その夜、令宣は半月畔に五弟令寛を呼び出した。
ずっと食欲のない五弟を心配していた丹陽県主は呼び出しに来た照影に反発した。
「四旦那様はどういうつもり?また五旦那様を怒鳴りたいの?」
令寛が怒る丹陽を宥めた。
「お前は身重だから激しては駄目だ。兄上がそうしたいなら好きなだけ怒鳴らせるさ、食事はちゃんと帰ってから食べるから、な?」
令宣は半月畔の表に弟を招いて座らせた。
二人の真ん中には香しい梅の酒があった。
令宣が杯を上げた「お前の為に乾杯」
叱られるとばかり思い込んでいた令寛は逆に狼狽し恐縮していた。
令宣が杯を上げた「お前の為に乾杯」
叱られるとばかり思い込んでいた令寛は逆に狼狽し恐縮していた。
「四兄上、こんな事をして貰っては・・」
令宣の意外な言葉に驚きながらも令寛は兄の杯に酒を注ぎ返した。
令宣の意外な言葉に驚きながらも令寛は兄の杯に酒を注ぎ返した。
注ぐ五弟の袖を令宣が触った。
袖から覗いた五弟の手首には明らかな傷痕が見えた。
令寛ははっとして傷痕を隠した。
「あの夏の夜・・」
「あの夏の夜・・」
令宣は懐かしい昔を思い起こしていた。
「お前は一番高い木に登って小夜泣き鳥を捕まえようとして、鳥は逃げるしお前は落ちそうになって、必死に枝にしがみついて降りた時に出来た傷だ」
令寛は照れ臭そうにしている。
「もう何年も昔の話ですよ。まだ覚えていたんですか?」
「その小夜泣き鳥の声が綺麗だと私が言ったから、お前は私の為に捕まえようとして登ったのだ。その傷は私の為に出来た傷だ。忘れる筈がない」
「あの頃私は兄上の後ろに付いて回るのが好きでした。何か過ちを犯しても四兄上に助けて貰っていた。勉強するのが厭で駄々をこねた時も結局兄上に殴られて大人しく本を暗記する事が出来ました。子供の頃から犯した過ちは数え切れないほどだ。四兄上には数え切れないほど面倒をかけました」
「面倒だと思った事は一度もない…」
「お前は一番高い木に登って小夜泣き鳥を捕まえようとして、鳥は逃げるしお前は落ちそうになって、必死に枝にしがみついて降りた時に出来た傷だ」
令寛は照れ臭そうにしている。
「もう何年も昔の話ですよ。まだ覚えていたんですか?」
「その小夜泣き鳥の声が綺麗だと私が言ったから、お前は私の為に捕まえようとして登ったのだ。その傷は私の為に出来た傷だ。忘れる筈がない」
「あの頃私は兄上の後ろに付いて回るのが好きでした。何か過ちを犯しても四兄上に助けて貰っていた。勉強するのが厭で駄々をこねた時も結局兄上に殴られて大人しく本を暗記する事が出来ました。子供の頃から犯した過ちは数え切れないほどだ。四兄上には数え切れないほど面倒をかけました」
「面倒だと思った事は一度もない…」
令宣の声は穏やかで優しかった。
「今日の事は、私がせっかちでいけなかった・・お前に早く大人になって自分の責任を担って欲しいといつも思っていた。だからついお前に辛くあたってしまった」
「ああ・・四兄上もう何も言わないで…!私が悪かったんです!」
令宣が次に杯を持ち言った「十一娘の言った通りだ。私はお前に厳しすぎた。こうやってちゃんとお前と話した事がなかった。お前の考えも聞いてやらなかった」
令寛は兄の言葉に自分が恥ずかしくて堪らなくなった。
「父上と二兄上が亡くなってから、私はずっとぴりぴりとしてきた。徐家が被った悲劇を二度と経験したくなかったから出来るだけ自分に厳しくしていた。それをいつの間にかお前にまで強いるようになっていた」
