『摩利支天 』より。
摩利支天は、あらゆる困難を避け、退ける神です。
誰も見ることも、捕らえることもできず、したがって害されることもなく、どのような難からもまぬがれるという陽炎(かげろう)の神格化した神、それが摩利支天です。
インドでは陽炎や威光(いこう)という意味の「マリーチ」と呼ばれ、その音を写して摩利支天、あるいは摩利支天提婆と書かれます。
天女の姿で表されることもありますが、通常は6臂もしくは8臂の腕に、金剛杵や針、矢などの武器を持ち、猪の上に立っている姿である場合が多いです。
猪に乗っているのは、本性がつかみどころのない摩利支天が太陽の中に住む日天の前を、目にも止まらぬ速さで走ることに因んだものであると考えられています。
摩利支天がその力を加勢すれば、敵に覚られずに相手を襲い、また、自分は決して傷つくことはない、ということで、古来より武士が摩利支天を尊崇しました。
有名な楠木正成(くすのきまさしげ)も甲冑の中に摩利支天の像をしのばせ陰形の術をもって、敵を恐れさせたといいます。