琴南奏江。高校2年生。
そのクールビューティっぷりから、上級生からも”お姉さま”呼ばわりされている。
演劇部に所属し、その演技力は高校生とは思えないほど高く、さらには台本を一瞬で読んで内容を全て覚えることが出来ると言う特技の持ち主でもある。
その実力と容姿を買われて、数ヶ所の芸能事務所からスカウトされているらしいと専らの評判である。
そんな奏江が、親友である最上キョーコを前に固まっていた。
「だからね、モー子さん。敦賀君に、『付き合って欲しい。』って言われたから、『どこへ?』って訊いたら、ものすごい顔で固まられちゃったの。どうしてだと思う?」
大真面目な顔をしてそんな事を訊くキョーコに奏江は、思わず脱力してしまった。
さすが学校内随一の鈍ちん娘である。
あれだけ、敦賀蓮に猛攻アプローチされているのに全く気付いていないとは!
もっとも、蓮と奏江がキョーコを巡り、火花を散らして睨み合っていても、 「敦賀君とモー子さん、仲が良いのね。」と暢気に笑っている性格なので、このやり取りはキョーコらしいと言えばキョーコらしいのだが。
ちなみに奏江が蓮に一方的に目の敵にされている理由は、キョーコの親友だからである。
そんなこと、奏江にしたら知ったこっちゃないのだが、恋する男からしたら心中穏やかでいられないらしい。
キョーコは中学校まで幼馴染のせいで苛められており、かつ友人がいなかったと言うのだ。
奏江は奏江でどちらかと言えば一匹狼タイプで、あまり友人らしき存在がキョーコと出会うまではいなかった。
高校で初めてキョーコと知り合い、何故かこれまた一方的にキョーコから好意を寄せられた奏江は最初こそ戸惑いを隠せなかった。
最初、キョーコとはなるべく距離を置いて付き合っていたのだが、キョーコはそんなこともお構いなしに、仔犬のように事あるごとに奏江にじゃれ付きに来るので、その度に𠮟り付けてきた。
そして、いつしかキョーコとのそんなやり取りが、奏江にとって心地良いものになってきたのだ。
そしてキョーコに恋する蓮としては、それが大変面白くないらしい。
部活の伝言をキョーコに伝えるだけでも蓮に睨まれる始末だ。
蓮の巷で流れている評判を知ってはいるが、奏江に言わせれば胡散臭いことこの上ない。
キョーコや奏江に対して見せる蓮の素顔は、伝説のスーパーウルトラ男子高生などではなく、ただの恋するヘタレな男子高生であり、嫉妬心を隠そうともしないただの男子高生にしか奏江には見えない。
「モー子さん、どうしたの?」
そこまで考えていると、黙り込んでしまった奏江を気遣うようにキョーコが覗き込んで来た。
「なんでもないわよ。それより、その”モー子さん”って呼び名やめてくれない?出ないと、未来永劫友人を止めるわよ!!」
「ええええええええ!?いや~!!」
至近距離でキョーコの悲鳴を聞いた奏江は、耳を押さえながらもひっそりと勝ち誇ったような目を後にいる蓮に向けた。
(ふふん!!ざまぁみなさい!!敦賀蓮。あなたの恋が成就しようがしまいが知ったこっちゃないけど、ようやくできた友人をあんたなんかに簡単に渡すものですか!!)
《おわり》