構造生物学: 転写複合体の停止状態と活性化状態の構造 | Just One of Those Things

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前回に引き続き、36号目のネイチャーのハイライトより。
 

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構造生物学: 転写複合体の停止状態と活性化状態の構造
Nature 560, 7720
2018年8月30日    

後生動物細胞での遺伝子の転写調節は主にプロモーターの近傍で起こり、そこでは、mRNAの伸長を行うRNAポリメラーゼII(Pol II)の停止や、停止の解除が能動的に制御されている。今週号に掲載された2つの論文で、P CramerたちはPol IIの停止、停止の解除および伸長活性化を再現できるin vitro系を、ヒト因子の組換え体を使って確立したことを報告している。1つ目の論文では、負の調節因子[NELF(negative elongation factor)およびDSIF(DRB sensitivity-inducing factor)]と結合し、停止した不活性な状態にあるPol IIのクライオ(極低温)電子顕微鏡構造が決定されている。2つ目の論文では、伸長複合体中の正の調節因子[DSIF、PAF1c(PAF1 complex)およびSPT6(suppressor of Ty6)]と結合し、停止が解除されて再活性化状態にあるPol IIのクライオ電子顕微鏡構造が報告されている。これら2つの構造の比較により、Pol IIの停止解除と活性化の機構の基盤が示され、PAF1cがPol IIとの結合に関してNELFと拮抗する仕組みや、P-TEFbによるリン酸化が活性化を引き起こす仕組み、SPT6が動員されてRNA合成につながる伸長が促進される仕組みについての手掛かりが得られた。

Article p.601
Article p.607
News & Views p.560
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構造生物学より、明らかになった転写の停止・再開の仕組みです。

DNAを転写するRNAポリメラーゼII酵素は、転写初期に停止し、再開のシグナルを待ちます。今回、高分解能の構造から、RNAポリメラーゼIIが停止し、その後効率よく再開される仕組みが明らかになりました。
 
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構造生物学:停止した転写複合体Pol II–DSIF–NELFの構造
Nature 560, 7720 |  Published: 2018年8月30日 |

後生動物の遺伝子調節には、プロモーターに近い領域でのRNAポリメラーゼII(Pol II)の停止が関わっていることが多い。停止したPol IIは、DSIF(DRB sensitivity-inducing factor)とNELF(negative elongation factor)というタンパク質複合体によって安定化される。今回我々は、ブタ(Sus scrofa)のPol IIとヒト(Homo sapiens)のDSIFおよびNELFを含む、停止した転写伸長複合体の3.2 Å分解能でのクライオ(極低温)電子顕微鏡構造を報告する。この構造から、傾いたDNA–RNAハイブリッドが明らかになった。これが基質であるヌクレオシド三リン酸の結合を妨げる。NELFはポリメラーゼの漏斗状のくぼみに結合し、可動性の2個のポリメラーゼモジュールを架橋し、引き金として働くループに接触することで、停止を解除するのに必要なPol IIの可動性を制限している。NELFはまた、停止に拮抗する転写伸長因子IIS(TFIIS)の結合を妨げる。その上、NELFには柔軟性のある2本の「触手」があって、これがDSIFや核外に出て行くRNAと接触することができる。これらの結果は、Pol IIの停止状態を明らかにし、プロモーター近傍領域での遺伝子調節にNELFが果たす役割を理解するための分子基盤を提供するものである。
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DSIF - Wikipedia(英文)
 
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構造生物学:活性化した転写複合体Pol II–DSIF–PAF–SPT6の構造
Nature 560, 7720 |  Published: 2018年8月30日 |

遺伝子調節には、RNAポリメラーゼII(Pol II)の活性化が関係しており、Pol IIが停止するとDSIF(DRB sensitivity-inducing factor)とNELF(negative elongation factor)というタンパク質複合体が結合する。今回我々は、in vitroでの活性化型Pol II伸長因子複合体の形成には、P-TEFb(positive transcription elongation factor b)のキナーゼ機能と伸長因子のPAF1複合体(PAF)およびSPT6が必要であることを示す。我々は、ブタ(Sus scrofa)のPol IIとヒト(Homo sapiens)のDSIF、PAFおよびSPT6からなる活性化型伸長複合体のクライオ(極低温)電子顕微鏡構造を3.1 Å分解能で決定し、Pol II、DSIFおよびNELFにより形成された停止状態の伸長複合体の構造と比較した。PAFは停止状態を解除するためにPol IIの漏斗状のくぼみからNELFを移動させる。P-TEFbは、C末端ドメインにつながるPol IIリンカーをリン酸化する。SPT6はリン酸化されたC末端ドメインリンカーへと結合し、DSIFが作っているRNAクランプ(留め金)を開く。これらの結果は、Pol IIの停止解除と伸長活性化の分子基盤を提供するものだ。
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非常に溜まりに溜まった恒例のネイチャー。次回は、天文学より、120億年前の星形成、を取り上げます。
 
 
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