西誇院の居間で十一娘と丹陽は向かい合って座った。
丹陽県主も先程の興奮からやっと落ち着きを取り戻しつつあった。
「助けて頂いてありがとうございます」
「とんでもない。急に補修する事になってこんな事になり申し訳ありません。普段此処へ来るのは旦那様と姨娘達くらいですので、彼らには伝えましたが、まさか県主が急に来られるとは。今考えてもぞっとします。万一県主の身に何かあったら私は万死に価するわ」
実際に十一娘の顔もまだ青ざめていた。
「いいえ、四義姉上に助けて頂きました」
「無事で良かったわ・、そう言えば今日は何のご用で?」
「実を言うと、突然ここへ伺ったのは五旦那様と鳳卿について噂を聞いたからです・・五旦那様こそ鳳卿の実の父親だと聞いています。笑えますよね?だから四義姉上に聞こうと思って」
「そんな噂があったんですか?旦那様が言ったでしょう?鳳卿は自分の子だと。誰がそんな根も葉も無い噂を」
「鳳卿は本当に四旦那様の子供ですか?」
「旦那様が認めた以上、鳳卿は紛れも無く旦那様の子です。その事実は変わりません」
「あなたは全然気にしないんですか?」
「鳳卿って頭が良くて可愛いから私は好きよ。まして旦那様にそんな事で煩わせてはいけないわ。それにそれがもとで旦那様と私の仲が疎くなったら割に合わないでしょう?」
丹陽は複雑だったが黙って聞いていた。
「四義姉上と呼んで貰っているから、ひとつ私から県主に言いたいわ。県主は今身重。外のつまらない噂話なんて聞いても真に受けないほうがいいわ。何が一番大事なのか分かっていますよね?つまらない事で大切なものを失ってしまうなんて割に合わない事よ」
まさにその通りだと思った。
丹陽県主も先程の興奮からやっと落ち着きを取り戻しつつあった。
「助けて頂いてありがとうございます」
「とんでもない。急に補修する事になってこんな事になり申し訳ありません。普段此処へ来るのは旦那様と姨娘達くらいですので、彼らには伝えましたが、まさか県主が急に来られるとは。今考えてもぞっとします。万一県主の身に何かあったら私は万死に価するわ」
実際に十一娘の顔もまだ青ざめていた。
「いいえ、四義姉上に助けて頂きました」
「無事で良かったわ・、そう言えば今日は何のご用で?」
「実を言うと、突然ここへ伺ったのは五旦那様と鳳卿について噂を聞いたからです・・五旦那様こそ鳳卿の実の父親だと聞いています。笑えますよね?だから四義姉上に聞こうと思って」
「そんな噂があったんですか?旦那様が言ったでしょう?鳳卿は自分の子だと。誰がそんな根も葉も無い噂を」
「鳳卿は本当に四旦那様の子供ですか?」
「旦那様が認めた以上、鳳卿は紛れも無く旦那様の子です。その事実は変わりません」
「あなたは全然気にしないんですか?」
「鳳卿って頭が良くて可愛いから私は好きよ。まして旦那様にそんな事で煩わせてはいけないわ。それにそれがもとで旦那様と私の仲が疎くなったら割に合わないでしょう?」
丹陽は複雑だったが黙って聞いていた。
「四義姉上と呼んで貰っているから、ひとつ私から県主に言いたいわ。県主は今身重。外のつまらない噂話なんて聞いても真に受けないほうがいいわ。何が一番大事なのか分かっていますよね?つまらない事で大切なものを失ってしまうなんて割に合わない事よ」
まさにその通りだと思った。
彼女はお姫様育ちだが優れた洞察力を持つ女性だ。
丹陽は自分に噂を吹き込んだ喬姨娘を思い浮かべていた。そして今し方聞いた四義姉の「補修は突然だったから旦那様と姨娘達にしか知らせてない」という言葉。これで合点がいった。
私と四義姉上を同時に陥れようとする陰湿な罠があの喬姨娘によって仕掛けられたのだと知った。
丹陽は自分に噂を吹き込んだ喬姨娘を思い浮かべていた。そして今し方聞いた四義姉の「補修は突然だったから旦那様と姨娘達にしか知らせてない」という言葉。これで合点がいった。
私と四義姉上を同時に陥れようとする陰湿な罠があの喬姨娘によって仕掛けられたのだと知った。
なんて女!先程までの鳳卿への疑念は鎮まり、喬姨娘への怒りに取って変わった。
果たして一侍女がそのような勝手なたくらみを企て、自滅するものだろうか?
