夜の半月畔、冬青が玄関で手持ちぶさたにしている。夜も更けて来たのに奥様が入ったきり出てこない。後から旦那様が帰って来たがお呼びが掛からない。
照影は「冬青さんが居るのなら、私はお先に失礼します」とちゃっかり下がってしまった。
奥様はもしかして旦那様と・・。
下がろうかどうしようか迷っていると、向こうから臨波がやって来た。
臨波と冬青は、拉致事件から奥様と旦那様を通して頻繁に出会う仲になっていた。
臨波は冬青を気の強いお転婆と思っているので係わり合いになるまいと逃げようとしたが見つかって手招きされてしまった。
「何をしてる?」
冬青は「シーーっ」と唇の前で人差し指を立てると奥を指指した。
奥様が来て中にいるのだな「一人か?照影は?」
「照影さんは先に下がりました」
次は臨波が聞かれた。
「こんな時間に何しに来たんですか?」
「何しにって、いちいちお前に報告する必要あるか?」
「聞いてみただけです。傳副将は奥様より格好つけますよね」
臨波はこの子には口では敵わないなと思って恨めしそうな顔になった。
照影は「冬青さんが居るのなら、私はお先に失礼します」とちゃっかり下がってしまった。
奥様はもしかして旦那様と・・。
下がろうかどうしようか迷っていると、向こうから臨波がやって来た。
臨波と冬青は、拉致事件から奥様と旦那様を通して頻繁に出会う仲になっていた。
臨波は冬青を気の強いお転婆と思っているので係わり合いになるまいと逃げようとしたが見つかって手招きされてしまった。
「何をしてる?」
冬青は「シーーっ」と唇の前で人差し指を立てると奥を指指した。
奥様が来て中にいるのだな「一人か?照影は?」
「照影さんは先に下がりました」
次は臨波が聞かれた。
「こんな時間に何しに来たんですか?」
「何しにって、いちいちお前に報告する必要あるか?」
「聞いてみただけです。傳副将は奥様より格好つけますよね」
臨波はこの子には口では敵わないなと思って恨めしそうな顔になった。
おまけに格好つけたはいいが急にお腹がグウッと鳴ってしまった。そういえば急いで来たので夕飯を食べそこねた。
「お腹が空いてるんですか?・・奥様に用意した点心があるので食べます?」
「お腹が空いてるんですか?・・奥様に用意した点心があるので食べます?」
候爵に報告しようとしたが奥様とのひとときを邪魔する訳にもいかない。
臨波は結局報告は明日の朝にすることにして、欄干に座り有り難くその点心を頂く事にした。
「桂華餅と言って奥様の大好物です。美味しいよ」
「桂華餅と言って奥様の大好物です。美味しいよ」
奥様の故郷は蘇州だったな。
冬青は親切に茶も注いでくれた。
その白い点心を口に入れると上品な甘さが口いっぱいに広がって金木犀の花の香りが鼻腔をくすぐった。
隣から「美味しい?」と首を傾けて覗き込んだ冬青の顔が不覚にも可愛らしく見えてしまった。
冬青は親切に茶も注いでくれた。
その白い点心を口に入れると上品な甘さが口いっぱいに広がって金木犀の花の香りが鼻腔をくすぐった。
隣から「美味しい?」と首を傾けて覗き込んだ冬青の顔が不覚にも可愛らしく見えてしまった。
臨波は動揺してうっかりむせてしまった。
「大丈夫?ゆっくり食べなさいよ」
茶を奨めながら背中をさすってくれたのだが、乱暴にしたのでまたむせてしまった。
「大丈夫?ゆっくり食べなさいよ」
茶を奨めながら背中をさすってくれたのだが、乱暴にしたのでまたむせてしまった。
翌朝、
十一娘は令宣の寝台で目が覚めた。
彼女は令宣に抱かれていた。
十一娘は令宣の寝台で目が覚めた。
彼女は令宣に抱かれていた。
二人はぴったりと寄り添って寝ていた。
朝のひんやりした空気と心地良い温かさの中で小鳥のさえずりを聴く。