「四兄上は私にもっといい人間になって欲しいだけですから、、分かっています」
令宣は杯を傾けて感慨深い表情になった「しかしお前にもお前の性格と考えがあることを私は忘れていた。私が考える徐家を守る方法をお前に押し付けるべきじゃなかった・・」
「四兄上は悪くありません!」
令寛は兄の前に身を翻してひざまずいた。
「私が悪いのです。私が腑抜けだから出鱈目な事ををいっぱいやって徐家に恥をかかせました。私の過ちは私がちゃんと責任を取ります。四兄上安心してください。義父上にお詫びに行きます」
「今日の事は、私がせっかちでいけなかった・・お前に早く大人になって自分の責任を担って欲しいといつも思っていた。だからついお前に辛くあたってしまった」
「ああ・・四兄上もう何も言わないで…!私が悪かったんです!」
令宣が次に杯を持ち言った「十一娘の言った通りだ。私はお前に厳しすぎた。こうやってちゃんとお前と話した事がなかった。お前の考えも聞いてやらなかった」
令寛は兄の言葉に自分が恥ずかしくて堪らなくなった。
「父上と二兄上が亡くなってから、私はずっとぴりぴりとしてきた。徐家が被った悲劇を二度と経験したくなかったから出来るだけ自分に厳しくしていた。それをいつの間にかお前にまで強いるようになっていた」
「四兄上は私にもっといい人間になって欲しいだけですから、、分かっています」
令宣は杯を傾けて感慨深い表情になった「しかしお前にもお前の性格と考えがあることを私は忘れていた。私が考える徐家を守る方法をお前に押し付けるべきじゃなかった・・」
「四兄上は悪くありません!」
令寛は兄の前に身を翻してひざまずいた。
「私が悪いのです。私が腑抜けだから出鱈目な事ををいっぱいやって徐家に恥をかかせました。私の過ちは私がちゃんと責任を取ります。四兄上安心してください。義父上にお詫びに行きます」
賑やかな大通りに面した仙綾閣の奥まった一室で十一娘と簡先生が向かい合っていた。
「十一娘、しばらく来れなかったわね」
簡先生は常に十一娘を心配していた。
「家事は雑多で、ややこしくて仙綾閣でしか安寧を感じられません」
そう言うとゆったりとした仕草で茶を飲んだ。
十一娘にとって簡先生はもう師匠というより母のような存在だ。
敷居の高い羅家に代わり仙綾閣はいわば実家のように寛げる場所。
「最近はどうなの?徐家に嫁いでから暫く経ったでしょ?気になる人物や出来事はなかったの?」
簡先生は十一娘が事件究明の為に徐家へ嫁いだ事を知って心配してくれている数少ない一人だ。
簡先生から問われて、ここ暫く十一娘自身も事件の手掛かりになるような事を探している余裕がなく、念頭からも消えていた事に気付いた。
咄嗟に頭に浮かんだのは令宣の事だった。令宣の腕に抱かれて眠りから醒めた朝を。
「十一娘、しばらく来れなかったわね」
簡先生は常に十一娘を心配していた。
「家事は雑多で、ややこしくて仙綾閣でしか安寧を感じられません」
そう言うとゆったりとした仕草で茶を飲んだ。
十一娘にとって簡先生はもう師匠というより母のような存在だ。
敷居の高い羅家に代わり仙綾閣はいわば実家のように寛げる場所。
「最近はどうなの?徐家に嫁いでから暫く経ったでしょ?気になる人物や出来事はなかったの?」
簡先生は十一娘が事件究明の為に徐家へ嫁いだ事を知って心配してくれている数少ない一人だ。
簡先生から問われて、ここ暫く十一娘自身も事件の手掛かりになるような事を探している余裕がなく、念頭からも消えていた事に気付いた。