蓮房は鼻唄を歌いながら茶を煎れていた。今頃あの二人はどうしているかしら?どんな顛末になっていることやら・・。大奥様にとって目下の懸念は県主が無事出産出来るかどうかと言う事。その為に何度も慈安寺に足を運んでご祈祷に励んでいるくらいだ。もし十一娘のせいで死産にでもなれば大奥様は決して十一娘を許さないだろう。今以上に辛く当たって追い出す筈。・・ふふふ。
そんな皮算用に胸を膨らませていると、突然部屋に県主本人が現れた。
喬姨娘は慌てた「県主、お越しなら使用人に・、」
パアーン・・・!
丹陽は問答無用で蓮房の頬を叩いた。「!」
「何と言う悪心の人なの!名門の出自だから品性には問題ないと思ってた。とんだ外れだわね!それが喬家の育ちなの?」
「蓮房、何をしてこんなに五奥様を怒らせましたか?」
「ほら見て、またそんな白を切って。わざとらしい!その白々しい態度。それを信じるのは優しい義母上くらいのものよ!四旦那様はどうかしら?あんたの事なんか全然見てないじゃない」
「何ですって!」蓮房は一番痛いところを衝かれて立ち上がった。
「どうしてそんなに私を侮辱するんですか?県主だからって堂々と人を虐めてもいいんですか?」
「あんた自身には分かってる・・私が気付いてないとでも?今日私は無事だったから許してあげる。そうじゃなかったらただでは置かないわ!これからは大人しくしなさい。もしまた私をこんな汚い手で謀ったら絶対に許さないわよ!」
蓮房はまだ白を切る。
「県主だからって、無実の人の顔に泥を塗っていいんですか?こんな事が徐家にあっていいんでしょうか」
「納得がいかないなら旦那様や義母上に私を告発しなさい!ちゃんと事を論じましょう」
この県主が本気で旦那様に訴えたら不利だ。
そんな皮算用に胸を膨らませていると、突然部屋に県主本人が現れた。
喬姨娘は慌てた「県主、お越しなら使用人に・、」
パアーン・・・!
丹陽は問答無用で蓮房の頬を叩いた。「!」
「何と言う悪心の人なの!名門の出自だから品性には問題ないと思ってた。とんだ外れだわね!それが喬家の育ちなの?」
「蓮房、何をしてこんなに五奥様を怒らせましたか?」
「ほら見て、またそんな白を切って。わざとらしい!その白々しい態度。それを信じるのは優しい義母上くらいのものよ!四旦那様はどうかしら?あんたの事なんか全然見てないじゃない」
「何ですって!」蓮房は一番痛いところを衝かれて立ち上がった。
「どうしてそんなに私を侮辱するんですか?県主だからって堂々と人を虐めてもいいんですか?」
「あんた自身には分かってる・・私が気付いてないとでも?今日私は無事だったから許してあげる。そうじゃなかったらただでは置かないわ!これからは大人しくしなさい。もしまた私をこんな汚い手で謀ったら絶対に許さないわよ!」
蓮房はまだ白を切る。
「県主だからって、無実の人の顔に泥を塗っていいんですか?こんな事が徐家にあっていいんでしょうか」
「納得がいかないなら旦那様や義母上に私を告発しなさい!ちゃんと事を論じましょう」
この県主が本気で旦那様に訴えたら不利だ。
蓮房は弱い立場に逃げ込もうとした。
「蓮房はただの妾です。県主と論じる資格なんてありません・・とうぞお身体に気を付けてください」
丹陽県主は言うべき事は言い長居は無用とばかりに出ていった。
★県主=皇帝の親類(皇族)の娘に与えられる称号
「蓮房はただの妾です。県主と論じる資格なんてありません・・とうぞお身体に気を付けてください」
丹陽県主は言うべき事は言い長居は無用とばかりに出ていった。
★県主=皇帝の親類(皇族)の娘に与えられる称号
丹陽県主は石乳母にゆっくりゆっくりと注意されながら部屋に戻って来た。