間近に令宣の息遣いが聴こえた。
いつの間に寝たのか記憶がない。
寝起きの頭に衝撃が走った(やばいやばい。こんな筈では。とにかく彼の腕を外さなきゃ)
そっと彼の腕を外して身体を起こすと、令宣の目が自然に開いた。
「まだ寝ていたらどうだ」令宣は眠そうに薄目を開けて言った。
十一娘は「いえ、義母上にご挨拶に行かなければ。遅れてはいけません」とこの甘ったるい雰囲気を壊すように殊更に堅苦しく言い、髪を整え小さな銀のかんざしを刺し直した。
小振りな銀のかんざしに目を留めた令宣は眠そうな目ををさらに細めて言った。
「その銀のかんざし・・地味すぎないか?」
令宣は常々十一娘の装いについて質素だと思っていたのでつい口から出てしまった。
朝のひんやりした空気と心地良い温かさの中で小鳥のさえずりを聴く。
間近に令宣の息遣いが聴こえた。
いつの間に寝たのか記憶がない。
寝起きの頭に衝撃が走った(やばいやばい。こんな筈では。とにかく彼の腕を外さなきゃ)
そっと彼の腕を外して身体を起こすと、令宣の目が自然に開いた。
「まだ寝ていたらどうだ」令宣は眠そうに薄目を開けて言った。
十一娘は「いえ、義母上にご挨拶に行かなければ。遅れてはいけません」とこの甘ったるい雰囲気を壊すように殊更に堅苦しく言い、髪を整え小さな銀のかんざしを刺し直した。
小振りな銀のかんざしに目を留めた令宣は眠そうな目ををさらに細めて言った。
「その銀のかんざし・・地味すぎないか?」
令宣は常々十一娘の装いについて質素だと思っていたのでつい口から出てしまった。
彼女の若々しい清楚な装いを令宣も気に入っているが正室らしいきらびやかさに欠けると言えば欠ける。
そういえば彼女は恩寵の錦にもこだわりを見せなかった。
「前は玉のかんざしを気にいって使っていましたが失くしたので適当にこれを刺しています」
令宣が女性の身なりを気にかけるとは意外だった。
令宣が女性の身なりを気にかけるとは意外だった。
案外、細かいところに気がつくのね、と十一娘は感心した。
初夜の晩に照れずにしきたり通りかんざしを外してくれたのは令宣だった。人から大将軍と畏れられる武人なのに本来繊細な感性の人なのだと気づいた。
「旦那様はまだ起きませんか?」
「旦那様はまだ起きませんか?」
令宣は仰向けになって「もう少し寝ていたい」と目を閉じた。
十一娘は寝台の奥に居るので令宣が寝ていると降りられない。
乗り越えようとすると身体の向きを変えたり足を上げたり邪魔をされた。わざとやって喜んで居る。
十一娘は子供のように悪戯する令宣に呆れた。
やっと令宣も起き上がり、十一娘は令宣の着替えを手伝う。
「姨娘達を鳳卿に会わせました。旦那様は誰に任せるお積りですか?」
「喬姨娘はダメだ。彼女は自分の事ばかりで小守りなんて出来ない」
「では、秦姨娘は?」
「秦姨娘は確かに本気で鳳卿を可愛いがってるようだ。しかし、鳳卿は外で生まれたから未だに読み書きを学んでいない。秦姨娘は元侍女の身の上で浅学だからな。鳳卿を教育するには無理があるだろう」
「実を言うと、ニ義姉上は鳳卿を気にいっているようですし鳳卿に細々と気を遣ってらっしゃいます。それにニ義姉上は独り身です。旦那様、ニ義姉上に任せる事を考えたらいかがでしょう」
「諭が生まれた時、義姉上は自分の子を亡くしたばかりだった。母上は義姉上を慰めようと諭を彼女の養子にしようとしたが義姉上は断っている」
「どうしてですか?」
「義姉上は謙の死を自分のせいだと思っている」
「道理で・・」
義姉の我が子の死を受け入れられず自分を責め続けている苦しい胸のうちを思った。
嫁に来た当初、義姉は言った
「姨娘達を鳳卿に会わせました。旦那様は誰に任せるお積りですか?」
