全話完結したところで…
令宣と十一娘がやっと愛し愛される夫婦となった前後のくだりで…
本筋ではない項⬅(例えば励行カッポーとか二姉とかwww)はくりこ的にあまり魅力を感じていなかったので割愛したり筋書きだけ簡単に載せていました。
ハッピーエンディングまで到着して余裕が出来たので今回はその部分を辿ってみようかと思います。
区彦行が屋敷に戻り父靖遠候の誕辰を祝ったのには理由があった。
彦行は数年振りに帰宅した部屋で亡き母を描いた掛け軸の前で焼香した。
「母上、只今戻りました…」
母は父が正室にしてやると言う約束を違えた為に悲嘆のうちに亡くなった。
しばらく瞑目していると背後から供の安泰が納得のいかない様子で尋ねて来た。
「若様、大旦那様の誕辰を祝うだけじゃなく、まさか本当に家に戻られるとは…一体何を企んでるんですか?」
安泰には彦行の突然の心変わりが不思議でならなかった。
「安泰、、農場で十一娘を襲った黒装束の者達だが…、頭領は兄上の配下の林杉だ。あの日刺客の手にあった傷に見覚えがあったのだ。今日確かめたらそっくりだった」
「…と言う事は若旦那様が徐若夫人を殺そうと?」
彦行は頷いた。
安泰の顔も暗くなった。
「まさか…徐夫人の母君を殺したのも…?」
「兄上は十一娘の区家への潜入に気付き、我々の会話から目的は下手人捜しだと悟ったのだ…そして我らを泳がせ検視人を使い永平候を疑うよう仕向けた」
「それで農場の副管事に賂を渡して証拠の布を盗ませようとしたんですね」
「そうだ。こたびの帰宅はそれを調べる為だ」
安泰は納得した。
さらに彦行は抱いていた疑問を打ち明けた。
「疑問は多い。呂姨娘は羅家の側室で区家とは何の関わりもない。言わば殺す動機がないのだ」
「それは…つまり」
「兄上達の動きは怪しい…呂姨娘殺害は慈安寺で何かを目撃したせいじゃないだろうか…」
別室ではその兄・励行が妻相手に愚痴を零していた。
「父上は私に失望している…しかも気に入りの彦行まで戻って来た…私には後がない」
妻は一旦運が向かなくなると途端に意気消沈する夫が歯痒かった。
「貴方、もっと自信を持って下さい。義父上がいくら可愛がったとしてもあの者は何の実績もない一介の商人じゃありませんか」
励行の不満が爆発した。
「忘れるな。父上は兵部尚書だ。区家の根本は兵部にある。それなのに私は礼部に送り込まれた!…父上は奴を兵部に抜擢するつもりなのだ」
「何の功も無いのにですか?!…偏愛しようと公私混同は出来ません」
「父上がその気になれば功を立てさせる位何でもない」
彦行を東南海を支配する兄弟の軍に送り込み海賊の密輸を一斉摘発させれば容易く功を立てられる。
若夫人の顔は曇った。
あの強引な義父上ならやりかねない。
だが負けん気の強い若夫人は立ち上がって夫を励ました。
「いくら寵愛されようとあの者は庶子に過ぎません。近頃貴方は黒星続きでしたから義父上のお怒りをかってしまいました。けれど貴方が再び信頼を取り戻せば嫡子である貴方を蔑ろになさる筈がありません」
打つ手が無くなりすっかり自信を失くしている励行は力なく座ったまま溜息をついた。
「そうは言っても信頼を取り戻すとなるとそう簡単な事ではないぞ…」
「私に考えがあります…」
夫人の脳裏には娘の頃から彼女の為なら火をも厭わない忠実な男の顔が浮かんでいた。
酒楼天香楼には今宵も多くの酔客が賑やかに集っていた。
女を連れた裕福そうななりの客二人が入って来ると、狭い客間で飲んだくれている男に話し掛けた。
「よお!これは茂国公府の若旦那じゃないか」
呼び掛けられた男はだらしなく目元を朱く染めて酩酊していた。
「お盛んだと噂は聞いてるぜ。蓮頌と床入り寸前だったらしいな」
泥酔していた男の眠たげだったまなこはピクリと反応した。
蓮頌だと?
衛国公にこっぴどくやられた記憶はまだ生々しい。
茂国公世子・王煌は下から睨みつけた。
「楽しんでる最中を邪魔するな!」
新来客は王煌を更にからかい嘲笑した。
「我らの前だとえらく威勢がいいじゃないか…もし衛国公が来たら…恐らく跪いて赦しを乞うんじゃないか?え?アッハハハハ…」
王煌の目は据わっていた。
「くそっ!任坤がなんだって言うんだ!あんな奴ねじ伏せてやる!失せろっ!」
悔しげに食卓の上の拳を握りしめた。
任坤め…よくも俺に恥をかかせやがって…
目にもの見せてやる!
王煌は散々酩酊した挙げ句、天香楼を出ると千鳥足で衛国王府に向かった。
正門に辿り着くとふらふらしながら上がり門を叩き大声で叫ぶ。
「任坤!出て来い!任坤〜、隠れるな!」
公府の巨大な門が若干開いた。
「誰だ、騒がしい…」
門衛が文句を言いながら顔を見せた。
「任坤を呼べ!任坤に会わせろ!!」
王の凶悪な顔が目の前に現れたので門衛は驚いて後退ったが王の手が伸びて来た。
「どなたかと思えばこれは若旦那様…すぐ外出禁止時刻になります。どうぞお帰りを…」
門衛は胸元を掴まれながらやっとの思いで答えた。
「貴様〜っ」
王はいきなり殴りかかった。
門衛は咄嗟に身をかわしたが王は執念深かった。
「俺を馬鹿にしてるのか!殺してやる!」
王煌は馬鹿力を出すと門衛を押し倒し、馬乗りになってのし掛かると首を絞めた。
殺される!と思った門衛は転がっていた王の酒瓶を掴むと王煌の頭に打ち付けた。
ガッシャーンと言う音と共に王煌の額からは派手に血が流れた。
王煌は血を見ると逆上して喚いた。
「ひ、人殺しだ!殺される!衛国公に殺される!」
這いずりながら喚いたので通行人が何事かと足を止めた。
「誰だ!この夜中に屋敷の前で騒ぐのは!」
ついに衛国公本人が門前に姿を現した。
その威風堂々たる姿に王は腰を抜かした。
「こ、国公…」
「またお前か…」
「殺さないで、、、やめて、助けて!!」
やっと立ち上がると酔いも覚めたかのように脱兎の如く通りを暗がりへと逃げて行った。
翌朝…或る路地裏で頭から血を流し冷たくなった王煌を通行人が発見した。