「喬姨娘が噂話を聞かせた目的は恐らく動揺した私が階段で転がること。そしてその罪を十一娘に着せる積もりだったんでしょ」
石乳母も驚いていた「喬姨娘がそんな悪心な人だったとは。見抜けて良かったです。今回はご無事で何よりですよ。これからは何を聞いても衝動的になってはいけませんよ」
「危うく喬姨娘の罠に引っかかるところだったわ」
石乳母は丹陽に茶を入れてやりながら言い聞かせた「これからは心を大きく持っていちいち細かい事に気を取られては駄目ですよ」
「今回は危うくあの女の罠にかかるところを幸い十一娘が気付かせてくれた。今一番大事な事はお腹の赤ちゃんと、私と旦那様の夫婦の情よ」
「分かればいいです。他の事はさておき無事に出産なさる事が何より大切ですよ。それにしても四奥様って温厚なお人柄ですね。これからはもっと四奥様とお付き合いしたほうがいいですよ。何と言っても候爵夫人ですから。彼女の力が必要になる時が来るかも知れませんよ」
「彼女は出自が低いけれど善良な人よ。あの喬姨娘よりよっぽどマシよ」
「喬姨娘が噂話を聞かせた目的は恐らく動揺した私が階段で転がること。そしてその罪を十一娘に着せる積もりだったんでしょ」
石乳母も驚いていた「喬姨娘がそんな悪心な人だったとは。見抜けて良かったです。今回はご無事で何よりですよ。これからは何を聞いても衝動的になってはいけませんよ」
「危うく喬姨娘の罠に引っかかるところだったわ」
石乳母は丹陽に茶を入れてやりながら言い聞かせた「これからは心を大きく持っていちいち細かい事に気を取られては駄目ですよ」
「今回は危うくあの女の罠にかかるところを幸い十一娘が気付かせてくれた。今一番大事な事はお腹の赤ちゃんと、私と旦那様の夫婦の情よ」
「分かればいいです。他の事はさておき無事に出産なさる事が何より大切ですよ。それにしても四奥様って温厚なお人柄ですね。これからはもっと四奥様とお付き合いしたほうがいいですよ。何と言っても候爵夫人ですから。彼女の力が必要になる時が来るかも知れませんよ」
「彼女は出自が低いけれど善良な人よ。あの喬姨娘よりよっぽどマシよ」
丹陽、何処に行ってたんだ。捜したぞ」五弟が入って来た。
「午後暇だったので四義姉上のところに行ってきました。ついでに鳳卿と遊んで来ました」
「・・、」五弟は何も言えず俯いた。俯いたその目に丹陽の汚れた裾が目に入り訝しんで石乳母に尋ねた「この裾はどうしたんだ?」
「先程四奥様のところで奥様が危うく階段から転がるところでした。私がしっかりついて居なかったのが悪いんです。幸い四奥様が助けて下さり怪我をせずにすみました」
「なんて事だ!これからは何処に行くにも私を呼ぶんだ。私が傍に着いて居なかったからそんな目に合うんだ」
「はい、分かりました。でもまあ無事だったでしょ?そんなに心配しなくても大丈夫です・・あらどうしましたか?髪が濡れてますね」
五弟はとうとう意を決して、丹陽の父である定南候に謝罪しに行った。義父は激怒していたのでなかなか会って貰えなかった。屋敷の前庭で長時間ひざまずいているあいだにわか雨に遭い散々に濡れたのだった。しかし熱意が伝わり今回は何とか妊娠中の丹陽に免じて赦しを貰えた。
「あ、さっきちょっと雨に降られたんだ」
丹陽にそれを打ち明ける事は出来ない。
それで話題を変えようとして言った「あ、そうだ。それなら四義姉上にちゃんとお礼を言わないと」
「そうですね。それと、あの鳳卿て子、可愛いかったですね。四旦那様の子だそうですが・・目のところはあなたに似てますね。さすが徐家の子供です」
五弟は凍り付いた。丹陽の目は密かに五弟の顔色を探っていた。
五弟は何も答えられず不自然な沈黙があった。丹陽は気づいているのか?嘘を言い通すつもりで居たがもし本人が感づいているのならどうすればいいのだ?