「喬姨娘はダメだ。彼女は自分の事ばかりで小守りなんて出来ない」
「では、秦姨娘は?」
「秦姨娘は確かに本気で鳳卿を可愛いがってるようだ。しかし、鳳卿は外で生まれたから未だに読み書きを学んでいない。秦姨娘は元侍女の身の上で浅学だからな。鳳卿を教育するには無理があるだろう」
「実を言うと、ニ義姉上は鳳卿を気にいっているようですし鳳卿に細々と気を遣ってらっしゃいます。それにニ義姉上は独り身です。旦那様、ニ義姉上に任せる事を考えたらいかがでしょう」
「諭が生まれた時、義姉上は自分の子を亡くしたばかりだった。母上は義姉上を慰めようと諭を彼女の養子にしようとしたが義姉上は断っている」
「どうしてですか?」
「義姉上は謙の死を自分のせいだと思っている」
「道理で・・」
義姉の我が子の死を受け入れられず自分を責め続けている苦しい胸のうちを思った。
嫁に来た当初、義姉は言った
「亡くなった者は永遠に去ったのだから貴女は未来を生きなさいね」
あの語りかけは、義姉の自分自身への言葉でもあったのだ、と今気付かされた。
「・・・」
「?」
急に令宣が黙って彼女を見るので何かと思ったら、最後に腰帯を巻いて終わりなのにうっかりとしていたので催促の視線だった。
革と玉で出来た立派な帯を令宣の逞しい腰に締める。
「・・・」
「?」
急に令宣が黙って彼女を見るので何かと思ったら、最後に腰帯を巻いて終わりなのにうっかりとしていたので催促の視線だった。
革と玉で出来た立派な帯を令宣の逞しい腰に締める。
今回は恥ずかしからずに寄り添ってやり遂げたので令宣は満足げに笑った「進歩したな」
「他にご用がなければもう下がります」
「ああ」
「他にご用がなければもう下がります」
「ああ」
秦姨娘は鳳卿の服を縫っていた。侍女が覗き込んで褒めた。
「秦姨娘の作るお衣装は綺麗ですね。鳳卿もきっと気に入りますよ」
更に昨日の出来事で「あれで喬姨娘が選ばれる事はありませんね。この役を担えるのは秦姨娘しかいませんよ」と褒めあげた。
秦姨娘も内心自分に決まるのではないかと言う気持ちに傾いていた。
部屋ももっと子供が喜ぶように明るい飾り付けにしたい。玩具を用意したい。
そうした期待に胸は膨らんでいた。
「秦姨娘の作るお衣装は綺麗ですね。鳳卿もきっと気に入りますよ」
更に昨日の出来事で「あれで喬姨娘が選ばれる事はありませんね。この役を担えるのは秦姨娘しかいませんよ」と褒めあげた。
秦姨娘も内心自分に決まるのではないかと言う気持ちに傾いていた。
部屋ももっと子供が喜ぶように明るい飾り付けにしたい。玩具を用意したい。
そうした期待に胸は膨らんでいた。
鳳卿と黄乳母が竹薮の傍に居るのを、ニ義姉が通りすがりに出会った。
「鳳卿・・」
声を掛けても鳳卿は竹薮のほうをじっと眺めている。
「鳳卿?何を見ているの?」
鳳卿は黙って竹薮を指差す。
「鳳卿、そんなに竹が好きなの?」
「二奥様、鳳卿様はここへ来て竹を眺めるのがお好きなんですよ」
鳳卿はひとしきり眺めると満足したのか向こうへ走って行ってしまった。
黄乳母がその後を追いかけていった。
「鳳卿・・」
声を掛けても鳳卿は竹薮のほうをじっと眺めている。
「鳳卿?何を見ているの?」
鳳卿は黙って竹薮を指差す。
「鳳卿、そんなに竹が好きなの?」
「二奥様、鳳卿様はここへ来て竹を眺めるのがお好きなんですよ」
鳳卿はひとしきり眺めると満足したのか向こうへ走って行ってしまった。
黄乳母がその後を追いかけていった。
二義姉は自室へ戻ると夫の描いた掛け軸を見た。
夫、二旦那様は竹絵の名描き手だった。
侍女の夏香が近づいて来た。
「奥様、鳳卿様の竹がお好きなところは二旦那様に似ていますね。それに奥様は鳳卿様と気が合いそうですし、いっそのこと」と言って目を臥せた。
