茂国公と王夫人は王劉氏を野放しにしているの?」

「大旦那様は息子を亡くした悲しみで仏道修行に没頭して屋敷の事は顧みません。大奥様は大奥様で倒れてから脱け殻のようです。屋敷内は王劉氏の連れて来た者ばかりで私達はお二人に会う事も叶いません。私が居なくなれば二娘様の傍には茶を淹れる者さえいません」

王劉氏のやりたい放題に温厚な義姉が柳眉を逆立てて怒った。

「なんて酷い!」

振興が義憤に駆られて立ち上がった。

「王家を訪ねて王劉氏とやらに会いどう出るか見てやる!」

屋敷が不法に乗っ取られているのなら順天府に訴えてでも王家若夫人として二妹を守ってやらなければ。

「兄上」

いきさつについて思いを巡らせていた十一娘が立った。

「やはり私が行きます。姉妹のほうが胸襟を開いて話せる筈です」

振興もいきなり男兄妹が直談判しにいくよりも

最初は女同士気持ちを通わせた方がより良い解決策を見つけられるかも知れないと考え直した。

「そうか、分かった。では頼む。何かあればすぐ知らせろ」

五姉も立ち上がった。

十一娘ばかりに苦労はさせられない。

「私も行くわ」

十一娘は頷いて作戦を練り始めた。