(仮)アホを自覚し努力を続ける! -9ページ目

(仮)アホを自覚し努力を続ける!

アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

〈男らしく働く〉ことのジレンマ
齋藤 圭介(武蔵大学非常勤講師)


2.過労死をめぐる論点

 過労死を防止しようという動きは、遺族を中心に国会を動かし、超党派議員立法として2014年6月20日に「過労死等防止対策推進法」として結実した。この法律は過労死防止法と略称される。関係者の尽力が実を結んだ結果であり、過労死についての先駆的な著作である『過労自殺』を著した川人博が指摘しているように、「過労死を防止するために国を挙げて取り組むことを定めた法律の制定は、働く者のいのちと健康を守るうえで歴史的な意義をもつもの」(川人 2014:267)と評価できる。

 他方、現在でも引き続き大きな論争となっているように、いわゆる「高度プロフェッショナル制度」創設の議論がある。これは「時間でなく、成果で評価される働き方を希望する労働者のニーズ」に応えるというものだ(厚生労働省 2015:8)。対象者をはじめいくつかの限定があるとはいえ、長時間労働に歯止めをかけようという世の中の流れとは逆行するものだとの危惧も一部にはある。こちらは過労死防止法との対比で、皮肉を込めて過労死促進法と批判的に呼ばれることもある。

 では、実際日本の労働者はどのくらい働いており(⇒3.1)、その結果として過労死は現実にどの程度生じているのだろうか(⇒3. 2と3.3)、そして、過労死の主要因であろう長時間労働は誰がしているのか(⇒3.4)。またなぜ長時間労働へと労働者は駆り立てられ(⇒4)、そうした働き方をやめることができないのか(⇒5)。

 過労死・過労自殺と男らしさの問題を、長時間労働のデータから考えていきたい。
〈男らしく働く〉ことのジレンマ
齋藤 圭介(武蔵大学非常勤講師)


1.過労死の定義

 過労死が日本の労働現場で大きな話題となったのは1970年代後半から80年代にかけてである。過労死は、厳密にいえば、確立した定義があるわけではない。通常は、厚生労働省労働基準局(2002)による次の定義が参照される。過労死とは「過度な労働負担が誘因となって、高血圧や動脈硬化などの基礎疾患が悪化し、脳血管疾患や虚血性心疾患、急性心不全などを発症し、永久的労働不能または死に至った状態」を指す。

 このように、一般的に過労死は〈過労が原因で死亡する〉ことを意味するが、死亡に至る経路には主に2通りある。1つは、〈過労による脳・心臓疾患〉を原因とする(狭義の)過労死であり、もう1つは、過労が原因のストレスによる過労自殺である。

 どちらの過労死も、長時間労働と分かちがたく結びついている。国際的にみても、日本は長時間労働とその結果の過労死が多いことは常に指摘されてきた。過労死の英訳にKaroushiがあてられることからも分かるとおり、過労死は、日本社会特有の現象として理解されている。

 しかし少し考えてみれば分かるが、長時間労働等の文脈で、労災保険支給の対象になった死が遡及的に過労死と名付けられるので、労災保険の支給対象にならなければ長時間労働等が原因と思われる死も、通常の死のままである。つまり、過労死は医学的な用語というよりも、社会的な用語といえよう。過労死という死に方が予めあるわけではない。この意味で過労死は社会的に構築された死といえる。過労死の認定基準の度重なる変更は、過労死のこうした社会構築的な側面をあらわしている。何を過労死とみなすかは、私たちの定義如何にかかっているのであり、つまるところ適切な働き方を私たちがいかに考えているのか/いかに考えるべきなのか、という問題に行き着く。
いまなぜ男性学なのか~男性学・男性性研究から見えてきたこと~
田中 俊之(武蔵大学助教)


5. 男性内の多様性と不平等を前提とした議論を

 現代の日本社会では、夫婦と子ども二人から構成される「標準世帯」は、社会制度上の基本単位となっている。単なる制度の問題ではなく、私たちの意識の中に、「標準世帯」こそが「普通の家族」であるという固定観念が根付いてしまっている。しかし、ここまでの議論を踏まえれば、明らかにそうした発想は実態とずれている。

 ここでは雇用問題を取り上げたが、未婚化・晩婚化の進行という面からも、従来の家族像が通用しなくなっていることが分かる。男性の平均初婚年齢は、2007年に30歳を超える30.1歳を記録している。未婚率は、25歳から29歳の年齢層で、1995年に男性66.9%・女性48.0 %であったが、2010年には、男性69.2%・女性58.9%へと上昇した。30歳から34歳の年齢層では、1995年に男性37.3%・女性19.7%だった数字が、2010年でみると男性46.0%・女性33.9%にまで高まった。また、2010年で男性の生涯未婚率は20.1%となり、5人に1人という割合であった。

 いずれにしても、「フルタイム労働に従事しながら妻子を養う男性像」を「普通」と考えてしまえば、現実の男性の姿をとらえ損ねる。日本ではようやく「男性問題」への関心が高まってきたが、議論を実りあるものにするためにはmasculinitiesという視座が不可欠になる。

 単に男性の多様性に目を向けるだけではなく、とりわけ正規と非正規の間にある格差に象徴されるように、男性内に存在する不平等を直視しなければならない。

 最後に、男女問わず言えることだが、「性別にとらわれない多様な生き方」を実現するためには、どのような働き方をしても安心して暮らしていける雇用が必要であることを忘れてはならない。