丹陽は立って歩き五弟に背を向けると言った。
「鳳卿という子、以前はあまりいい扱いをされてこなかったそうよ。幸い四旦那様が徐家に迎えたからこれからはもっとましな暮らしをさせて上げられるでしょう。あなたも見に行ってあげてね。叔父様ですから」
話す丹陽の目は潤んでいた「あの子と遊んで上げて・・」
やはり丹陽は知っている・・そう確信した令寛は立って丹陽の傍に行くと肩を抱いた。
「分かった・・丹陽、ありがとう」
「いいの。私たち親子を忘れないだけで十分です」
「何を馬鹿な事を言うのだ。お前達こそ私にとって一番大切なのに忘れる訳がない」
「午後暇だったので四義姉上のところに行ってきました。ついでに鳳卿と遊んで来ました」
「・・、」五弟は何も言えず俯いた。俯いたその目に丹陽の汚れた裾が目に入り訝しんで石乳母に尋ねた「この裾はどうしたんだ?」
「先程四奥様のところで奥様が危うく階段から転がるところでした。私がしっかりついて居なかったのが悪いんです。幸い四奥様が助けて下さり怪我をせずにすみました」
「なんて事だ!これからは何処に行くにも私を呼ぶんだ。私が傍に着いて居なかったからそんな目に合うんだ」
「はい、分かりました。でもまあ無事だったでしょ?そんなに心配しなくても大丈夫です・・あらどうしましたか?髪が濡れてますね」
五弟はとうとう意を決して、丹陽の父である定南候に謝罪しに行った。義父は激怒していたのでなかなか会って貰えなかった。屋敷の前庭で長時間ひざまずいているあいだにわか雨に遭い散々に濡れたのだった。しかし熱意が伝わり今回は何とか妊娠中の丹陽に免じて赦しを貰えた。
「あ、さっきちょっと雨に降られたんだ」
丹陽にそれを打ち明ける事は出来ない。
それで話題を変えようとして言った「あ、そうだ。それなら四義姉上にちゃんとお礼を言わないと」
「そうですね。それと、あの鳳卿て子、可愛いかったですね。四旦那様の子だそうですが・・目のところはあなたに似てますね。さすが徐家の子供です」
五弟は凍り付いた。丹陽の目は密かに五弟の顔色を探っていた。
五弟は何も答えられず不自然な沈黙があった。丹陽は気づいているのか?嘘を言い通すつもりで居たがもし本人が感づいているのならどうすればいいのだ?