「夏香、今後そんな事はもう口にしないで・・」
夫、二旦那様は竹絵の名描き手だった。
侍女の夏香が近づいて来た。
「奥様、鳳卿様の竹がお好きなところは二旦那様に似ていますね。それに奥様は鳳卿様と気が合いそうですし、いっそのこと」と言って目を臥せた。
「夏香、今後そんな事はもう口にしないで・・」
令宣と令寛]
書斎で執務する令宣に照影が取り継いだ「旦那様、五旦那様が見えました」
「四兄上、お呼びですか?」令寛は緊張した顔で入って来た。
「座れ」
「四兄上・・」
「定南候にばれた」
「なんですって!義父上はどうして!?」
「月梅兄妹が既に定南候邸に送り込まれたのだ」
兄の言葉に五弟は絶望的な顔になった。
「恐らく鳳卿をここに送ったのも区家の手配だ」
「では四兄上、私はどうしたら?」
「そもそも非はこっちにあったぞ。お前から説明しに行く他ないだろ!悔い改めてこそ定南候に赦して貰えるかも知れない」
「無理、無理、無理・・は~四兄上、兄上も義父上のあの性格を知っているでしょう!行ったら殺されますよ」
「今更とやかく言っても後の祭りだ。今度こそしっかり自分で責任をとれ」
「四兄上、ほんとに死ぬぞ!」
令宣は机を叩いて怒った。
「自分の責任から逃げるって言うのか!それでも徐家の男か!・・しかも家にお前を庇っておいたままじゃ、徐家は定南候に糾弾され放題だぞ!何を優先すべきか弁えろ!もう子供じゃないんだからな!」
令宣も激昂していたが令寛も激しい口調で抵抗した。
「私のことだから、放っておいてください!」
言い捨てるときびすを返して出て行った。
「徐令寛!待て!」
令宣は照影に向かって直ちに命じた「人をやってあいつを見張らせろ!自分の間違いを認めるまで何処へも行かせるな!」
「はい、旦那様」
令宣は暫く息が荒くなる程憤りが収まらなかった。
書斎で執務する令宣に照影が取り継いだ「旦那様、五旦那様が見えました」
「四兄上、お呼びですか?」令寛は緊張した顔で入って来た。
「座れ」
「四兄上・・」
「定南候にばれた」
「なんですって!義父上はどうして!?」
「月梅兄妹が既に定南候邸に送り込まれたのだ」
兄の言葉に五弟は絶望的な顔になった。
「恐らく鳳卿をここに送ったのも区家の手配だ」
「では四兄上、私はどうしたら?」
「そもそも非はこっちにあったぞ。お前から説明しに行く他ないだろ!悔い改めてこそ定南候に赦して貰えるかも知れない」
「無理、無理、無理・・は~四兄上、兄上も義父上のあの性格を知っているでしょう!行ったら殺されますよ」
「今更とやかく言っても後の祭りだ。今度こそしっかり自分で責任をとれ」
「四兄上、ほんとに死ぬぞ!」
令宣は机を叩いて怒った。
「自分の責任から逃げるって言うのか!それでも徐家の男か!・・しかも家にお前を庇っておいたままじゃ、徐家は定南候に糾弾され放題だぞ!何を優先すべきか弁えろ!もう子供じゃないんだからな!」
令宣も激昂していたが令寛も激しい口調で抵抗した。
「私のことだから、放っておいてください!」
言い捨てるときびすを返して出て行った。
「徐令寛!待て!」
令宣は照影に向かって直ちに命じた「人をやってあいつを見張らせろ!自分の間違いを認めるまで何処へも行かせるな!」
「はい、旦那様」
令宣は暫く息が荒くなる程憤りが収まらなかった。
「旦那様」
暫しの後、十一娘が徳利と杯を載せた盆を持って書斎に現れた。
「厨房で新しく出来た梅の酒です。持って来ました」
注ぐと令宣に手渡した「どうぞ」
令宣は最初の一杯をぐいと飲み干した。
「五義弟を軟禁したそうですが、何か重大な事でも起こりましたか?」