咄嗟に頭に浮かんだのは令宣の事だった。令宣の腕に抱かれて眠りから醒めた朝を。
十一娘は内心の動揺を隠して言った。
「関心があるのは手掛かり以外には子供達の事くらいでしょうか・・他は、特にはありません」
簡先生はとりあえず十一娘の身に危険が迫ってはいないと知って安心したようだった。
「関心があるのは手掛かり以外には子供達の事くらいでしょうか・・他は、特にはありません」
簡先生はとりあえず十一娘の身に危険が迫ってはいないと知って安心したようだった。
先日頼んでおいた店員の知らせを受け林公子が仙綾閣を訪れた。
「羅お嬢様は中にいらっしゃいます」
「うん、分かった」
「羅お嬢様は中にいらっしゃいます」
「うん、分かった」
入って行こうとすると背後から「林公子」と挨拶する者がいた。
声をかけたのは琥珀だった。
「琥珀、お嬢様に付いて来たのか?最近お嬢様はどうなさっている?」
(この方は奥様がお好きなのだ。それを隠そうともなさらない)
「琥珀、お嬢様に付いて来たのか?最近お嬢様はどうなさっている?」
(この方は奥様がお好きなのだ。それを隠そうともなさらない)
米問屋で助けて貰った時から琥珀は林公子に惹かれていた。
琥珀は一抹の寂しさを覚えた。
また身分を変えている奥様が林様に不信感を持たれないようにするにはどう答えるべきか口ごもってしまった。
琥珀が答えに窮しているのを林公子は誤解した。
「あ・・、ただお宅のお嬢様が元気で順調にやっているかを知りたかっただけだ」
「おく、、お嬢様は順調ですよ」
「なら、いい」そう言うと後ろの安泰を振り返った。安泰は持っていた風呂敷包みを差し出す。中からひとつ小振りな陶器の容れ物を取り出すと琥珀に手渡してくれた。
「これは南方から持ち帰った保湿剤だ。手の保養にいいから使うといい。これはお前の分だ」
「ありがとうございます!公子、あ、お嬢様は中にいますよ」
琥珀は一抹の寂しさを覚えた。
また身分を変えている奥様が林様に不信感を持たれないようにするにはどう答えるべきか口ごもってしまった。
琥珀が答えに窮しているのを林公子は誤解した。
「あ・・、ただお宅のお嬢様が元気で順調にやっているかを知りたかっただけだ」
「おく、、お嬢様は順調ですよ」
「なら、いい」そう言うと後ろの安泰を振り返った。安泰は持っていた風呂敷包みを差し出す。中からひとつ小振りな陶器の容れ物を取り出すと琥珀に手渡してくれた。
「これは南方から持ち帰った保湿剤だ。手の保養にいいから使うといい。これはお前の分だ」
「ありがとうございます!公子、あ、お嬢様は中にいますよ」
そうこうしていると、簡先生と十一娘が奥から出て来た。
「林公子」
「簡先生、羅お嬢さま」
林公子は再び安泰に風呂敷包みを出させ簡先生に手渡した。
「林公子、これは?」
「職人にとって手は非常に大事です。手を保湿しないと。南方の保湿剤です」
「まあ、わざわざすみません。林様、でも訳もなくこんな貴重な物を受け取れません」
「遠慮なさらないで。大した金額ではありませんから受け取って下さい」
安泰はあきれて主人を見た。この保湿剤を購入するのに大枚を使ったのだ。
「分かりました。感謝します」安泰が差し出した風呂敷包みを簡先生が受け取った。
林公子は自分の手に持っていたものを十一娘に差し出した「羅お嬢さま、貴女の分です。毎日使って下さい」
「ありがとうございます」
「とんだ散財をさせてすみません」簡先生はこういった渡来品が高価であるのを知っているので重ねて礼を言った。