丹陽は立って歩き五弟に背を向けると言った。
「鳳卿という子、以前はあまりいい扱いをされてこなかったそうよ。幸い四旦那様が徐家に迎えたからこれからはもっとましな暮らしをさせて上げられるでしょう。あなたも見に行ってあげてね。叔父様ですから」
話す丹陽の目は潤んでいた「あの子と遊んで上げて・・」
やはり丹陽は知っている・・そう確信した令寛は立って丹陽の傍に行くと肩を抱いた。
「分かった・・丹陽、ありがとう」
「いいの。私たち親子を忘れないだけで十分です」
「何を馬鹿な事を言うのだ。お前達こそ私にとって一番大切なのに忘れる訳がない」
令寛は丹陽の肩を抱く手に力を込めた。
二義姉・怡真の周りを鳳卿がくるくると走り回り黄乳母が危ないですよと言いながら追い掛けていた。二義姉が手を差し出すと鳳卿は甘えて彼女の膝の上に坐った。彼女は優しい母親のように何かを語りかけながら子供の額の汗を拭いてあげる。
そんな光景を見ていた十一娘が声をかけた「二義姉上」
「十一娘」
黄乳母があちらで遊びましょうと言うと鳳卿は素直に従った。
「どうぞお掛けなさい」
そんな光景を見ていた十一娘が声をかけた「二義姉上」
「十一娘」
黄乳母があちらで遊びましょうと言うと鳳卿は素直に従った。
「どうぞお掛けなさい」
十一娘が座ると怡真が尋ねた。
「旦那様はもう鳳卿を誰に任せるか決めたかしら?」
「まだです。実は二義姉上にご相談したい事があります」
「何かしら?」
「二義姉上は鳳卿と気が合いそうです。二義姉上は鳳卿を育てるおつもりはありませんか?」
そう言った途端彼女の顔に憂いが射した。
「確かに私はあの子が好きだけど、私には無理よ。ちゃんと面倒を見られるか自信がないわ」
「憂慮されている事は分かっています」
「あの時、私のせいで謙ちゃんが風邪で亡くなった。なのに鳳卿をちゃんと育てられるでしょうか?」
「多分お気づきと思いますが。二人の姨娘達にその気はありますが、彼女達には下心があります。二義姉上にもお分かりですよね?彼女達に任せるのは安心出来ません。それに鳳卿は今まで大変な苦労をしてきました。まともに教育を受けていません。家の子供達は皆、二義姉上に読み書きを教わって来たので鳳卿も二義姉上の教えがあればきっといい子に育つでしょう」
二義姉はじっと慎重な面持ちで聴いていた。
「この徐家で鳳卿に安心な子供時代を与えられるのは二義姉上しかいません」
二義姉が黙っているので十一娘は真意を分かって貰おうとした。
「二義姉上が本気で鳳卿を可愛がっておられると感じたので色々とお話しました。もし二義姉上に全くその気がないなら聞かなかった事にして下さい。もし二義姉上が過去にこだわって逡巡しておられるのなら、鳳卿にとって何が一番幸せなのかをもっと考えて頂きたいのです」
二義姉はじっと十一娘を見つめた。
「勿論、義姉上の意見を最も尊重します」
十一娘の言葉に先程までの憂いに満ちた様子は徐々に薄れて来た。
「よく考えさせて」
十一娘は小さく頷いた。
「旦那様はもう鳳卿を誰に任せるか決めたかしら?」
「まだです。実は二義姉上にご相談したい事があります」
「何かしら?」
「二義姉上は鳳卿と気が合いそうです。二義姉上は鳳卿を育てるおつもりはありませんか?」
そう言った途端彼女の顔に憂いが射した。
「確かに私はあの子が好きだけど、私には無理よ。ちゃんと面倒を見られるか自信がないわ」
「憂慮されている事は分かっています」
「あの時、私のせいで謙ちゃんが風邪で亡くなった。なのに鳳卿をちゃんと育てられるでしょうか?」
「多分お気づきと思いますが。二人の姨娘達にその気はありますが、彼女達には下心があります。二義姉上にもお分かりですよね?彼女達に任せるのは安心出来ません。それに鳳卿は今まで大変な苦労をしてきました。まともに教育を受けていません。家の子供達は皆、二義姉上に読み書きを教わって来たので鳳卿も二義姉上の教えがあればきっといい子に育つでしょう」
二義姉はじっと慎重な面持ちで聴いていた。
