がん遺伝学: 急性骨髄性白血病のリスクを予測 | Just One of Those Things

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Let's call the whole thing off

前回に引き続き、30号目のネイチャーのハイライトより。

 

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がん遺伝学: 急性骨髄性白血病のリスクを予測
Nature 559, 7714
2018年7月19日  

加齢に伴うクローン性造血は、まれではあるが急性骨髄性白血病に進行することがある。今回、高深度塩基配列解読法により、急性骨髄性白血病と診断される何年も前にそのリスクを決定するゲノム要因が突き止められた。変異の数やタイプが多いことに加え、バリアント対立遺伝子頻度が高いことなど、いくつかの特徴が急性骨髄性白血病への進行に関連していた。さらに、著者たちは、大規模な電子健康記録データベースを用いて、急性骨髄性白血病の発症に関連する臨床的特徴を探し出した。これを用いることで早期発見が可能になるかもしれない。

Letter p.400
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高深度塩基配列解読法は、国内には情報はないです。
 
「バリアント」とは、変型。変種同一種の生物集団の中に見られる遺伝子型の違い。同一種であっても個体によってさまざまな遺伝的変異が存在し、その変異の総体をバリアント(多様体)とよびます。遺伝子バリアント。遺伝的バリアント。遺伝子多様体。遺伝的多様体。
 
 
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がん遺伝学:健康な人における急性骨髄性白血病のリスク予測
Nature 559, 7714 |  Published: 2018年7月19日 |

急性骨髄性白血病(AML)の発生率は加齢とともに上昇し、また65歳以降に診断された場合の死亡率は90%を超える。ほとんどの症例は、検出可能な初期症状を全く示さずに発症し、患者は通常、骨髄不全の急性合併症を示す。このようなde novoのAML症例が現れる前には、前白血病性の造血幹・前駆細胞(HSPC)で体細胞変異が蓄積し、クローン性増殖が起こることが多い。しかし、AMLを発症しない健康な人でも、頻発するAML変異が加齢とともにHSPCに蓄積し、この現象は加齢に伴うクローン性造血(ARCH)と呼ばれている。今回我々は、高深度塩基配列解読法によりAMLにおいて変異が頻発する遺伝子を解析し、AMLの発症リスクが高い人と良性ARCHの人を識別した。我々は、前AML群の95人、およびこれと年齢や性別が対応する選択を行っていない414人(対照群)について、その末梢血細胞を解析した。前AML群ではAMLと診断される平均6.3年前に末梢血細胞が採取されている。前AML症例は対照群とは異なっていて、対照群よりも試料当たりの変異数が多く、バリアント対立遺伝子頻度が高いことから、クローン性増殖が増強されていることが示され、また、特定の遺伝子に変異が豊富に存在していることが分かった。遺伝的パラメーターを用いて、AMLの無病生存を正確に予測するモデルを導いた。このモデルは、29の前AML症例と262の対照例からなる独立した1コホートにおいて検証された。AMLはまれなため、我々は大規模な電子健康記録データベースを用いたAML予測モデルも開発し、リスクが高い人を突き止めた。総合的に我々の知見から、前AMLとARCHを悪性形質転換の何年も前に識別できる可能があるという概念実証が示された。これによって、将来的にAMLの早期発見と追跡が可能になり、治療介入の際に有用な情報となるかもしれない。
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こんなところでよろしいでしょうか?
 
バリアント対立遺伝子頻度に関する論文がネイチャーで過去に発表されているので、下記に示します。
 
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遺伝学:希少なコーディングバリアントおよび低頻度のコーディングバリアントが成人の身長を変化させる
Nature 542, 7640 |  Published: 2017年2月9日 |

身長は遺伝的要因が大きく影響する典型的なポリジーン形質であり、ゲノム規模関連研究から、これまでに約700のありふれた関連バリアントが見つかっている。今回我々は、マイナー対立遺伝子頻度が低く(0.1~4.8%)、身長への影響が対立遺伝子当たり最大2 cmと大きい(特にIHH、STC2、ARおよびCRISPLD2などで大きい)、83の身長関連コーディングバリアントについて報告する。最大2 cmという影響の大きさは、ありふれたバリアントによる平均的な影響の10倍以上である。機能の追跡研究により、STC2の希少な身長増加対立遺伝子(対立遺伝子当たり1~2 cmの増加を与える)は、タンパク質分解によるPAPP-A(妊娠関連血漿タンパク質A)の阻害を妨げ、in vitroでIGFBP-4(インスリン様増殖因子結合タンパク質4)の切断を促進することでインスリン様増殖因子の生物学的利用量を増加させることが分かった。これら83の身長関連バリアントは、単一遺伝子性の成長障害で変異している遺伝子と重複しており、これらのバリアントからはまた、成長に関連する新たな生物学的候補遺伝子(ADAMTS3、IL11RAおよびNOX4など)や生物学的経路(プロテオグリカン合成経路、グリコサミノグリカン合成経路など)が明らかになった。今回の結果は、標本サイズが十分に大きければ、ヒトのポリジーン形質に関連する影響が中程度から大規模の希少なバリアントや低頻度のバリアントを見つけ出すことが可能であること、そしてこれらのバリアントからは形質に関連する遺伝子や経路が明らかになることを実証している。
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本論文に詳細が示されているので、こんなところでよろしいでしょうか?
 
次、クローン性造血について、ネイチャーの姉妹誌で発表されていたので示します。
 
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クローン性造血:クローン性造血を示す高齢健常者に頻発するTET2の体細胞変異
Nature Genetics 44, 11 |  Published: 2012年11月1日 |

加齢に伴って、造血幹細胞のクローン増殖により骨髄系細胞が増えたり、骨髄性悪性腫瘍のリスクが上昇したりすることが特徴的に観察される。このようなクローン性造血を呈し、X染色体不活性化解析によって不活化の偏りが判明している3人の高齢女性について、エキソーム塩基配列決定を行ったところ、TET2に体細胞変異を同定した。TET2変異が高頻度に起こるかどうかを調べたところ、X染色体の不活性化に偏りがある182人のうち10人にTET2変異が認められた。TET2変異は、クローン性造血が観察されるが造血腫瘍ではない個体に特有な変異であり、DNAメチル化を変化させていた。
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既に参考文献を添付しているので、これでよしとしましょうかね。
 
溜まりに溜まった恒例のネイチャー、次回は、分子生物学より、PINK1とparkinの関係についての最新事情、を取り上げます。常染色体劣性若年性パーキンソン症候群の患者の方に関連する論文です。
 
台風情報は前の記事(下の記事)をご覧ください。申し訳なく、まわりきれてないので、今日こそは・・・。まわりきりたいです・・・。
 
 
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