病気になる前、週一回ある芸事を習いに行っていた。
そこでよく一緒のクラスになる二十代後半ぐらいのスウェーデン人女性と、ある夜帰り道が一緒になり、少し話をした。
彼女は私よりずっと年下だが、芸歴は私より二年ほど長いので先輩と呼ぼう。
現在私たちが習っている先生について、とてもリラックスしていて、なおかつ生徒のことをよく見ている、という意見で私たちは一致した。
先輩は三年ほど前その芸事を習うことを思い立ち、まずはストックホルムで一番受講料の安いスタディーサークル(カルチャーセンターみたいなところ)に入会したそうだ。
そのクラスの先生は中国人で、その芸事にかけてはプロなんだろうけれど、それだけに厳しく、生徒に大声で叫んだり、例は一回しかやって見せなかったり、彼女の教え方に先輩はとても不満だった。それから今のスクールに変わったのだが、ここでは満足して長く続けている。それはここの先生がとてもいいからだ、と言っていた。
私も今の先生はとてもいいと思うが、その中国人の先生の厳しさも理解できる。きっと彼女が中国でその芸事を始めた時、ずっとそうやって怒鳴られて習ってきたのだろうと思う。だからこそ根性がついて、芸も上達したといえないこともない。日本のスポ根漫画やドラマを思い返しても、いつも「苦しくったって、悲しくったって・・・・」の世界だった。
でもスウェーデンではそれは通用しない。
こちらでは、先生は怒らないこと。それがとても大事なのである。つまり先生は相当な忍耐力を必要とする(笑)
私の娘は小さいころ、ロシア人の先生にピアノを習っていたが、この先生がスパルタ式で、ちょっとでも間違えるとすぐ怒鳴っていた。日本にいるとき怒鳴られる教育に慣れていた私ですら、ちょっとハラハラすることもあった。根っからのスウェーデン人である娘はもちろんピアノが大嫌いになり、辞めてしまった。後悔はまったくしていない。
私は先輩に、「日本でもそんな教え方は伝統的にある。厳しく基礎を叩きこむことで早く上達させようという意図があるのだ」、と説明した。しかし先輩は
「私は賛成できない。怒鳴られると緊張して、ますます覚えられなくなるものよ。私は今の先生についてからの方が、だいぶ上達したと思うわ」
と断言した。
私は自分の学生時代を思い出した。野球部員は走れなくなるから水泳をしてはいけないとか、炎天下でも水を飲んではいけないとか、今から思うとばかばかしい決まりがあったものだ。
だいたい先生が怒って上達するような人は怒らなくても上達するものではなかろうか。
それに前の投稿にも書いたけれど、仕事や学業の後、あくまで趣味でやる芸事に厳しさはそんなに必要だとは思えない。
いい悪いの議論は別として、とにかくこちらの教育では、怒鳴ったり皮肉を言ったりするのは厳禁なのだ。それが、私がこちらの学校を経験してわかったことである。でも外国人(ここでは 非スウェーデン人)の中には、「先生イコール厳しいもの」と信じている人も多いんだよなあ。
「エキゾチックな魅力に華を」 制作秘話?を書きました → http://fanblogs.jp/kuriharasayoko/