「この徐家で鳳卿に安心な子供時代を与えられるのは二義姉上しかいません」
二義姉が黙っているので十一娘は真意を分かって貰おうとした。
「二義姉上が本気で鳳卿を可愛がっておられると感じたので色々とお話しました。もし二義姉上に全くその気がないなら聞かなかった事にして下さい。もし二義姉上が過去にこだわって逡巡しておられるのなら、鳳卿にとって何が一番幸せなのかをもっと考えて頂きたいのです」
二義姉はじっと十一娘を見つめた。
「勿論、義姉上の意見を最も尊重します」
十一娘の言葉に先程までの憂いに満ちた様子は徐々に薄れて来た。
「よく考えさせて」
十一娘は小さく頷いた。
令宣はじっと十一娘の話に耳を傾けていた。
「もし二義姉が結局過去を引きずったままなら・・」
「それなら、鳳卿は私が育てます」
「お前に一層苦労を掛けるではないか」
「それは構いません。本当は二義姉上が鳳卿を育てるのが双方にとって一番良い選択だと思います」
「もしお前が育てる事になっても、名義上お前の子供だとする必要はない・・
そうだな、例えば佟姨娘の子供という事にするか」
それは一度も聞いた事のない名前だった。
「佟姨娘?・・誰ですか?」
「佟姨娘は前の妻の侍女だった。数年前に亡くなった」
十一娘は令宣の顔色を見てそれ以上は彼に聞かないほうが良いと判断した。
・・・・
令宣にはまだ自分の知らない姨娘(妾)が居たのか。
徐家に嫁いで来てから何故誰の口からもその名が出ないのか不思議だった。
姉の侍女なら当然陶乳母が一番詳しいに違いない。
「もし二義姉が結局過去を引きずったままなら・・」
「それなら、鳳卿は私が育てます」
「お前に一層苦労を掛けるではないか」
「それは構いません。本当は二義姉上が鳳卿を育てるのが双方にとって一番良い選択だと思います」
「もしお前が育てる事になっても、名義上お前の子供だとする必要はない・・
そうだな、例えば佟姨娘の子供という事にするか」
それは一度も聞いた事のない名前だった。
「佟姨娘?・・誰ですか?」
「佟姨娘は前の妻の侍女だった。数年前に亡くなった」
十一娘は令宣の顔色を見てそれ以上は彼に聞かないほうが良いと判断した。
・・・・
令宣にはまだ自分の知らない姨娘(妾)が居たのか。
徐家に嫁いで来てから何故誰の口からもその名が出ないのか不思議だった。
姉の侍女なら当然陶乳母が一番詳しいに違いない。
「佟姨娘!?」
陶乳母が顔をしかめて嫌悪感をあらわにした。
「ははっ!前の奥様が嫁ぐ時に一緒に来た侍女ですよ。奥様が妊娠中、旦那様が酔っているのに乗じて誘い込んだんです」
陶乳母が顔をしかめて嫌悪感をあらわにした。
「ははっ!前の奥様が嫁ぐ時に一緒に来た侍女ですよ。奥様が妊娠中、旦那様が酔っているのに乗じて誘い込んだんです」
十一娘は咄嗟に疑問を感じた。
あの堅物の旦那様がそんな誘惑に簡単に引っ掛かるだろうか?
陶乳母の蔑みに満ちた声は続いた。
「前の奥様は心が広かったからその女を妾にしてやりましたよ」
「聞いた事のない話ね」
「あいよ~こんな話、人様に知られたらもの笑いの種でしょう。そんな汚い手を使ったもので旦那様も気に入る筈がありませんよ。一度の寵愛もなく後ろ盾もいない。気鬱な日々が続いてとうとう死んでしまいました」
あの堅物の旦那様がそんな誘惑に簡単に引っ掛かるだろうか?
陶乳母の蔑みに満ちた声は続いた。
「前の奥様は心が広かったからその女を妾にしてやりましたよ」
「聞いた事のない話ね」
「あいよ~こんな話、人様に知られたらもの笑いの種でしょう。そんな汚い手を使ったもので旦那様も気に入る筈がありませんよ。一度の寵愛もなく後ろ盾もいない。気鬱な日々が続いてとうとう死んでしまいました」
果たして一侍女がそのような勝手なたくらみを企て、自滅するものだろうか?
そんな単純な話ではない気がした。
どうやらこの件には裏がありそうだと十一娘は感じた。
どうやらこの件には裏がありそうだと十一娘は感じた。