「林公子」
「簡先生、羅お嬢さま」
林公子は再び安泰に風呂敷包みを出させ簡先生に手渡した。
「林公子、これは?」
「職人にとって手は非常に大事です。手を保湿しないと。南方の保湿剤です」
「まあ、わざわざすみません。林様、でも訳もなくこんな貴重な物を受け取れません」
「遠慮なさらないで。大した金額ではありませんから受け取って下さい」
安泰はあきれて主人を見た。この保湿剤を購入するのに大枚を使ったのだ。
「分かりました。感謝します」安泰が差し出した風呂敷包みを簡先生が受け取った。
林公子は自分の手に持っていたものを十一娘に差し出した「羅お嬢さま、貴女の分です。毎日使って下さい」
「ありがとうございます」
「とんだ散財をさせてすみません」簡先生はこういった渡来品が高価であるのを知っているので重ねて礼を言った。
帰りの馬車の中、琥珀は奥様と林公子の縁に複雑な思いを抱いていた。
「まさか、奥様と林公子がお知り合いだったとは奇縁ですね・・救済の時も助けて貰いましたしね」
「あまり付き合いはないけれど、あの方は熱心ないい方ね。でもやはり人に借りを作ってはいい気がしないわ。後日彼が困るような事があれば私達が助けてあげないとね」
「そうですね。奥様の言う通りです」
気の毒だが林公子の気持ちは奥様には全く通じていないようだ。
「まさか、奥様と林公子がお知り合いだったとは奇縁ですね・・救済の時も助けて貰いましたしね」
「あまり付き合いはないけれど、あの方は熱心ないい方ね。でもやはり人に借りを作ってはいい気がしないわ。後日彼が困るような事があれば私達が助けてあげないとね」
「そうですね。奥様の言う通りです」
気の毒だが林公子の気持ちは奥様には全く通じていないようだ。
[喬姨娘と丹陽県主]
お腹の張ってきた丹陽県主は身体を動かす為に花園で散歩をしていた。
「四旦那様と旦那様が仲直り出来て良かったわ。ずっと心配していたけれど旦那様も元気になったしこれでやっと安心出来るわ」
乳母が心配顔で答えた「奥様、もうあの兄弟の仲に気を遣われるのはお止め下さいませ。お子様を産む事だけに専念なさって下さい」
「だけど一つ分からない事があるの。あの二人は一体何が原因で争っていたの?四旦那様の怒りようはただ事ではない気がする・・」
お腹の張ってきた丹陽県主は身体を動かす為に花園で散歩をしていた。
「四旦那様と旦那様が仲直り出来て良かったわ。ずっと心配していたけれど旦那様も元気になったしこれでやっと安心出来るわ」
乳母が心配顔で答えた「奥様、もうあの兄弟の仲に気を遣われるのはお止め下さいませ。お子様を産む事だけに専念なさって下さい」
「だけど一つ分からない事があるの。あの二人は一体何が原因で争っていたの?四旦那様の怒りようはただ事ではない気がする・・」
「五奥様」扇で扇ぎながら喬姨娘が近寄ってきた「花園でお会いするのは珍しいですね。ご機嫌麗しくて・・」
丹陽は喬家の嫡女ながら四旦那様の妾に甘んじている蓮房を心底軽蔑していた。
「この花園は小さいわね。散歩しにきただけなのに興が削がれたわ。石乳母、帰ろう」
「そんなに急いで帰らなくてもいいじゃありませんか。ここ数日心配してたんですよ。外の噂はまだご存知ないようですね」
「この花園は小さいわね。散歩しにきただけなのに興が削がれたわ。石乳母、帰ろう」
「そんなに急いで帰らなくてもいいじゃありませんか。ここ数日心配してたんですよ。外の噂はまだご存知ないようですね」
丹陽は蓮房の意地の悪そうな目が気になった。
