「どうぞ?」
そう言って、蓮がカードキーを差し込んで玄関が開いてもキョーコの口は開いたままだった。
都内でも一等地に建っているマンション。ラグジュアリーな雰囲気を解き放っているそれは、キョーコの住んでいるアパートとは雲泥の差で、おそらく億ションと呼ばれる物のはず。
エレベーターに乗って連れてこられた蓮の部屋は、その億ションの最上階に位置し、ワンフロアー丸ごとを占有しているとの事で、会社で聞いた蓮の噂話はあながち間違いではないんじゃないかと、キョーコは秘かに思っていた。のだが、
「うん?俺の噂話って?」
「へ?」
急に蓮に問いかけられたキョーコは我に返った。
「さっきから、最上さんの口から心で思っていることが駄々洩れなんだけど?」
そう言って、蓮はクスクス笑っている。
心の中で思っていたのが、ついつい声に出してしまっていたのに気付いたキョーコは、慌てて自分の手で口を覆った。
「で?俺の噂話とやらを教えてくれる?」
「え・・・・・ええっとですね、それは・・・・言えません!!」
「ふうん?そんなに言えない事なんだ?」
蓮はにっこり笑ってるのに、何故かキョーコは背中に大量の冷や汗をかいているのが自分でも分かった。
「夜は長いんだ。復旧加減によったら明日もかもね。」
ま・・・・・まさか言える訳がないわ!!そのノーブルな雰囲気から、女子社員の間で敦賀さんが、どこかの大財閥の御曹司とか貴族のご落胤説が出回ってるなんて!!
「なるほど。俺は財閥の御曹司でも貴族の子息でもないけどね。」
またもや、キョーコは心の中で思っていた事を口に出していたらしい。
「俺は普通のサラリーマン家庭で育った、一般庶民なんだけどね。」
《一般庶民》・・・・・これほど蓮を形容するのにそぐわない言葉もあるもんだとキョーコは却って感心した。
「立ち話もなんだし、遠慮しないで入って?」
蓮に促されて、キョーコはおずおずと敦賀邸に足を踏み入れた。
「おじゃま・・・・・します。」
「今日、最上さんに泊まってもらう部屋へ案内するね。」
そう言って、先を歩く蓮に続いてキョーコも歩き出した。
「ここのゲストルームへどうぞ。」
ガチャリと開けられた部屋を覗いて、キョーコはあんぐりと口を開けた。
そこは、どこぞの高級ホテルなんだと突っ込みを入れたくなるような一見して高級な家具にフカフカのベッド。
「え・・・・っと、シュクハクリョウハ、イッパクオイクラデスカ?」
思わず片言の日本語で訊ねてしまったキョーコをだれも責めることは出来はしまい。
「大丈夫。タダだから。」
「こんなに立派な部屋にタダで泊めてもらう訳にはいかないので、一宿一飯のお礼に今日の夕ご飯と明日の朝ご飯を作らせて頂きます。」
「本当に?」
心なしか、蓮の声に嬉しそうな色が滲んでいる。
「はい。もし、ご迷惑でなければ明日のお弁当も‥‥。あ、明日は外回りに出られますか?」
営業職の蓮が打ち合わせを兼ねて食事をすることはキョーコもよく知っていたので、確認をすると、
「いや、明日は会社で事務仕事を片付ける予定だから、嬉しいよ。」
そう言って、蓮はキョーコが思わず目を逸らしてしまいたくなる程、神々しい笑みを浮かべた。
「あ、でも今冷蔵庫に何も入ってないんだよな。」
少々バツが悪そうに言う蓮に、キョーコは提案した。
「じゃぁ、この近くにスーパーはありませんか?今の時間なら、おそらくタイムセールのはずです。行ってきますね。」
今にも飛び出して行かんばかりのキョーコに、蓮は待ったをかけて一緒に買い物に行く事にした。
そして、連れて行かれた先で、キョーコは本気で卒倒するかと思った。
そこは、蓮のマンションの地下にあるスーパーで、肉でも野菜でもお値段が普通のスーパーの倍以上するのだ。
そして、値段を全く気にせず、商品を買い物籠にポイポイ入れる男が隣に一人。
これは、どこからどう考えても、普通のサラリーマン家庭で育った一般庶民の金銭感覚ではない。
キョーコは今晩無事に過ごすことができるのかと、人知れずため息をついた。
《つづく》
前後編で終わらなかった・・・・・
何某魔〇様の呪いが天に届いてしまったのか・・・←違う。
またまた台風25号なるものが来てるみたいですが、皆さんお気をつけあそばせ。
関西を影響が出る週末、またまた仕事なんだよなぁ。今回も職場にお泊り決定コースが濃厚で気が滅入る~。
それとも、職場の先輩方に教えてもらったラ△ホに行くかなぁ。女一人で・・・・(- -)