神経科学: エネルギーバランスにおけるレプチンの役割の背後にある脳回路 | Just One of Those Things

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昨日に引き続き、17号目のネイチャーのハイライトより。

 

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神経科学: エネルギーバランスにおけるレプチンの役割の背後にある脳回路
Nature 556, 7702
2018年4月26日 


脂肪組織から分泌されるホルモンであるレプチンは、脳の視床下部弓状核内の受容体に働き掛けることで、食欲やグルコースバランス、体重を調節している。弓状核の2種類のニューロンが、レプチンに応答することが知られており、それらは、アグーチ関連ペプチド(AGRP)ニューロンと、プロオピオメラノコルチン(POMC)ニューロンである。マウスで遺伝的にレプチンかその受容体(LEPR)を除去すると、重度の早発性肥満と糖尿病を引き起こす。しかし、AGRPおよび/あるいはPOMCニューロンでLEPRを欠失したマウスでは代謝異常は中程度であることが、この分野の研究者たちを何年にもわたって悩ませてきた。D Kongたちは今回、脳のどのニューロンがレプチンの作用に関与しているのかという長年の疑問を再検討した。彼らはCRISPR–Cas遺伝子編集により、成体マウスのAGRPあるいはPOMCニューロンでLepr遺伝子を不活性化し、LEPRを全身で欠失したマウスで見られる重度の肥満と糖尿病は、AGRPニューロンにおけるレプチンシグナルの欠失によって再現されるが、POMCニューロンでの欠失では再現されないことを示している。レプチン入力がないことによるAGRPの脱抑制を化学遺伝学的に抑制すると、マウスの食餌摂取やグルコースレベルが正常化したことから、弓状核のAGRPニューロンが一次レプチン応答ニューロンであるとする説のさらなる裏付けが得られた。


Letter p.505
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今回は、重度の肥満と糖尿病に関連する論文です。

 

 

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神経科学:エネルギー恒常性とグルコース恒常性のレプチン神経回路の遺伝的特定

Nature 556, 7702 |  Published:  2018年4月26日  |


レプチンは白色脂肪組織で産生されるホルモンで、脳におけるその役割は、栄養状態を伝達し、食後に食欲を抑制し、エネルギー消費を促進し、血糖の安定性を維持することである。レプチンあるいはその受容体(LEPR)の調節異常は、重度の肥満や糖尿病を引き起こす。レプチンの集中的な研究は、肥満や糖尿病の研究を一変させたが、この分子の臨床応用はまだ限られており、少なくともその理由の一部は、その根底にある神経回路が複雑で完全には理解されていないことにある。アグーチ関連ペプチド(AGRP)とプロオピオメラノコルチン(POMC)を発現する視床下部のニューロンは、主要な一次レプチン応答ニューロンだと考えられている。しかし、Cre–loxP系によりこれらのニューロンでLEPRを欠失させた以前の実験では、LEPRを欠失したLeprdb/dbマウスで見られる肥満や糖尿病を再現することができず、あるいは再現できたとしてもごくわずかであったため、AGRPやPOMCニューロンはin vivoでのレプチンの作用に直接必要でないことが示唆された。そのため、レプチンの主要な神経標的は、まだ不明である。本研究では、ストレプトゾトシン誘導性肥満マウスでレプチン応答ニューロンを体系的かつ偏りなく探索し、CRIPSR–Cas9によりin vivoでLEPRの遺伝的除去を行った。意外にも、エネルギーバランスとグルコース恒常性の調節を行うレプチンの一次作用にAGRPニューロンは必要であったが、POMCニューロンは必要ではなかった。レプチンの欠如はAGRPニューロンを脱抑制し、これらのニューロンを化学遺伝学的に抑制すると、糖尿病性過食症と高血糖症の両方が改善した。以前の研究とははっきりと対照的に、AGRPニューロンでのCRISPRによるLEPRの欠失は、重度の肥満と糖尿病を引き起こし、Leprdb/dbマウスの表現型を正確に再現することを示す。また、レプチンによるAGRPニューロンの急性および慢性の抑制の分岐した機構も明らかにした[それぞれGABA(γアミノ酪酸)神経伝達のシナプス前増強と、ATP感受性カリウムチャネルのシナプス後活性化による]。我々の知見は、レプチンの神経生物学的作用と関連する代謝疾患の根本的な基盤を明らかにしている。

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レプチンについては、上記の論文に既に説明されていますが、参考に下記を取り上げます。

 

レプチン - Wikipedia

 

研究が進むことによって、重度の肥満と糖尿病の新たな治療法が見つかるかもしれません。

 

明日は、おそらく難しいであろう、構造生物学を取り上げます。

 

 

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