「鳳卿は五弟の子供だと定南候に知られてしまった。定南候邸に行って過ちを認めろと言ったが怖じけて言う事を聞かない。あんなに軟弱じゃこの先何も任せられないじゃないか」
まだ憤りが鎮まらない令宣だったが杯を持って一旦椅子に座った。
十一娘も向かい合って座った。
暫しの後、十一娘が徳利と杯を載せた盆を持って書斎に現れた。
「厨房で新しく出来た梅の酒です。持って来ました」
注ぐと令宣に手渡した「どうぞ」
令宣は最初の一杯をぐいと飲み干した。
「五義弟を軟禁したそうですが、何か重大な事でも起こりましたか?」
「鳳卿は五弟の子供だと定南候に知られてしまった。定南候邸に行って過ちを認めろと言ったが怖じけて言う事を聞かない。あんなに軟弱じゃこの先何も任せられないじゃないか」
まだ憤りが鎮まらない令宣だったが杯を持って一旦椅子に座った。
十一娘も向かい合って座った。
「五義弟は旦那様ほど文武両道ではありませんが、親孝行で旦那様を尊敬しています。妻を守って、使用人達にも優しく接しています。いいところならいくらでも有りますよ」
令宣はひとつため息を吐き出すと言った「性根のいい奴だからな・・・悪い癖はあるが道理は一応弁えている。・・子供の頃はよく私の後をついて回っていた。」令宣は少しづつ落ち着きを取り戻し以前の弟を思い起こしていた。
「間違いを仕出かした時には母上に叱られるのが怖くていつも私を頼っていた」
十一娘はその微笑ましさに顔を綻ばせた。
「旦那様と五義弟にそんな過去があったなんて・・それならもっと仲がいいはずですが」
「私はずっと彼の事を分かっているつもりだった。だがいつの間にか我々の仲はこんなにも疎くなった。何を考えているのか全然分からなくなってしまった。こんな過ちを仕出かすとは・・」
「旦那様が五弟の事を知りたいなら五義弟に直接お聞きになったらいかがですか」
そう言い、杯にもう一杯梅の酒を注いだ。
「聞きに行っても答えてくれるかどうか・・」
「さっきのような恐い顔ですぐにでも説教しそうなら誰でも怖じけづきますよ。私が五義弟でも答えられませんよ。たとえ昔のように仲睦まじく出来なくても、ちゃんと落ち着いて五弟と話してみてもいいじゃありませんか」
そうだった。五弟は気のいい奴だ。一方的に叱りつけたのは私も悪かったかも知れない。
令宣はひとつため息を吐き出すと言った「性根のいい奴だからな・・・悪い癖はあるが道理は一応弁えている。・・子供の頃はよく私の後をついて回っていた。」令宣は少しづつ落ち着きを取り戻し以前の弟を思い起こしていた。
「間違いを仕出かした時には母上に叱られるのが怖くていつも私を頼っていた」
十一娘はその微笑ましさに顔を綻ばせた。
「旦那様と五義弟にそんな過去があったなんて・・それならもっと仲がいいはずですが」
「私はずっと彼の事を分かっているつもりだった。だがいつの間にか我々の仲はこんなにも疎くなった。何を考えているのか全然分からなくなってしまった。こんな過ちを仕出かすとは・・」
「旦那様が五弟の事を知りたいなら五義弟に直接お聞きになったらいかがですか」
そう言い、杯にもう一杯梅の酒を注いだ。
「聞きに行っても答えてくれるかどうか・・」
「さっきのような恐い顔ですぐにでも説教しそうなら誰でも怖じけづきますよ。私が五義弟でも答えられませんよ。たとえ昔のように仲睦まじく出来なくても、ちゃんと落ち着いて五弟と話してみてもいいじゃありませんか」
そうだった。五弟は気のいい奴だ。一方的に叱りつけたのは私も悪かったかも知れない。
十一娘と話しているうちに令宣は気持ちが鎮まり整って来るのを感じていた。
令宣は十一娘の注いでくれた香りの良い酒を今度はゆっくりと味わって飲んだ。
令宣は十一娘の注いでくれた香りの良い酒を今度はゆっくりと味わって飲んだ。
