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(仮)アホを自覚し努力を続ける!

アウグスティヌスの格言「己の実力が不充分であることを知る事が己の実力を充実させる」

〈男らしく働く〉ことのジレンマ
齋藤 圭介(武蔵大学非常勤講師)


 男性が稼ぐという規範(男性稼ぎ手モデル)を、男性本人はもとより、そうした男性のパートナーや家族、そして地域社会も共有している。男性は家族を養うべしという規範はいまだ根強く、その裏返しとして、この世代の男性が平日の昼間に家にいることへの社会的な眼は、いまだ厳しいものがあることも残念ながら事実である。

 自分だけの生活ならまだしも、「男らしく」会社を辞めるという選択肢もあろう。しかし、家族がいる場合、この世代の男性は、長時間労働をものともせず、また有給休暇を返上して仕事に邁進せざるをえない。自分だけが、こうした働き方から降りるわけにはいかない。長時間労働の働き方から1人だけ降りるのは、その個人にとっては非合理的な選択となるからだ。周りが出世競争をしているなかで、毎日定時に帰り、無理をしない働き方をしてしまえば、出世を望めないし、周りとの軋轢も生じるし、場合によってはリストラの対象にすらなるだろう。仕方がなく長時間労働を甘受せざるをえない。皆も心の底では長時間労働は嫌だし、もっと人間らしい生活を送りたいと思っているはずだ。しかし、皆がいっせいにそうした働き方を変えるならば大きな問題は生じないが、個人的選択として働き方を変えることは、その個人が不利益を被ることになり、その個人にとっては合理的な選択とはいえない。

 労働時間について、ワークライフバランスの観点からも社会的に合理的な解は長時間労働を皆がやめることだ。しかし、各個人の合理的な解は、長時間労働をやめないことだ。こうした現状から過労死・過労自殺が起こる。社会にとって合理的な解と、個人にとっての合理的な解が食い違うことを、社会学の分野では社会的ジレンマと呼ぶ。社会的ジレンマを解決する場合は、個人の行動の変革に期待することは難しい――周りが長時間労働を厭わず働くなかで、個人がいくら定時退社・有給休暇の取得促進をしても昇進や評価の点で不利益を受けるだけである。

 法制度、組織のトップダウンで長時間労働の規制を臆せず積極的に行うべきであろう。男女共同参画社会の旗印のもと、女性の社会進出と同時に――むしろより積極的に――、男性の家庭進出を促す方策を法制度の水準で整備することが急がれる。
〈男らしく働く〉ことのジレンマ
齋藤 圭介(武蔵大学非常勤講師)


 長時間労働は、長時間の時間外労働(ときとしてサービス残業)と少ない有給休暇の取得によってもたらされる。長時間労働を支えているのは、30代と40代の男性であった。この世代の男性の多くは、出世競争のさなかであり、社内評価が最も大切な時期でもある。多少の無理をしてでも仕事をし、自分の評価を上げたいと躍起になったとしても不思議ではない。また、仕事にやりがいを感じ始めるのもこの世代であろう。多少の部下もおり、大きなプロジェクトを任されているかもしれない。任された仕事をこなすことが本人の希望となっているかもしれない。さらに、子どもがいればお金がかかる年頃になっているケースも多く、かりに共働きだったとしても、パートナーは家庭を守り、自分は職場を主戦場とし、家族のために無理をすることもあろう。

 他方、まったく別の理由から長時間労働で働かざるを得ない経済状況の男性たちがいることも指摘しておくべきだろう。彼らはやりがいや責任感というより、ノルマやリストラへの怯えから長時間労働と休日返上で仕事をせざるをえない。雇用の不安定化の結果、文字通りの意味で働き蜂にならざるを得ない男性たちがいる。

 いずれも〈男らしさ〉という規範とは無縁ではない。責任感にせよ、リストラへの怯えにせよ、長時間労働を厭わない男性が多い職場では、当然、長時間労働を行い多くの業績を上げ社内で〈上に行く〉ことが目指される。いかなる男性もそうした競争をのんきに眺めているわけにはいかない。より稼ぐためあるいはリストラされないためにこのゲームに参加せずにはいられない。

〈男らしく働く〉ことのジレンマ
齋藤 圭介(武蔵大学非常勤講師)