「噂って?」
「鳳卿様にまだ会ってらっしゃらないんですか?」
「それどういう意味?私が鳳卿に会っていようがいまいがあなたに関係ないでしょ」
「ご存知ないんですか?鳳卿様のあの目、五旦那様の目にそっくりですよ。実情を知らない人が見れば五旦那様の子供だと思いますよ」
丹陽の顔は蒼白になり、次に怒りで赤くなった。
「回りくどい事はいい、はっきり言ったらどうなの?」
「これ程はっきり言ってるのに信じないのでしょ?信じないなら西誇院であの子を見れば分かりますよ」
丹陽は石乳母を振り返った。
「まさか、まさか、その事で・・」丹陽の鼓動が烈しく打った「四旦那様と五旦那様が、あんな、、、、」
蓮房はとどめを刺すように言った。
「よおく考えて下さい。四旦那様の性分であんな事をする筈がないでしょう」
確かにあの堅物の四旦那様が外に子どもを作るなんておかしいとは思っていた。しかし、とにかくこの目で確かめなければ。
丹陽は石乳母に支えられながら再び歩き出した。西誇院の方角へと。
「五奥様、お気をつけて~」背後から喬蓮房の底意地の悪い声がする。
「噂って?」
「鳳卿様にまだ会ってらっしゃらないんですか?」
「それどういう意味?私が鳳卿に会っていようがいまいがあなたに関係ないでしょ」
「ご存知ないんですか?鳳卿様のあの目、五旦那様の目にそっくりですよ。実情を知らない人が見れば五旦那様の子供だと思いますよ」
丹陽の顔は蒼白になり、次に怒りで赤くなった。
「回りくどい事はいい、はっきり言ったらどうなの?」
「これ程はっきり言ってるのに信じないのでしょ?信じないなら西誇院であの子を見れば分かりますよ」
丹陽は石乳母を振り返った。
「まさか、まさか、その事で・・」丹陽の鼓動が烈しく打った「四旦那様と五旦那様が、あんな、、、、」
蓮房はとどめを刺すように言った。
「よおく考えて下さい。四旦那様の性分であんな事をする筈がないでしょう」
確かにあの堅物の四旦那様が外に子どもを作るなんておかしいとは思っていた。しかし、とにかくこの目で確かめなければ。
丹陽は石乳母に支えられながら再び歩き出した。西誇院の方角へと。
「五奥様、お気をつけて~」背後から喬蓮房の底意地の悪い声がする。
石乳母が急ごうとする丹陽を注意した「奥様、奥様どうか、落ち着いて、喬姨娘の言葉など信ずるに価しませんよ。今は身重の身ですからもっと慎重にしなければ」
丹陽は腰に手を当てて尚も急ごうとする。
「落ち着いてなんていられない。道理であの十一娘、黙って子供を引き受けた訳ね・・とっくに知ってるわよね。はっきり聞きに行くわ」
「奥様、そう急がないで、ゆっくり歩かないと駄目ですよ」
丹陽は腰に手を当てて尚も急ごうとする。
「落ち着いてなんていられない。道理であの十一娘、黙って子供を引き受けた訳ね・・とっくに知ってるわよね。はっきり聞きに行くわ」
「奥様、そう急がないで、ゆっくり歩かないと駄目ですよ」
繍櫞は喬姨娘が何故五奥様にわざわざ憎まれるような事を言ったのか理解に苦しんでいた。
「喬様、喬家の奥方様から来た手紙にあった鳳卿が五旦那様の私生児というのは本当ですか?」
「私はとっくに疑ってた。旦那様は放蕩な人ではないわ。落胤なんて居る筈がない。母上の話は恐らく本当よ」
「では何故そのことを丹陽県主に教えたのですか?利があるとは思えませんが?県主は感謝したりしませんよ」
「奥様は西誇院の階段を修繕させたばかりでしょ?階段はまだ乾いてない。丹陽は身重よ。大雨の後だし、衝動的になって、何かあったら・・すべては奥様の責任、、くく、十一娘の今後の生活は安らかさとは無縁ね・・くくく」
「喬様、喬家の奥方様から来た手紙にあった鳳卿が五旦那様の私生児というのは本当ですか?」
「私はとっくに疑ってた。旦那様は放蕩な人ではないわ。落胤なんて居る筈がない。母上の話は恐らく本当よ」
「では何故そのことを丹陽県主に教えたのですか?利があるとは思えませんが?県主は感謝したりしませんよ」
「奥様は西誇院の階段を修繕させたばかりでしょ?階段はまだ乾いてない。丹陽は身重よ。大雨の後だし、衝動的になって、何かあったら・・すべては奥様の責任、、くく、十一娘の今後の生活は安らかさとは無縁ね・・くくく」
「ふふふ…」
二人は喉の奥で笑いあった。
二人は喉の奥で笑いあった。
丹陽の動揺と怒りは頂点に達していた。
西誇院の門をくぐると、明るい日差しのもと冬青と幼い男の子が球遊びをしているのが見えた。
西誇院の門をくぐると、明るい日差しのもと冬青と幼い男の子が球遊びをしているのが見えた。
大夫人が任じた黄乳母が傍で見守っている。
その平和な光景さえ何もかもが自分の関知しないところで行われていたのかと思うと腹が立った。
冬青が血相を変えた丹陽に気付いた。
丹陽は男の子に近づくとその手首を乱暴に掴んだ。冬青が驚いて「五奥様、何をなさいますか」と抗議した。
丹陽は震える指で鳳卿を指した。
「こ、、この子が鳳卿?」そう言うと鳳卿の顎をぐいと持って自分の方を向かせた。
「石乳母」丹陽県主は激しく胸を上下させながら乳母に尋ねた「誰に似てると思う?」
「奥様、落ち着いて下さい」
鳳卿は丹陽の手を逃れるとすばしこく西誇院に逃げ込んだ。
「待ちなさい!」「奥様!」
騒ぎの中、鳳卿一人を全員が追う形になった。
その時だった。
丹陽が踏んだ階段の敷石が外れ、丹陽は後方に転倒した。
あわやと言う瞬間、十一娘が丹陽の手首を掴み、クルリと丹陽の身体の下に自分の身を投げ出した。
その平和な光景さえ何もかもが自分の関知しないところで行われていたのかと思うと腹が立った。
冬青が血相を変えた丹陽に気付いた。
丹陽は男の子に近づくとその手首を乱暴に掴んだ。冬青が驚いて「五奥様、何をなさいますか」と抗議した。
丹陽は震える指で鳳卿を指した。
「こ、、この子が鳳卿?」そう言うと鳳卿の顎をぐいと持って自分の方を向かせた。
「石乳母」丹陽県主は激しく胸を上下させながら乳母に尋ねた「誰に似てると思う?」
「奥様、落ち着いて下さい」
鳳卿は丹陽の手を逃れるとすばしこく西誇院に逃げ込んだ。
「待ちなさい!」「奥様!」
騒ぎの中、鳳卿一人を全員が追う形になった。
その時だった。
丹陽が踏んだ階段の敷石が外れ、丹陽は後方に転倒した。
あわやと言う瞬間、十一娘が丹陽の手首を掴み、クルリと丹陽の身体の下に自分の身を投げ出した。
二人は地面に投げ出されたが丹陽は十一娘の上に乗って衝撃は和らげられた。
丹陽は石乳母に、そして強かに腰を打った十一娘は冬青に抱き起こされた。
丹陽の重い身体を受け止めた十一娘は激しい痛みに顔をしかめながらも真っ先に丹陽の身体を案じた「大丈夫ですか!?」
身を起こした丹陽はさすがにきまりが悪くなり「大丈夫です」と答えるのが精一杯だった。
丹陽の重い身体を受け止めた十一娘は激しい痛みに顔をしかめながらも真っ先に丹陽の身体を案じた「大丈夫ですか!?」
身を起こした丹陽はさすがにきまりが悪くなり「大丈夫です」と答えるのが精一杯だった。