3.1 労働時間と年次有給休暇の取得率


 厚生労働省(2014)の「毎月勤労統計調査」および「就労条件総合調査」を参考に、一般労働者の総実労働時間、パートタイム労働者比率、そして年次有給休暇の取得率を確認しておきたい(図1)。




 一般労働者の総実労働時間(左軸)は、平成21年には、前年秋の金融危機の影響で製造業を中心に下がったため、グラフ上でも特異な位置にあるが、全体的な傾向として大きな変化はなく、長時間労働は常態化している。同時に確認をしたいのは、パートタイム労働者比率(右軸)である。平成11年からの期間、右肩上がりで増え続けており、雇用の不安定化をあらわしている。他方、年次有給休暇の取得率(右軸)は、「常用労働者」から「パートタイム労働者」を除いた労働者が対象だが、平成11年を最後に軒並み5割を下回っている。


 こうした労働環境は、総じて、決して恵まれているとはいえない。適切な労働時間、適切な休暇、なにより正規雇用が望ましいのは世界的な共通認識だ。しかし残念ながら、恵まれた職場に皆が就職できるとは限らない。昨今、大きな話題となったブラック企業の存在や就職活動の厳しさをあわせて考えると、非常に過酷な職場にもしがみつき続けねばならない現実もある。その結果の1つが、過労死・過労自殺となって社会問題化している。


3.2 〈過労による脳・心臓疾患〉を原因とする死


 厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署による『脳・心臓疾患の労災認定――「過労死」と労災保険』によると、狭義の過労死は次のように定義される。「心筋梗塞などの『心疾患』、脳梗塞などの『脳血管疾患』については、その発症の基礎となる血管病変等が、主に加齢、食生活、生活環境などの日常生活による諸要因や遺伝等による要因により徐々に増悪して発症するものですが、仕事が主な原因で発症する場合もあります。これは『過労死』とも呼ばれます」(2頁)。平成11年度以降の脳・心臓疾患に関わる労災支給決定件数の推移は、図2(厚生労働省「過労死等に係る統計資料」より)のとおりである。




 4節でみるように、これまで〈過労による脳・心臓疾患〉は壮年男性に特徴的な疾患だと考えられてきた。しかし、最近は若年男性にとどまらず、女性も罹患するケースもある。



3. 3 〈過労自殺〉


 過労自殺と、脳・心臓疾患による過労死の違いは2点ある(川人 2014: 101)。1つは、「年齢は20歳前後の若者から60歳以上の高齢世代まで広範にひろがっているが、脳・心臓疾患に比べて、若い世代の被災事例の割合が多い」。もう1つは、「男女比では、男性の自殺例が多い」。つまり、過労死は若い世代の男性のケースが多いのが特徴である。平成11年度以降の精神障害に係る労災支給決定件数の推移は、図3(厚生労働省「過労死等に係る統計資料」より)のとおりである。





3.4 誰が長時間働いているのか?


 前節までで人数については概観できた。その詳細をさらに追ってみたい。長時間労働と性別・年代のクロス表を総務省「労働力調査」をもとに作成した(表1)。長時間労働者が、全雇用者に占める割合は10年前と比べたしかに減っているが、男性の30歳代が常にもっとも長時間労働をしていることがわかる。次いで、男性の40歳代である。30-40代の男性が過酷な長時間労働に駆り出されている現実がはっきりとわかる。




 また女性は軒並み低い値となっているが、多くの女性は家に帰っても家事が待ち構えている。徐々に性別役割分担についての意識は変わってきつつある。とはいえ、アンペイドワークやシャドウワークといわれる賃金が支払われるわけではない家事の労働時間を含めて考えると、決して女性は少ない労働時間であるとは一概にいえない。さらに興味深いのは、男女ともに全体として長時間労働は減少傾向にあるとはいえ、若年女性(20歳代)のみ、あまり変化がない。


 なるほど、たしかに女性は育児を含めた家事労働に多大な時間を費やしている。同時に忘れてはならないのは、そうした家事労働から解放されている(かのようにみえる)男性には、その分、家庭外(=職場)での労働が強く求められる。性別役割分担の考え方は、女性のみならず、男性にも荷重な負担を負わせていることは確認しておきたい。